【第7回】 私立古賀裕人文学祭:募集要項
開会の言葉
あー、あー、あ、え、い、はい皆さまおはようございますあるいはこんばんはかも分かりませんが、「秋は短し恋せよ中年」という令和の合言葉を胸に秘め、ただいまご紹介にあずかりました古賀コン7実行委員長ことわたくしが、本日お集りいただきました皆さまに心より御礼申し上げますし、フワちゃんはちょっと怒られ過ぎだと思います。
さっそく本題ですが、皆さまには「反省文」を書いた経験、ございますでしょうか。
反省文、それはある特定の価値観に反する行いをした者が書くことを強要される、ある種の再発防止策を含んだ猛省の態度、あるいは後悔の弁を述べた文章のことであります。
価値観、というのは端的に申し上げればこの世界の見え方そのものを決定づけるもので、自らに備わる所以をロジカルに説明することは容易であれど、それがあまりにも感情と密接に関わるものゆえに、我々にとってはややエモに寄った評価選択軸であると言って差し支えないでしょう。
その価値観というものが、かねてよりわたくしには上手く捉え得ぬものでありまして、幼稚園生の頃などには非常に歯痒い思いをした気がいたします。
クラスメイトを見るに、なぜこいつは意味もなく泣いているのかとか、なぜこいつは所有権のない玩具を独り占めするのかとか、あるいは教諭を見るに、なぜこいつは好きでもない他人の子を無感情に世話する日々を送っているのか、とか。
その頃のわたくしには、一人ひとりの人間存在が由来を異にする個別の存在であり、一人ひとりが別々のものに日々価値を見出し、一人ひとりが自分の縄張りを守るために必死に生きているのだということが、縄張りというのはもちろん精神的な領域も含みますが、思いもよらぬことでありまして、小学校六年生になるまで「価値観の違い」というものに、実は気がつかなかったのであります。
時は平成。
わたくしが通っておりました江戸川区の小学校では五年次に日光へ林間学校に、六年次には白馬へスキー教室に行くのが慣例となっておりました。
当時わたくしにはお付き合いをしている女子がおりまして、仮に沙織ということにしておきますが、沙織とは歩いて葛西臨海公園へ行きスーパーハードなペンギンを見たり、チャリでヴィーナスフォートに行って買い物をしたり、電車に乗って妙典のワーナーマイカルシネマズへ行ってキャラメルポップコーンを食べながら007を観たりと、極めて普通のカップルらしい日々を過ごしておりました。
今になってみれば、小学生にしては高校生みたいな遊び方しているなという感想も湧きますが、小学生は小学生ですから、手くらいは繋ぎますがその先へ進むということもありませんでした。でも、わたくしはキッスがしてみたかった。どうしてもしてみたかったのです。もしキッスができるのならわたくしは習い事を全て辞めても良かったし、愛する弟の命と引き換えだと言われれば遠慮なくキッス神に差し出す覚悟はできておりました。それくらいわたくしはキッスがしたかった。キッスが、してみたかったのです。
だってだって、皆さまにも多分に経験がおありのこととと思いますが、自分に好意を寄せている女子の放つその煌めきといったら尋常ではないです。
なぜだか知らんけれども目はうるうるとしておりますし、まつ毛なんて雨上がりの毛虫みたいだし、鼻の頭は妙にキラキラと光っていて、頬は医者に行けと言わんばかりに赤く熟れ、唇は太陽を浴びたぶどうゼリーの様相です。
そんな顔面でグッと見つめられるとですね、なぜだかチュッとしたくなるのが世の定め。恋の量子力学。此岸の理というやつです。君はわたくしを見つめていて、わたくしは君にキッスがしたい。
でも、したことがないことをするのって、こわいんですよね。なんだかこわい。
君がずっと黙ったままわたくしをじっと見つめている理由も、俺には良く分からないし。
できれば何かに誰かに強く背中を押して欲しい。カッと勇気が出るような、そんな理由やきっかけをどなたか与えてくれまいかと、そう思ってしまうのもまた、か弱き人間の定め。
