解説編⑨ 権利侵害・差別に合理性がない~目的論

国の責任を検討している。平等論は違憲があふれている地帯である。

ひょっとするかもしれない。

大切なのは、侵害・差別が、憲法に反し許されないことの論証である。

感覚的には、許されないものというのが率直だろう。その感覚を言葉にすることが仕事だ。

5 養育権の侵害は憲法13条に違反し、「差別」は憲法14条1項に違反するため、違憲であること。


 (1) ここまで、現行法が基本的人権である養育権を侵害するものであること及び現行法が親権又は養育権について非婚父母と婚姻中の父母を差別するものであることを述べた。以下、現行法の侵害規定が立法目的に合理的根拠を欠き、目的侵害又は区別との合理的関係性がないことを述べる。養育権は親子の自然的関係と密接な人格的権利であり、また、上記区別も養育権に関する区別であるから、違憲審査基準はより厳格なものが採用されるべきであることを主張するが、上記基準においても違憲性が明確であるため、本訴状では上記基準にあてはめる形で主張を行う。

司法試験対策的には、原告の立場は、違憲・違法を主張するため、権利の重大性、それゆえに基準の厳格性から、結論を導く。だが、基準の選別で結論が決まるというのも妙な話だ。基準を決めるのは、権利の重要性いかんなのかとすると、権利が重要だと考えるものにとっては、違憲、そうではないと考えるものにとっては合憲ということになりかねない。そこではない。
権利は重大だが、あえて比較的緩い基準によって検討したとしても、やはり、その侵害・区別の合理性を否定しうるというアプローチで攻めている。

厳格な基準で判断できれば、それは、違憲だ。

基準を緩める逃げ道をふさいだことになる。目的と手段の合理的関連性の基準をもってしても違憲だといえる論証を展開している。


 (2) 現行法には、単独親権という形自体が存在し、かつ、単独親権制において養育権保障の不十分な前記立法内容を有している。これらの立法内容が養育権を制約する目的親権又は養育権について非婚父母と婚姻中の父母を区別する目的は、父母の養育権の衝突による不利益を避けるためであると考えられる。この点については、他に目的が存在すれば、被告において主張されたい。


まずは、目的論

あえて、被告の主張を待たずして設定してみた。他に目的があれば説明してみればいい。なぜ、単独親権制なのか?

よく、DV被害者保護が語られがちだが、単独親権制によっては、DV被害者保護が実現できていないし、目的にはなり得ないだろう。DVと無関係な親子にとっては当然制約・差別の正当化は困難であるし、維持できない。
 DV対策はDV対策を充実させるべきであり、未成年子がいる場合の夫婦の問題にしかならない親権制がどうあろうと本来関係ないことなのである。(夫婦には熟年のシニア=子どもが成人済もいれば、子のいない夫婦もある。どの夫婦にもDVのリスクはあり、DV対策が急務だろう。DV被害女性であるのに、シェルターが、かつて、児童福祉の理念による母子寮が代替しているために、子連れではないという理由で受け入れられないことが起こっているとしたら、ゆゆしき事態である。DV被害者は、女性に限らず男性もありえるし、同性カップルの場合、どういう施設が適しているのかさらに悩ましい問題があるが、とにかく、どの被害者も受け入れられ、支援が受けられる仕組みが必要だろう。)

結果として、養育権制約・差別の目的については、父母の養育権衝突の回避だろうと設定した。その上で、その目的自体を検証する。

司法試験受験生は、目的論では勝負しない傾向があるが、十分闘うべき土俵のはずだ。

 この点まず養育権の衝突による不利益の主体が単にの一方又は双方であれば、これによって子の利益でもある親子関係を侵害されるいわれはないから、目的として根拠を欠くことは明らかである。次に、養育権の衝突による子の利益を問題としているとすれば、まず、親子関係に直結する養育権の衝突を養育権の制約によって解決するということは背理であり、正当な目的ではない。また、父母間の養育権は、父母が別個の人格をもつ人間である以上、当然衝突する可能性のあるものであり、この意見対立は子の養育にとって利益であることもある。養育権の衝突自体を悪とする考えは誤りなのである。養育権の衝突は、消極的な意味においてはたとえば他方親や他方親の関係者による虐待を防ぐ場面で機能し、また、積極的な意味においても養育に関する積極方針が対立することでより互いの方針を吟味可能である。衝突による具体的な不利益を問題とするのであればともかく、衝突そのものを一方の養育権の制約という形で否定的に扱うことは目的の合理性を欠くものである。

 衝突回避という目的そのものが実は正当性がないことが判明する。衝突するということは、親なる存在が2つの人格である以上、自然に起こりうるものであるし、衝突が悪とも限らない。消極的な意味において虐待抑止になるし、積極的には、養育方針の吟味によってむしろ子の利益の最大化に貢献しうる。

 父母の養育権が衝突するからといって、制約(一方から親権を奪う)、差別(婚姻中以外は、一律奪う)をしようという発想自体に疑問が否めない。

本当に、なぜ、単独親権制なのだろうか?

国内外からの非難の声も大きくなっている中、単独親権制を維持する理由、改廃しないでよいとする理由を、むしろ説明すべきなのかもしれない。

つづく

 

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