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「エブエブ」を観てきた。

※登場人物の基本的な設定以外のネタバレは避けたつもりですが、気になるかもしれない方は、まず映画館でぜひ作品そのものをご覧ください。

 ミシェル・ヨー主演「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022年)」、通称「エブエブ」を観て、いろんなことを考えている。
 あの映画は、アメリカンドリームを成し得なかった、アジア系移民の家族の物語だ。

 中国から駆け落ちし、アメリカでコインランドリーを経営する夫婦に、国税局の監査が入る。アメリカで生まれ育った彼らの娘の母語は英語で、中国語を全然話すことができず、しかも彼女は女性のパートナーと交際している。
 非常に挑戦的というか、何という現代的な設定の物語なのだろうと驚きながら鑑賞した。この映画が世界的に大ヒットを記録しているという事実は、素敵なことだと思う。

 話題になっている昨今流行りのマルチバースも、想像していた描かれ方とは違い、作風が真新しかった。
 とにかく混沌として情報量が多い作品で、よくここまで脚本にまとめて映像化して編集して繋いで最後まで仕上がったなと、プロフェッショナルたちのお仕事のとんでもなさを感じる。作中でミシェル・ヨー扮するエヴリンのように、私も頭部をブンブンと振り回されるような感覚で観ていた。

 心にとても突き刺さったのは、アメリカンドリームを実現できず生活に追われ、離婚の危機にある夫婦という設定だ。母国を捨ててアメリカに来た移民が、経済的な大成功をつかむというような、サクセスストーリーではない。
 日常の延長線上にある物語は、これでもかとばかりに主人公が領収証の山と立ち向かい、税金との戦いのため国税局へと赴く。

 私はもうすぐ5歳になる男の子の母親で、夫は移民ではないけれど日本で暮らしている、いわゆる在留外国人だ。息子が話す言語は今のところ日本語のみで、夫の母語も英語も、話すことができない。
 私は、自分とエヴリン、娘のジョイと自分の息子、ウェイモンドと自分の夫を、それぞれ一人ずつ重ね、頭の中がもうカオスのようにいろいろなことを考えながら鑑賞した。2月にあわや離婚かと、夫と大きな喧嘩になったばかりだった。まさに家族の在り方を再構築しようと必死に足掻いているところに、この映画に出会った。

 実はこの映画、初めて私の両親に息子を預け、夫と二人で観に行った。行って本当によかったと思う。
 思った以上にクライマックスまで中国語音声が多く、もちろん日本語字幕のみなので漢字が大変苦手な夫が困惑するところは多々あったが、それでも彼が後から言っていた。「わからなかったけど、全編を英語にしないで中国語をしっかり使っているオリジナリティが良いと思う」……良いことを言うなあ。
 一方その会話をしているとき、私は涙をぼろぼろ流していた。作中で涙腺が決壊するまでのことはなかったし、ラストシーンのミシェルを観て「え?ここで終わり?」ともその瞬間は思ったけれど、とっ散らかった頭で放心してエンドロールを眺めながら座っていたら、身体中にドッと感情の洪水が押し寄せて、溢れる涙は滝の如し……。

 きれいごとな感想になってしまうけれど、エブエブのおかげで今一度、家族を大切にしよう、いまをもっと大事に生きていこうと、改めて思ったのでした。
 

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