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どうしてあなたの話は聞いてもらえないのか 〜論理より大事な◯◯感〜

「同じ内容のことを伝えてるのに、自分より他の人が言った方が周りが納得する。」
みなさんはこんな経験がないでしょうか?
私はしょっちゅうあります。
会議の場で自分が提案した時は誰も反応しなかったのに、別の人が提案すると「なるほどねー。それ良いね。」と言われて、その人が提案したことになってしまう。「私もさっき同じこと言ったんだけどね・・・何なんだよ・・・」とがっかり感半分、怒り半分という気持ちでいっぱいになる。
そんな私はある時会社の先輩に「どうして私の説明が響かないのか」相談したことがあります。するとこんなことを言われました。
「うーん・・・あなたの言い方はカクカクしているんだよね」と。
カクカクしている??
どういうこと??
言い方がキツイということか?? 横文字が多いっていうこと?? 

それ以来、私はずっと心のどこかでこの”カクカクしている”というのが何なのかが分からずモヤモヤが募るばかり・・・。「人に伝える方法」「分かりやすい説明方法」みたいな方法も調べて色々と実践もしましたが、どうもあまりうまくいかない。相変わらず私の話はカクカクしっぱなしのようだ。
ところが。
なんと!
ついに!
先日そんな悩みを解消するヒントがいっぱいの素晴らしい本に出会ってしまいました〜。わーい、パチパチ。

これはもう私だけでなく
・自分の気持ちや考えをうまく伝えられず悩んでいる
・友達や仲間同士の一体感を高めるにはどうしたら良いか悩んでいる
・他の人との距離を縮めたいけど、どう声をかければ良いか分からない
そんな言葉を使った人とのコミュニケーションに悩んでいる人には、きっと役に立つと思います。それがこちらです。

 黒川伊保子 著 「ことばのトリセツ」

言葉にまつわる悩みや課題を抱えている人にとっては、一読の価値があるのは間違いありません。この本に書いてあることを知っておくだけで、あなたの言葉遣いがレベルアップするかも??です!


著者紹介

著者の黒川伊保子さんは人工知能研究者であり、作家。
黒川さんの「妻のトリセツ」「夫のトリセツ」と言えば、書店で見かけた人も多いのではないでしょうか。私もてっきり本業が作家なのかと思っていましたが、本職は人工知能の研究者でありバリバリの”理系”。
「ことば」という文系の代表とも言える分野をなぜ理系の研究者が? と疑問に思いますが、人工知能に人間らしい会話をさせるというミッションのために言語を研究した結果だとのこと。そして、この本はその研究の集大成だということです。

正直この本の紹介を読んだ時は「研究者としての集大成が”新書”ってどうなのよ?」と思いました・・・。新書をバカにしている訳ではないのですが、新書というのは基本的に一般の人に分かりやすく書くもの。それが研究者としての集大成と言われると、ちょっと信じられないし、「売るための手法か?」と勘ぐってしまいました。
ところがどっこい。
なかなか面白い。
っていうかめっちゃ面白い(笑)。読みやすい上に奥が深い。もっと言葉について知りたくなる。そんな魅力が詰まった一冊です。

なぜ「でも」「だって」を使ってはいけないか?

ビジネスの世界で半ば禁句と言われるのが
「でも」
「だって」
などの否定語です。
なぜなら、その後に続く言葉が言い訳になるからです。
ビジネスでは結果が全て。どんな結果になろうとも言い訳するのは、建設的な話につながりません。
とは言え人間ですから言い訳したくなる時もあります。実際、避けられない事故だったり、自分も被害者だったりすんわけですから。そんな時に「言い訳をしちゃいけない…」と、"でも"や"だって"を飲み込むのは本当にストレスです。
著者もそんな「でも」「だって」は使わないことを推奨しているのですが、その理由が面白い。いわく「Dの接続詞は(中略) 自分のみならず、周囲の人の意欲にもブレーキをかける」のだそうです。 

