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未来の食と農業のデザイン展「SPACEFARMING」に行ってきました!

先日、オランダのアイントホーフェンで開催中の展覧会「SPACEFARMING」に行ってきました。本記事では、展示の内容をお伝えすることで、フードデザインの面白さや魅力をお伝えできればと思います。


はじめに

今回訪れた展覧会SPACEFARMINGは、宇宙での食糧生産の可能性を探るとともに、その知見を地上での生活向上に応用する手法を提案していました。この展示では、科学者から技術者、農家、デザイナー、哲学者、生産者、アーティストまで、多様な専門家たちのアイデアやイノベーションが、肉、植物、宇宙食といった各テーマに沿って、独特なドーム型インスタレーションで展示されていました。2050年には世界人口が100億人に達すると予測されていますが、そのような状況下で全人類に食料を供給する一方で、地球環境への負荷を最小限にする未来を目指すために、デザインがどのように貢献できるかを考察する契機となる展示でした。

まるでUFOな展示会場「Evoluon」の外観、正面玄関前には駐輪スペースがある

展示会場として使用された「Evoluon」は、1966年に建設された後、1989年に一度閉鎖されました。その後はクローズドな会議場として利用されていましたが、2021年にNext Natureによって再び一般に開放されました(*1)。
 Next Natureは、テクノロジーが私たちの生活や地球環境に与える影響に対する認知向上を目的とした組織です。展覧会や教育・企業向けのプロジェクトを通じて、ありうる未来を具体的な形で示す活動を行っています(*2)。
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*1 & *2 | 公式サイトより (https://evoluon.com/en/expo/about-us)

「Evoluon」の入り口横でたなびくのぼり旗、10月中旬、少し肌寒い日。午前中の訪問

Introduction

展示の構成要素は以下の通りでした。

  • HUMAN

  • ALGAE

  • MEAT

  • MEATBALL

  • PLANT

  • FRUIT

  • SEED

  • INSECT

  • FARM

  • SPACE

  • MARS

  • SCIENCE FICTION

これらのキーワードに基づいたコンセプトの作品やプロジェクト、事例が展示されており、多角的な視点が提示される充実した展示となっています。展示のIntroductionは、言語と料理が人間の進化に重要な役割を果たしてきたという言及からスタートします。農業が社会を形成し、栽培と保存が行われ、穀物を単位とした貨幣が生まれ、多様な職業が生まれたという歴史の延長に現在の食はあります。
 スーパーマーケットで見かけるパッケージされた肉や野菜、エナジードリンク、ビタミン剤、粉末ミルクなど、先祖が見たら驚くようなアイテムも、現代人にとっては当然のものとされています。未来の食について考える際、ほとんどの場合「テクノロジー」が用いられる解決策が提案され、その「不自然さ」も同時に指摘されます。しかし、人間は歴史を通じて、生活を便利にする新しい方法を探求してきました。これには料理や農業も例外ではありません。牛乳を絞る行為も、今では機械が担っています。
 人間はこれまでにも、そしてこれからも、斬新な解決策を考え出し、変化を促していくでしょう。電子レンジが培養肉製造機と合体するのか、キノコのバイオリアクターを設置するのか、AIが管理する栄養バランスの取れた食事を摂るのか、胃に働きかけてカロリー吸収を抑制するコーラを飲むのか、自分の脂肪でスマートフォンを充電するのか、あるいは農業に従事するのか。
 どうすれば、全人類が健康な食事を得られ、かつ土地を枯渇させず、生態系を破壊しない未来を築けるのか。地球を一つの宇宙船と見なし、限られた資源を効率よく使い、適切に管理することは可能なのでしょうか。私たちは一人ひとりが乗組員として、自分自身、他の生命、そして地球全体のために協力し合うべきです。このような問題提起とメッセージで、展覧会は幕を開けました。(こちらから、会場で流れていた開会宣言の音声を聞くことができます!)

会場は、日の光が差し込む明るい2階と、薄暗い1階に分かれており、1階部分ではSPACEやMARS、SCIENCE FICTIONに関連したものが主に展示されていました。ここからは、展示されていたものをパラパラと紹介してきます!