いつの時代も、いくじなしの背中を押してくれるのは修学旅行や文化祭のような学校行事。たとえそれが吊り橋効果だとしても、吊り橋効果自体にそもそも再現性はあるのかという話になってくるため、ここでは深掘りしない。
そしてやってくるスキー教室。白馬の山(名前など憶えているはずもない)に広がる銀世界で、コーチ役の大学生(名前など憶えているはずもない)の言うことも耳に入らず右に左にザッザと滑降しながら、この二泊三日の内に俺はやってやるぜ、やってやるんだぜと、わたくしの心は決まる訳であります。
見れば初心者チームでよちよち歩きをしている沙織がこちらに向かって手を振っています。かわいい。かわいい沙織はめちゃくちゃヤンキーなので、缶チューハイを飲んだことはあってもスキーのような健全なスポーツは初体験なのであります。
板滑りで冷えたガキの身体を温めてくれる宿泊施設は丸太を組み上げたようなデザインのかわいい木造ロッジで、わたくしたちキッズは四つのロッジに男女で別れて部屋を取り、自分のロッジ以外には立ち入れないというルール設定でありました。つまり、茨城の免許合宿施設と同じルールです。
ロッジはスキー場に隣接する林の中にあり、もちろん辺りは白一色。
みんなで風呂に入って部屋で荷物を整理して、陽が暮れると辺りには照明が灯り、舞う雪がキラキラと反射する様子をちょっと眺めてから食堂棟に移動している最中、わたくしはどうせ人生一度きりのファーストキッスであるならば、この素晴らしい景色の中でチュッとしたいと、そう思った訳です。
先に晩御飯を食べ終わった沙織が食器を片付けがてらまだ食べているわたくしの近くをわざと通ってくれたので、あとでうちのロッジの左側の窓をノックしてくれたら俺出ていくからちょっと話そうよと伝えると、沙織はうん分かったこのあと日記書く時間に日記書かないでそっち行くねと応えます。
でもわたくしは、いや日記は書いた方が良いんじゃないか?君が書かないで来たら俺も書く時間なくなっちゃうし…とそんな風に思いましたが、沙織の両の瞳はその輝きを以て「そんなの明日の夜に二日分まとめて書けば良いじゃん」と雄弁に物語っていました。
わたくしは必要以上に力強く頷き、急いで飯を搔っ込むと、わざとガシャガシャ音を立てて食器を片付け、やや駆け足でロッジに戻り、大急ぎで旅のしおりをリュックから取り出し、一日目の日記を書いてから親の仇のように歯を磨き、万全を期すためギュッとうんこをしてしっかり手を洗いました。
自室で待つこと五分。
ようやく戻ってきた同室の男子どもに向かってお前らこのあと何があってもこの部屋から出るんじゃねえぞと口を開きかけたその瞬間、コンコンコンココンコンとノックされる窓。ガツガツのガツンガツンにノックされるわたくしの心の臓。
窓からの異音に何だ誰だと疑問を口にする明夫と潤の肩を叩いて「明日から俺には敬語を使うように」と伝えると、二人は「はぁ?」と言いましたがそれを完全に無視して部屋を出ます。
リビングを通り玄関のドアを開ければそこは先ほどよりも深い闇に包まれた雪林ことウルトラロマンティックウインターマウンテン白馬。
右回りに建物を伝えば、窓の下に佇む沙織の姿をスポットライトのように照明が照らしています。光に包まれた彼女の白いパーカーには水色の文字で英単語的な何かが書いてありますがわたくしにとっては無価値な文字列に過ぎません。
ただの事実として、わたくしはパーカーを着た天使を目撃したに過ぎないのです。天使は、わたくしに向かってはっきりと言いました。
「ねえ見て見て。吐く息が白くて煙草吸いたくなってきちゃった」
翌日、担任の伊藤先生の前で正座をさせられているわたくしと天使の姿がそこにはありました。
チクったのはもちろん窓から覗き見をしていた明夫と潤ですが、わたくしは彼らを責めません。わたくしがもし同じ立場であったなら、天に誓って担任にチクるからです。