「会話はキャッチボールだ」とはよく言われます。
ただ、そう言われる時は「キャッチボールは相手の言いたいことをちゃんと受け止めて、返す時も相手が取りやすいように投げなくちゃいけない。」という意味で使われるのが一般的です。

しかし、”Dの接続詞」を使うと会話が止まる説”に立って考えれば、「でも」「だって」を使うと会話のリズムが悪くなると考えることもできます。どんなに正確なボールを投げても、リズムが悪いとキャチボールはうまく行きません。リズムが悪いとお互いストレスになるだけ。
そう考えると、「でも」「だって」を使わないのは”言い訳をしないため”ではない。お互いリズムよく会話をするために使わない方が良いということになります。リズムが良いと盛り上がるし、前向きな話がしやすくなる。

人間がストレスを感じるのは、自分でコントロールできないことが生じた時 (=我慢しなくてはならない時) だそうです。だったら、「言い訳をしないために”でも”、”だって”を我慢する」よりも「会話リズムよく進めるための言葉選びをする」と考えた方がストレスが少ない気がしませんか?

言葉の”音”が持つイメージ「音象徴」

さて、そこで疑問に感じるのは「なぜ”D音はブレーキ”」と言った感覚が生まれるのか? です。これと関係するのが「音象徴(おんしょうちょう)」と呼ばれる概念です。

音象徴とは、言葉を発する時に生じる音その物が特定のイメージを人間に生じさせるという事象のこと。簡単に言えば、言葉というのは辞書的な意味だけではなくて、音その物にも意味を持っているため、その言葉の音を聞くだけで私たちは何かしらのイメージを感じとることができるということです。
たとえば、グリコはP音 (ぱぴぷぺぽ) を商品名にすると売れるというジンクスがあるそうです。チョコレートの「ポッキー」がP音が含まれますね。ポッキーがこの名前になった理由も、”ポッキン”というポッキーが折れる時の音の響きをモチーフにしたそうです。ポッキンもそうですが、ポッキーも何だか軽やかで、手軽に食べられそうなポップな響きがありますよね。これも音象徴のひとつでしょう。


音とイメージがつながるブーバキキ効果


この音象徴という現象を説明するのによく引き合いに出されるのが、「ブーバキキ効果」と言われるものです。このブーバキキ効果とは何なのでしょうか?

まずは下の写真を見てください。

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これら2つの図形は、一方には「ブーバ」、もう一方には「キキ」という名前が付いています。さて、あなたはどちらが「ブーバ」で、どちらが「キキ」だと思いますか?
実は答えはどちらでも良いのです。これはあなたが「ブーバ」「キキ」からどのようなイメージを連想するかをみるための実験なのです。

この実験はドイツの心理学者ケーラーによって紹介されたもので、ほとんどの人は右の図形を「ブーバ」,左を「キキ」と思うようです。日本人だけではなく、世界の多くの国の被験者で同じ反応が見られるとのこと。
つまり、ほとんどの言語において「ブーバ」という言葉は曲線的イメージを連想させ、「キキ」という言葉は尖った鋭角なイメージを連想させるのです。これをブーバキキ効果と言います。
このような現象が起こる原因は、発音する時の口の動きと実際の音情報を処理する部分が一部重なっているからというのが有力な説のようです。著者によるとそれは「小脳」が深く関係しているとのことです。

音とイメージをつなぐ脳のはたらき

「小脳」は身体を動かす時の制御する機能、目・耳などから得た知覚情報を統合する機能、そして感情や空間認識力に関係する器官だと言われています。言わば、私たちの意識には上がってこないけれど、無意識下で身体や感情をコントロールする機能を担っていると言えます。
私たちが言葉を発する時は、当然横隔膜によって肺の中の空気を喉や口まで送り出し、口や舌、そして口腔 (口の中)の形をコントロールしています。これらも小脳の働きです。つまり、声を出す時の口腔や舌の形のイメージと、耳や目から得た知覚情報のイメージが同じ小脳の働きによって無意識下でリンクするということです。