2階の入り口からすぐの会場の様子

ALGAE

上の写真の左に見えるチューブが張り巡らされたドームは、SPACE10によって制作された「Algae Dome」です。この高さ4mのドームには約300mのチューブが巻き付けられており、その中で微細藻類が培養される設備となっています。訪問時には培養は行われていませんでしたが、1日で150Lのスピルリナ(一種の微細藻類)を育てることができるとされています。同じくSPACE10が発行した『Future Food Today』という本には、スピルリナを使用したホットドッグのレシピが掲載されています。そのレシピによれば、10個のホットドッグを作るためにはスピルリナ12gが必要とのこと(あくまでも目安としての情報を一旦書いておきます)。

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ドーム内に展示されていたLandless Foodという作品の模型は、2050年における農業生物多様性(*3)の喪失を危惧し、フードシステムの再生を目指すコンセプトが具現化されたものです。このプロジェクトは研究機関との共同で実施され、微細藻類を用いて失われた味を再現するという革新的なアプローチが取られています。生産方法、味、香りを綿密に調査し、それを新しい食べ物として表現するという点で、非常にフードデザインらしい作品と言えます。
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*3 | 食料と農業に関連した(遺伝子、種、生態系各レベルにおける)生物多様性の構成要素すべてを含む用語〔p.10, https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/library/files/2008IDB_booklet.pdf

「Landless Food」by Malu Lücking(studio.malu)

FARM

会場の入口近くにあるドームには、未来のフードシステムを可視化したイラストが展示されています。このイラストは農場を起点としており、70以上の専門家、団体、機関から「フードシステム」に対する見解を集め、ビジュアルストーリーテラーのRogier Klomp氏がマインドマップ形式で表現しています。
 イラストには、栄養素の循環、糞の堆肥化、AIの活用、生態系とデータなど、多岐にわたるキーワードが散りばめられています。元々はオランダ語で書かれていたため、全てを理解するのは難しかったですが、「SMAAKKLIMAAT」と書き直された箇所が特に印象に残りました。後で調べてみると、"smaak"は「味」、"klimaat"は「気候」という意味でした。このフレーズは、食べるという行為が単に味を追求するだけでなく、その背後にある環境問題にも考慮する必要があるというメッセージを伝えていると解釈しました。

未来のフードシステムを表現したマインドマップ

MEAT

MEATのドーム内の様子

MEATのドーム内中央にある筐体は、「Culinair Cellulair」というインスタレーションで、フードフューチャリストのChloé Rutzerveld氏らによって細胞農業(*4)を活用した料理の可能性を示しています。このインスタレーションでは、3種類の細胞素材を選択し、各材料の大きさ、部位、テクスチャ、味付け、比率などを細かく設定して食品をカスタマイズできるというコンセプトが展開されています。なんと、、、マンモスやティラノサウルスなども材料として選べるようになっていました!ゲノムデータベースからマンモスのDNA配列を特定し、ミートボールを製造した会社も存在するため、このアイデアは技術的には決して未来過ぎるわけではないかもしれません。操作の様子は、こちらのリンクから動画で見ることができます。
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*4 | 細胞を育てて、食料・資源をつくりだすこと(https://cellagri.org/cellagriabout

グリルしたチンパンジーの肉とライオンのたてがみ、アーティチョーク(キク科の多年草)

「Culinair Cellulair」で製造される細胞培養食品のコンセプトモデルが模型として展示されていました。未来のありうる食をオブジェとして視覚化するのは、フードデザインの特徴の一つです。個人的には、こうしたフードデザインの作品をついに間近で見ることができ、感動しました!