伊藤先生は日頃からややヒステリックな妙齢の女性教諭でしたが、その時ばかりは口の端に泡を溜めながら全盛期の尾崎豊が如く喚き散らしていました。
その絶叫を要約すると、スキー教室中にキッスをするとは何事か、しかも十秒以上も唇を付けていたなんて信じられない、十秒以上はやばい、気が狂っている、絶対に許せないし許さない、十秒以上したことを土下座して謝罪しろ、二度と十秒以上しないと誓え、反省文にもそう書け、授業中に手を繋ぐな、今後は一緒に下校することを禁ずると、そういった内容でした。
わたくしは言われた通りに土下座をして、すべて先生のおっしゃる通りにいたします、と謝罪し、沙織はなんでお前にそんなこと言われなきゃいけねーんだ殺すぞババアと噛み付いて、平手で思い切り頬を殴られていました。
これがわたくしの人生で初めて、そして人生で唯一、書かせていただいた反省文です。今でもはっきりと覚えております。鉄の味がする文章です。
十秒以上のキッスは悪、それが、伊藤先生の価値観でした。
わたしくはその斬新な評価軸に触れ、他者を受容すること、そしてこの世界を折り合いをつけ、社会に生きる全ての人々と互いを尊重し合い、手を取り合って暮らすということの、本質を学んだような気がするのです。
わたくしは伊藤先生の価値観を理解し受け入れ、沙織はルーズリーフをビリビリに破いて出て行き、思い切り閉めたドアを向こう側から思いっきり蹴っ飛ばしていました。
そんな彼女を見て、だから片親はダメなのよと言った伊藤先生の、その価値観を許容するために、その時、自分の心から何か意図的に消し去った想いの欠片のようなものが、在った気がするのです。
でもそれを言葉で説明するのが難しくて、実は今日はその時の想いを、創作ダンスにして持ってきました。コンテンポラリーです。
そのダンスを、今回は開会の言葉に代えさせて頂きまして、#古賀コン7 、軽やかにスタートいたします。
タイトルは、「別に秒数はそんな、ええやろがい」―――
わたくしの華麗なるダンスを、どうぞご覧ください。
👏🏻👏🏻👏🏻👏🏻👏🏻 <ワーッ !
本文学祭のコンセプト
古賀コンこと私立古賀裕人文学祭は「時給1万円の文学祭」がコンセプトの私的な文芸イベントです🐸
「1時間で書き上げた文章、優勝したら1万円」
テーマに沿って1時間で書いて出す。
たったそれだけの企画です。
しかし侮るなかれ、この古賀コンは何と言っても「体験型のイベント」。
出す出さないは一旦置いておいて、ぜひ書いてみてください。着の身着のまま、衝動に身体を預けてとりあえず書いてみてください。
書いてみれば必ず様々な発見があり、絶対に無駄な時間にはなりません。
無意識に出る手癖や、気づいてなかった嗜好、思いもよらない展開、そんな驚きが得られる1時間を、ぜひ楽しんでいただけたら幸いです。
それでもし具合が良ければエントリーしてみてください。
途中で切れちゃっててもOK、誤字脱字だらけでも大丈夫です。
最初から最後まで全部間違ってたって全く問題ないのが古賀コンです。
皆さまからのうっかりを、心よりお待ち申し上げます☺︎
応募方法
作品のご応募はTwitter(X)にDMいただくか、メールでもお受付しています。
応募作品をご自身のnoteやブログ、あるいはTwitter(X)などに投稿して頂いて、そのURLを私まで提出下さい。
作品のどこかに「#古賀コン」「#古賀コン7」をつけてもらえたら嬉しいです!(もちろんつけなくても審査には影響しないのでご安心を☺︎)
提出先はTwitter(X)のDMか下記メールアドレス好きな方をお選び下さい。
※Twitter(X)は相互フォローじゃないとDM送れないのでぜひフォローして下さい~☺︎
応募時に教えて頂きたい情報
① 筆者名(ふりがなも!)
② 作品のタイトル(タイトル大事です!)
③ 作品のURL(掲載先に指定はありません、ご自由に!)
