アメリカのオンライン授業⑤ 『目的に沿った内容』という考え方
こんにちは。もう4月も終わりですね。わたしが教えているアメリカの大学も、春学期の三分の一が終わろうとしています。みんな少しずつオンライン授業に慣れてきた反面、緊張がとけたのか、疲れが見え隠れしている学生がでてきました。
前回は、コロナ禍でオンライン授業に移行するための3つの心得についてお話ししました。
今回は、分かりやすい授業を学生に届けるための方法について、具体的にお話をしていきたいと思います。普段の授業やプレゼンにも通じることなので、ぜひ、活用してみてください。
ステップ① 目的を明確にする
みなさんは、カリキュラムを組むとき、あるいは、授業の予定を立てるときに、まずは何を考えますか。
この教科書を読ませよう、この課題を出そう、このテストをしよう、この講義をしようと、まずは内容から決めていませんか。
そうしているうちに、取り入れたい内容がどんどん増えて、膨大なカリキュラムになったり、収拾がつかなくなってしまったなんてことは、よくあることだと思います。
カリキュラム、そして、個々の授業の構成を組むときに一番大切なのは、まずは、学生になにを学んでほしいのかを明確にするということです。
例えば、講座の一学期分のカリキュラムを組むとします。そのとき、まずは、学期をとおして学生に学んでほしいことを決めます。そうすると、それを達成するためには、それぞれの週に何を学べばいいのか、そして、どんな課題を出せばいいのかが、おのずと見えてきます。そして、何を省いても大丈夫かなど、内容の調整も楽になります。
とはいえ、ただ学習目的を決めるといっても、漠然としていて、分かりにくいと思うので、まずは学習過程を分かりやすくまとめた表を紹介します。
改訂版のブルームタキソノミーを使おう
学習目的を定めるにあたって役に立つのが、改訂版ブルーム・タキソノミー(bloom’s revised taxonomy)と呼ばれる、認知心理学や教育学の専門家が学ぶ過程を分類したものです。この分類法は、よく、以下のようなピラミッドで表されます。
この表は、基礎的な学習から、より発展した学習まで、段階を追って学生が学んでいく過程が分かりやすく示されています。各段階について、簡単に説明します。
知識:情報や概念を記憶し、想起できる。
理解:考え方や概念を説明できる。
応用:考え方や概念を、現実のケースに当てはめて考えることができる。
分析:情報を分析したり、比較することで、関係性を見し、理解を深めことができる。
評価:批判的に検証したり、実験的に考え、判断し、自らの立場を正当化できる。
創造:新たなアイディアや作品、考え方を作り出すことができる。
この表を使うことで、具体的に、学生の学びを深めるためには、どんな過程を踏めばいいのか、そして、何ができるようになったらそれぞれの学習目的を達成できたと言えるのかが、より明確になります。
ステップ② 学習目的にあった授業内容を考える
学習目的についての考え方が分かったところで、今度は、具体的に目的に合わせた授業内容を考えていきます。ひとえに学習目的と言っても、大学、学年、講座などによって様々だと思います。ここでは、わたしが教えている米大学の社会科学系セミナーを例にお話ししていきます。
まずは、シラバスを作る際に、学習目的を学生に分かりやすく提示します。わたしの場合は、大まかに「知識・理解」「応用・分析」「評価・創造」の3つに分けて提示しています。例えば、
(1)この分野における基礎的な歴史や概念を理解できる
(2)学者間での考え方の違いや、論争について分析できる
(3)論争における学生自身の立場を確立し、それを評価できる
この場合、期末試験の課題は、エッセイや作品など、学生が創造的に取り組めるものにします。そして、学期を通して、学生が「創造」の段階まで学びを深めるためのカリキュラムを組みます。
そのためには、例えば、毎週、読み物をさせて「知識」を身につけさせ、授業中のディスカッションなどで「理解」を深め、「応用」や「分析」、「評価」をおこない、さらには、中間試験のエッセイなどで、「分析」や「評価」の練習を重ねます。そうした積み重ねによって、学生は期末試験までに「創造」的な課題に取り組むために必要な知識とスキルを身につけることができます。
オンラインでは目的と内容の一貫性をより意識する
オンライン授業では、先生と学生は顔を合わせて話す機会が少ない分、授業内容と目的の関係性を分かりやすくすることが、より大切になってきます。そのため、教える側がまず、授業でおこなうことについて、1つ1つ、目的を改めて認識する必要があります。例えば、
<講義>
情報や概念などを提供し、「知識」と「理解」を促すこと。
<ディスカッション>
意見やアイディアを交換することによって、「理解」「応用」「分析」そして「評価」をおこなうこと。
<ミニテスト>
学んだことの復習を促し、「知識」と「理解」を確認すること。
こうした学習目的は、教える側が分かっていればいいだけではなく、学生に分かりやすく伝えることがとても重要です。学生に対して、教える側が期待していることを伝えることは、学生全体の学びを促すだけでなく、家族や親戚のなかで初めて大学に入学したという学生 (first generation students) や、恵まれた家庭や地域からきていない学生など、情報量や頼れるリソースの少ない学生に対しても易しく、平等に参加しやすい学習環境を作ることができます。
そして、コースの学習目的、そして、それぞれの授業で学んでほしいことを前もって伝えることで、学生自身も、課題や講義の目的を理解したうえで取り組むことができ、それを達成したときに、自信をつけることができます。
ここでお話したことは、普段の授業でも心がけたいことですが、コロナ禍の米大学では、オンライン移行に際して、改めて見直されていることです。学生によりよい学びの環境を提供するために何ができるのか、これからも、みなさんと一緒に考えていけたらと思います。
次回は、学習目的に合わせて、オンライン授業で取り組めることについて、お話をしていきたいと思います。
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