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 下の写真は、ステーキ肉を丸ごと一つ培養するよりも、たんぱく質の細い糸を作る方が実現可能性が高いのではないかという仮説に基づいた作品です。これらの作品が持つ微妙な違和感や、興味を惹くビジュアルによって、「培養肉をどのようにデザインすることが望ましいか?」という議論を促進するのがフードデザインの役割です。その点を作品を目の前にして実感できたことが、非常に嬉しかったです。

「KNITTED STEAK」by Alberto Gruarin

PLANT/FRUIT/SEED

続いては、植物・果物・種にまつわるものを紹介します。

SEED

PLANT/FRUIT/SEEDのドーム内の様子

ドーム内一面に貼られた写真は、アーティスト/リサーチャーのUli Westphal氏によるSeeds Seriesという作品群で、食用植物の種子が記録されています。何万種にも及ぶ食用の植物が存在するにもかかわらず、私たち人間は主にコメ、ムギ、トウモロコシの3種類に依存した食生活を送っています。この作品は、知らず知らずのうちに失われていく多様性に目を向けさせてくれます。

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PLANT/FRUIT

ここでもドーム内中央には、MEATでも登場したChloé Rutzerveld氏を中心に制作された「Future Food Formula」というインタラクティブな作品が展示されていました。このインスタレーション作品は、ハイテク設備を用いて湿度、空気循環、光スペクトル、二酸化炭素濃度、土壌のpH値などを調整できる未来を再現しています。詳細はこちらのリンクから動画で確認できます。

「Future Food Formula / Tomato」by Chloé Rutzerveldの模型

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続いては、デザインスタジオSharp&Sourが手がける「Museum of Endangered Foods」から、コーヒーに関する展示作品です。コーヒーは世界中で愛される飲み物ですが、気候危機などの影響でコーヒー豆の生産が危機に瀕しているのも事実です。この問題に対処するため、多くの企業がコーヒー豆を使わない代替コーヒーの生産に取り組んでいます。展示では、仁(ウメやモモなどの果実の核の中にある部分)や根、種を発酵させて抽出する方法が一例として紹介されていました。また、バナナやアボカドなども絶滅危惧種の食材として展示されていました。

「Museum of Endangered Foods/Coffee」by Sharp&Sour

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他にも、野菜や果物の「規格外」の美しさを訴える作品「Morphoteque」も展示されていました。先に挙げたUli Westphal氏も「Mutatoes」というシリーズで、形の不揃いな野菜の写真を撮影しています。これらの作品は、大量生産によって均一化、均質化された作物が本来持つ多様性や多形性を排除し、「完璧」を求める人間の衝動に対して問題提起をしています。このような作品や視点は、日本国内でも展開されています。

「Morphoteque」by Driessens & Verstappen

FARM(MILK)

こちらは、より持続可能で倫理的な乳製品を生産する目的で、実際の牛の飼育をやめたブランド「Those Vegan Cowboys」が展示していたものです。精密発酵(*5)を用いてチーズを生産しており、その製造過程を担うステンレス製の牛「Margaret」も展示されていました。この方法では、微生物がカゼインとホエイプロテインを生産し、それらを増幅させるために発酵技術が活用されています。
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*5 | 微生物を培養することで、特定の物質を作らせること。(https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/22/12/08/00496/

MILK (FARM)のドーム内の様子
ステンレス製の乳牛

INSECT

発泡スチロールで作成されたEvoluon、中にゾフォバス・モリオがいるはず

代替タンパク質としての昆虫に焦点を当てたパートでは、ゾフォバス・モリオ(Zophobas morio)の幼虫が紹介されていました。このスーパーワームは「発泡スチロール」を食べて消化する能力があり、その点で注目を集めています。スーパーワームがポリスチレンを消化し、エネルギーに変えることができるとともに、その腸内細菌がプラスチックを分解する酵素を生成することが確認されています。このようなスーパーワームを食べることで、人間にとって有害なプラスチックゴミを自然な物質に変換するという一石二鳥の効果(?!)が期待される未来が示唆されていました。
 展示には(おそらく)1/50サイズの模型もあり、会期が始まったばかりで大きな変化はまだ見られませんでしたが、スーパーワームが模型を食べて小さくする可能性があるようです。このような展示方法からも学ぶ点が多いなと感じました(こういう展示をしたい)。オランダを中心に、昆虫食に焦点を当てた人新世をコンセプトに、イベントやワークショップを提供するProject SoylentBlueがサポートしているようでした。