応募先 1:Twitter(X)
https://twitter.com/koga_hiroto_13
応募先 2:メールアドレス
※メールかDMでの参加表明をもって「エントリー完了」となります。お気をつけください。
※お受付が完了した際にはわたくしから返信を差し上げています。もし返信がない場合はお手数ですがご一報ください。(迷惑メールフォルダに紛れていたり、DMが受け取れていないことが過去にありましたゆえ、お手数ですがよろしくお願いいたしますm(__)m)
優勝作品の選定と各賞概要
ご応募頂いた作品は古賀が責任もって拝読し、優勝作品および各種優秀賞を選定致します。
前回の結果発表記事はこんな感じ↓
■「最優秀古賀賞」とは
・最優秀作品に与えられる賞で、今回の優勝作品です。
・嘘偽りなく真っ直ぐに私の胸を打った作品に授与します。
・魂が震える作品、お待ちしております。
☆賞品:アマギフ1万円分
■「裕人賞」とは
・優秀作品に与えられる賞です。
・私の文学的琴線に触れた作品の中から、
・特に言葉や文章の魅力を重視して選出します。
☆賞品:何かわたしっぽい粗品
■「🐸賞」とは
・優秀作品に与えられる賞です。
・私の文学的琴線に触れた作品の中から、
・特に構成や着眼点の面白さを重視して選出します。
☆賞品:何か🐸っぽい粗品
■「🎅賞」とは
・優秀作品に与えられる賞です。
・観覧者による人気投票で最多得票であった作品に授与します。
・最優秀古賀賞/裕人賞/🐸賞とのダブル受賞も有り得ます。
☆賞品:何か🎅っぽい粗品
本文学祭に関する注意点
※本件は古賀裕人による私設文学祭であり、最優秀古賀賞を受賞されてもキャリアに箔はつきません。全然つきません。
※審査は古賀裕人が単独で実施いたします。
※それでも良いよと面白がってくださる方のみご応募頂けましたら嬉しいです。
※エントリー頂く作品数に制限はありませんが、持ち時間は1人1時間です。1時間以内に複数ご執筆頂いた場合には、全てまとめてご提出ください。ただし作品数自体は選考に影響しません。
※提出頂いた作品の著作権は100%著者にあります。が、もしこの企画が長続きして、作品集作ろうよってなったらその時はまた相談させて下さい!
※古賀コンは募集要項も応募作品も結果発表も誤字脱字だらけで毎回お送りしております。もし見つけたら優しく教えてね☺︎
応募いただける素敵な作品
ジャンルは不問です。
小説、エッセイ、短歌、官能、殺生、なんでもOK。
NG項目はありません。
セリフ有なら漫画も可!
ただし募集期間内に1時間で書き上げた新作に限ります。(字数制限なし)
また後述する課題テーマが作品に盛り込まれていることが条件です。
テーマは開催回によって変わるので、毎度チェックよろしくお願い致しますね。
また規定の「1時間」をどう捉えるか、テーマをどう扱うかなどは、全て執筆者の方の自己判断にお任せ致します。自分が1時間だと思ったらそれが1時間なのだ!
※「持ち時間」が1人1時間です。1時間以内に複数の作品をご執筆頂いた場合には全てまとめてご提出ください。
応募いただける素敵なあなた
年齢性別国籍問わず、どなたでもご参加頂けます。
ただし、過去に支払いを受けた原稿料を時給換算した時にその時給が1万円を超えたことがある方は参加ご遠慮下さい。
※遠慮しない場合はエントリー可
作品募集期間
2024年12月5日(木)21時
~ 同年12月9日(月)21時 迄
※募集期間は毎回あえて短めに設定しますのでご注意下さいませ!
◎それ以降のスケジュール
・12月9日(月)22時頃~12月13日(金)13時迄:人気投票受付期間
・12月13日(金)19時頃:結果発表
・12月19日(木)21時〜:古賀コン7後夜祭@Xスペース
第7回私立古賀裕人文学祭テーマ
今回のテーマは、、、
「 ダンスをご覧ください 」
とします。
このテーマをどう解釈するかはあなたの自由!
好きなものありったけ詰め込んだ作品、ぜひ読ませてください。
ご応募お待ちしておりまーーーす!(/・ω・)/
ご観覧の皆さまへアンケート投票のお願い
今回も人気投票、実施いたします。
「ええな〜これ!これええな~!」と思ったものに一票ご投票を頂けましたら幸いでございます。
もちろん全ての作品をご覧になる必要はありません。
気になって覗いたものの中から、「あなたの一番」を教えてください。
ご協力のほどよろしくお願い申し上げます☺
以上
主催者プロフィール
古賀 裕人(こがひろと)
博士(芸術学)、演出家、ビジネスコンサルタント
東京生まれ東京育ち現埼玉住み孤高の36歳。
専門は演技論、社会心理学、対人コミュニケーション、食べ歩き。
娘が保有するウイルスは全て移り毎回かかりつけ医に笑われています。
トルストイの『幼年時代』や『岩谷テンホーのみこすり半劇場』を超える作品に出合いたい。
そんな思いでこのコンテストを主催しています。
出て来い!!未来の文芸パンツェッタ・ジローラモ!!!
ぴゅん!