見出し画像

闇祓 〜「あなたのために」という呪い  辻村深月 著


【闇祓】ヤミハラ
闇を振りまく人から、逃れること。彼らの闇を祓うこと。及び、それを生業にする人々の総称。


人の心の奥に、抗えない闇と死をもたらす者達。
学校や会社、近所の主婦同士のお付き合いなど、あらゆるコミュニティにおいて彼らは異端を感じさせることなく、自然に近寄って来る。

ふと思い出すのは、聖書のこの言葉。

『サタンでさえ光の天使を装う』

彼らは「あなたのためを思って」という親切な仲間のように人の心に入り込み、やがて自らの価値観を当たり前の正義として押し付けて来る。魅入られた者はそれを拒否することに罪悪感を感じるようになり、本来の自分を見失ってしまうことで心が壊れていく。

似たような経験はないだろうか。特に集団のコミュニティにおいて相手の価値観に振り回されて合わせてしまい、どこかおかしいと感じながらも機嫌を損なわないよう口をつぐむ。そんなふうに思う自分の方がおかしいのではないかと自身を責めてしまうこと。

しかし、この物語の本当の恐ろしさは誰もが被害者になりえると同時に加害者にもなりえる所なのかもしれない。

静謐な竹の香りと鈴の音が混ざり合う時、その穢れを祓う者が現れる。
他者の価値観の呪いからあなたを解き放つために。


悪意には目的がない。ただ、ある。
闇を振りまく、闇のハラスメントのようなことをする人たちがいる。
時代を経て、世代を超えて、その時々の誰かの性格や性質を取り込みながら..  
            〜『闇祓』より抜粋


辻村さんの描かれるコミュニティ、人々の心情は身近な日常のテーマであるだけにどう避けるのかが注目のラストになるのだが、その方法はたった一つだ。

そしてその方法こそ、偶然にも私が最近やっていたことだと納得した。最初は勇気がいるけれども、やってみればなぜ早くそうしなかったのかと思う。
呪いから解き放されたように心が落ち着き、客観的な目を持つようになる。自分に対しても相手に対しても。

辻村深月氏の作品は『かがみの孤城』や『凍りのくじら』などが有名だけれど、どれも人間の心情の奥底を抉り、言語化している。
作品の中には登場人物にリンクがあるため順番通りに読んだ方がより楽しめるものもあるが、『闇祓』は単独作品なので、未読の方はぜひ。

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,357件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?