HUMAN

「The Incredible Shrinking Man」by Arne Hendriks

「もし人間の大きさが50cmしかなかったら?」という思索的な問いを掲げるArne Hendriks氏によるプロジェクトThe Incredible Shrinking Manは、人間が小さくなることとその影響について深く探求しています。このプロジェクトの基本的な仮説は、人間が小さくなれば食べる量や必要なカロリーも減少し、地球とともに健康的に長生きできる可能性があるというものです。確かに、脳のサイズがクルミほどに小さくなるという欠点がありますが、その一方で、現在必要なエネルギーのわずか2〜5%で生活できるとされています。さらに、1羽のニワトリが100人分の食事になるとも試算されています。
 このプロジェクトには、脳細胞の機能を維持しながら脳のサイズを小さくできるかどうかを調査する研究者も参加しています。また、この問いを起点に、都市の利用方法、農業の在り方、より良い衛生環境と医療体制、さらにはペットや昆虫との新しい関係性についても考察が広がっています。
 このプロジェクトは、一見すると非現実的なアイデアに思えるかもしれませんが、多くの新しい想像力を刺激するスペキュラティヴ・デザインの優れた事例と言えるでしょう。個人的にも非常に興味深いと感じるプロジェクトの一つです。
 科学の進化によって、人間のサイズを13cmにする技術が発明されて〜というSFコメディ作品『ダウンサイズ』も同じアイデアの映画としておすすめです。

Arne Hendriks氏は、持続可能な地球の未来に向けたプロジェクトの一つとして、3年前から味噌に興味を持ち始め、オランダで栽培された空豆で味噌を作り、今年の夏にオランダと日本の味噌の「合わせ味噌結婚式」を日本唯一の味噌の神社、熊本の「味噌天神」で執り行ったりするなど、真面目に面白いことをする素敵なアーティスト/リサーチャーという印象です。出島の歴史を知ることから、オランダ東インド会社が、なぜ当時味噌の魅力に気づかなかったのか?という問い、そしてアウトプットにつながる行動力まで、その示唆に富んだ視点や姿勢から学ぶことが非常に多い存在です。

「もしも17世紀に味噌がオランダに伝わっていたら、オランダの料理、農業、畜産業は全く違ったものになったに違いない」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000093421.html

SPACE

地下の会場入り口に掲示された説明

宇宙での生活が現実のものとなると、食料供給の方法も大きな課題となります。現在、国際宇宙ステーションへの食料供給には莫大な時間と費用がかかっています。そのため、宇宙空間や月面、火星での農作物の栽培方法が積極的に研究されています。
 藻類ミートボールを3Dプリントするのか、インキュベーターでステーキ肉を培養するのか、尿から飲み水を生成するのか、月の水を飲むのか、バイオリアクターで食事を作るのか、火星で「ローカルに」生産するのか。これらはすべて、未来の宇宙生活において現実的な選択肢となる可能性があります。
 また、宇宙での食料生産技術は、地球上でも極限環境での食料生産に役立つ可能性があります。例えば、水資源が限られた環境や、土壌が貧弱な地域でも、宇宙での研究成果を活用することで、持続可能な食料生産が可能になるかもしれません(*6)。
 このような多角的な視点から、食と環境、そして未来について考えることは、デザインリサーチの側面をもつ本展覧会にとって重要な部分と言えます。
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*6 | 参照 (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221201/k10013909631000.html, https://spacefoodsphere.jp/)

地下会場の展示空間、アンビエントな環境音が流れる静かな会場だった

MARS

「Mars soil / Worms on Mars / Algae on Mars」by Wieger Wamelink

Next Natureのサイエンス・イン・レジデンスとして活動するスペース・ファーマーのWieger Wamelink氏は、火星でのローカルな野菜栽培を研究しています。火星の土壌は硝酸塩やアンモニアを含んでいないため、そのままでは植物の栽培が困難です。しかし、人間が火星に住むとしたら、植物残渣や糞、尿を土に混ぜることで、栄養素を補充する可能性があります。これは、かつての江戸時代にも見られたような循環型の農業に通じる考え方ですね。
 彼が実験で使用する土は実際には火星の土ではなく、NASAもまだ火星から土を持ち帰ってきたことがないそうです。そこでNASAはハワイ火山と米国モハベ砂漠で類似の土を見つけているとのこと。
 また、ミミズが土中で有機物を分解し、栄養素に変える役割は、火星での持続可能な農業においても重要な要素となります。さらに、藻類が多様な環境で生育可能であり、食用だけでなく肥料としても利用可能であるという点は、火星での生活においても大きな可能性を秘めています。