したがって、私たちが言葉を聞き取る時は、その辞書的な意味だけではなく、音そのものが持つイメージと合わせた総合的な印象として、その言葉認識することになります。

先程「Dの接続詞は自分のみならず、周囲の人の意欲にもブレーキをかける」と書きました。これも著者によるとDは、舌の歯列いっぱいに舌を膨らませつつ、細かい振動をかけて発音する。どっしりとした感覚が下あごに伝わり、身体全体に広がる。馬を「どうどう」と言って落ち着かせるのは、乗り手の身体がどっしりと落ち着き、ブレーキになるからだ。(中略)気がはやって、緊張してしすぎている人を立ち止まらせ、落ち着かせるのに、D音ほど聞く発音体感はない。※本書P76

ということなのだそうだ。 

人は論理より感情で考える

さて、ここまで言葉とは辞書的な意味だけではなく、音のイメージという情報も伴ったものであるということを書いてきました。
それを受けて考えると、人に何かを伝える時に重要なのは音が与える印象、つまり語感が持つイメージを汲み取って言葉を選ぶということではないでしょうか。
もちろん話す内容の論理性というのも重要だとは思います。しかし、そもそも人間が何かの刺激を認知する時の流れというのは
外部からの刺激が目や耳などの感覚器官を通じて認知される

食欲、性欲などの生理的欲求や感情を司る大脳辺縁系に刺激が入る

論理的思考を司る大脳新皮質へ伝わる
という流れになっています。つまり外部からの刺激や情報は、まず感情を司る部分に入り、その後論理的思考を司る部分に伝わるわけです。よく人を納得させるための論理的な話し方を解説するような記事や本がありますが、実は人間の意思決定は基本的には感情で行われており、論理はその感情を追認しているだけとも言われているのです。

もちろん、人間はすべて感情で動くわけではありませんし、論理的に考えることで感情に基づく意思決定が後で覆ることも十分あります。ただ、”逆もまた真なり”でどれだけ論理的な話をしても語感が悪い言葉を羅列すると話している内容が全く相手に届かないということもあり得るわけです。感情を阻害せずスムーズに訴えかける言葉選びをすれば、より緊密なコミュニケーションが取れる可能性がグッと高くなるのです。

人の感情を動かす”ことばのトリセツ”

では、どういった言葉選びをすれば良いのか?
それはぜひこちらの黒川伊保子さんの本をお読みください(笑)。
焦らしてるわけでもないのですが、黒川さんの文章が分かりやすくて、読みやすい。なおかつ奥が深いってことで読んでみるのが一番なんですよ。
とは言え、です。
せっかく皆さんここまで読んでくださったので、私が気に入った話をひとつだけご紹介します。

それは相手と親密になりたいのだったら、訓読みの言葉を多用した方が良いというお話。訓読みとはいわゆる大和言葉ですね。同じ感謝の表現でも「感謝いたします」よりも、「ありがとうございます」の方が言葉が柔らかくて親密感が出ます。これは訓読みで多用される母音が持つ効果なのだそうです。
だから、誰かと話をする時に親密感を増したいなら、「あ〜、そうなんだ」「へー、いいねー」など、母音が多い言葉で相づち打つと良いらしいです。
ほ〜、なるほどね!(←こんな感じ(笑))
もちろんこれ以外にも、人を労う時の言葉の使い方や異性との距離を縮めたい時の言葉使いなど、様々なシチュエーションで言葉を発する際にとても参考になる話題がてんこ盛りです。

また、そういったハウツー的な内容だけでなく、日本語という言葉がどのように私たちの感情や文化に関わっているかといった言葉の深淵に迫る内容も豊富。それがすべて分かりやすい、平易な書き方で説明されています。
あなたの知らない「ことば」の世界がきっと開けると思います!

という訳で今回はこちらの本、 黒川伊保子 著 「ことばのトリセツ」のご紹介でした〜m(__)m


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