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宇宙飛行士が携帯用バイオリアクターで藻類の実験を行っているようです。このような技術は、長期の宇宙滞在において非常に重要な要素となります。藻類が二酸化炭素を酸素や食物に変える能力は、持続可能な生態系を構築する上で非常に有用と言えます。
 しかし、藻類を美味しく食べるためには、香辛料や調味料が必要とされる場合が多いです。その点に対して、3Dプリント技術を用いて色や形、テクスチャ、食感を操作するというLaila Snevele氏のアプローチは革新的です。味覚を刺激することで、藻類自体の風味を高めるような挑戦的なプロジェクトが展示されていました。

「Food on Mars」by Laila Snevele

MEAT

宇宙での食事に関する課題は多く、長期間保存できるように加工された食品は、風味が落ちる可能性が高く、新鮮な食材の供給も限られています。そのような状況で新鮮な食事を提供するための方法として、培養肉の研究は一つの有望のアプローチとされています。欧州宇宙機関(ESA)は、培養肉とカスタマイズ可能な調理用品の研究に取り組んでいます。こうした取り組みが宇宙空間での食事の栄養的な機能ではなく、食事を楽しむという機能にも貢献するでしょう。また、先進的な調理機器のプロダクトだけでなく、体験のデザインにも示唆を与えてくれるデモ動画が展示されていました。

「Meat Synthesizer」

SPACE

ISS (SPACE)のドーム内の様子

SPACE(ISS)のドームでは、宇宙船内の環境を再現した空間が作られており、オランダ人宇宙飛行士André Kuipers氏(*7)による宇宙での食体験に関するインタビュー映像や、宇宙食の缶詰などが展示されています。実際の宇宙食については、JAXAが提供する動画で詳しく解説されているため、そのリンクも記載しておきます(*8)。宇宙船内で食品が飛散しないように袋に密封されているという特性は、フードデザインにおいても非常に興味深い点です。
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*7 | wikipediaより (https://en.wikipedia.org/wiki/Andr%C3%A9_Kuipers) 
*8 | JAXA公式Youtubeチャンネル (https://youtu.be/ZzSlsy02SGs?feature=shared)

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「The Body Garden」by Pleun van Dijk & FRED ERIK

長期間宇宙に滞在する場面を想定したプロジェクト「The Body Garden」が展示されており、そのコンセプトは人間の排泄物だけでなく、髪の毛、皮膚、汗もリサイクル可能なマテリアルとして栽培に活用できるのではないかというものです。展示には、マテリアルを採取するための道具と、植物を栽培するためのキット(プロトタイプ)が含まれていました。彼女らの作品はとてもビジュアリゼーションが上手いなあ〜と感じました。

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SPACE(RESOURCE)のパートでは、欧州宇宙機関(ESA)による長期宇宙滞在のための循環型システムを解説する映像作品が展示されていました。このシステムは、廃棄物を最大限に再利用することを目的としており、ESAは廃棄物を分解して食料、水、酸素に変換する微生物の研究を積極的に進めています。会場では、人間の体内循環システムとの比較にも言及がありました。

Micro-Ecological Life Support Alternative (MELiSSA) Loopの映像作品

FARM

ここでは、SPACE 10が制作した「The Grownroom」を用いた垂直農法が展示されていました。説明キャプションには家庭やオフィス、宇宙空間で食物を育てるための建造物だと書かれていましたが、なかなか大きくて笑ってしまいました!この構造体は図面と組み立て方がオープンソースになっているため、現地で建築可能となっており、その点も注目すべき特長の一つです。
 LEDライトとエブ&フローシステム(*9)を活用した栄養価の高いマイクログリーン(*10)の栽培には、アクアポニックによるマイクログリーン栽培に注力する地元企業Phood Farmが協力していたようです。
 会場で特に印象的だったのは、コバエが飛んでいたことです。私自身、過去に食品を展示していた際にカビが生えてしまい、急遽展示物を一部撤去しなければならなかった経験があります。そのため、展示空間で生物(なまもの)を扱う際の課題と可能性について改めて考えさせられました。
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*9 | かん水作業を省力化するための底面給水法、育苗プールと培養液タンク・ポンプが連動して水を循環させる仕組み (参照1参照2)
*10 | 「土または土に相当する培地を用いスプラウトより長く栽培し、ベビーグリーン(日本ではベビーリーフと呼ばれる)よりは早く収穫」した新芽野菜 (参照1参照2)

「The Grownroom」by SPACE 10

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会場を出る際に、受付スタッフの方から「下の会場で育てた野菜を使ったスムージーをどうぞ!」と声をかけてもらいました。最初はスムージーがどこにあるのか分からなかったのですが、券売機の隣にある植栽の中に置かれていました。味も美味しく、このようなおもてなしはフード展示において良いアイデアだと感じました(こういう展示をしたい)。

スムージーが刺さった植栽

SCIENCE FICTION

会場内のミニシアターでは、「AI on the Menu」というタイトルの映像作品が上映されていました。この作品は、いくつかの映画から食事シーンを抜粋して編集されています。具体的には、「A.I. Artificial Intelligence(2001年)」、「Back to the Future(1989年)」、「Idiocracy(2006年)」、「Silent Running(1972年)」などが含まれていました。ただし、本記事ではこの映像作品の写真については割愛します。
 たとえSF作品であっても、食事のシーンを通じて登場人物に感情移入する、あるいはその世界観とつながる体験ができるとされています。この点が、映画における食事シーンの重要な役割であると言えるでしょう。このような観点から、フードデザインとしてどのような未来の食を描くべきかについて、SF作品は貴重なヒントを提供してくれると考えられます。


皆さん、いかがでしたでしょうか。記事が思いのほか長くなってしまいましたが、まだ紹介しきれていない多くの作品やプロジェクトが会場にはありました。今回は個人的な都合で1時間しか滞在できませんでしたが、それでも多くのインスピレーションを得ることができました。もう一つのRetroFuture展を見たり、レストランでの食事を楽しむ時間はありませんでしたが、それでも非常に充実した時間を過ごせました!
 もし機会がありましたら、是非とも会場でフードデザインや未来の食についての多角的な視点を体感してみてください。会場に行けない方は、記事内に散りばめたリンクからその雰囲気を感じていただければと思います。ちなみに、今週はダッチ・デザインウィークですので、この情報が何らかの形でお役に立てれば幸いです。
 個人的には、このような展覧会を日本でも開催したいと強く感じています。日本にフードデザインを輸入すると同時に、日本独自のフードデザインを国内外に発信し、その発展に寄与できればと考えています。ご協力いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひお知らせください!
 それともう一つ、私が会場を訪れた時、地元の中学生が団体で見学に来ていました。どれだけ真剣に鑑賞していたかはさておき、食の課題や未来の食の可能性について、インタラクティブな形式やビジュアライズされた形で体験することができる機会があることに、大きな価値を感じました。科学や技術と人々の暮らしをつなぐインターフェースになることがフードデザインの役割の一つであることを再認識しました。

会場入り口正面の様子

タイトル
SPACEFARMING
会場
Evoluon Eindhoven (Noord Brabantlaan 1a, 5652 LA Eindhoven)
会期
24 Sep. 2023 - 23 Mar. 2024
入場料
Adults: € 14,50
Students / seniors (65+): € 7,50
Children up to 18 years old: € 1,-
Accompanying person of a visitor with a disability: € 0.00
開館時間
Tuesday - Saturday 10:00 am - 5:00 pm
Sunday 12:00 pm - 5:00 pm
公式サイト:https://evoluon.com/en/

公式サイト

最後までお読みいただきありがとうございました。
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本記事は執筆時点での情報をもとに書いたため、最新情報であるとは限らないことをご承知ください。また、本記事の内容は私見によるものであり、必ずしも所属企業の立場や戦略、意見を代表するものではありません。

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