見出し画像

150 試作品披露会

「これ、なんですか?」

 リリアは目を丸くしつつ開けられた箱の中にあったものに首を傾げる。そこには幾つかの試作品らしき物体が並んでいる。

「よくぞ聞いてくれました!!」
「は、はい?」

 セシリーは眼を煌めかせながらリリアの手を両手で包むように握ってくる。ブンブンと振る手に込められた力が強い。セシリーの芯のようなものをリリアは自然と繋いだ手から感じ取っていた。
 しかし、意識は今は別の方へと流れていく。箱の中身だ。

「ひとまずセシリーの説明を聞きましょう。私のアイデアがどうなったのかね。気になるから」
「は、はぁ」

 リリアが頷くとセシリーは箱の中からごそごそと何かを取り出して掲げた。

「まずはこれです!! ジャジャジャーンだよ!!!」

 見た事もない武器が目の前に掲げ上げられて思わずその迫力にオオーッと言いながら二人は小さく拍手をする。

「それはなに?」
「名付けて剣斧くん一号!!」
「けんぷ、くん? いちごう??」

 紹介された単語がなんなのか処理を行うのに時間がかかる二人。形状から遅れて文字が脳内に浮かび、ああと納得する。

(ネーミングセンスが安直すぎるわ)
(セシリー先輩のセンスって)

 二人は思わず目を細めた。しかし、目の前のセシリーはというと鼻息を荒くして自信ありげだ。

「そうです!ぼくが試作したこの剣斧くん一号は持ち手、柄の所への攻撃を守るような形状になっているレイピアタイプの刺突系統の細身剣の手元部分を参考に、そのまま手元は手斧にしちゃえばいいのでは!っていう発想で作った剣です」

「ずいぶんとゴツイわね」
「剣がおまけのような」

 ショコリーのリボンの大きさ程の短い斧の刃の部分の頭から剣がニョキっと伸びている。
 手元近くが斧になっているので取り回しが悪いのが見るだけで分かる。小回りの利く武器ではないようで、見た目だけが凄く強そうではある。

 セシリーはその剣斧くん一号を腰に手を当ててドヤ顔で紹介してくる。
 
「なかなか強そうにはなったんですが、斧の部分が手元にあり身体に近いので剣を振り下ろすように使おうとすると自分の太ももとかに当たりそうになる為、非常に危険です!!」

 いきなり大声で紹介しながら圧倒的弱点を口にした。

「ドヤ顔で説明する事じゃない!!」

 ショコリーがびっくりして思わずセシリーにツッコんでしまう。

「さぁ、実際にやってみてくださいショコリーさん!!」
「いやよ!! そんな説明の後で使える訳ないでしょう? 怪我したらどうするのよ、ようやく傷が治ってきたところなんだから、アンタが実演してみせなさいよ」
「危ないので嫌です!!」

 セシリーは腕組みをして拒否した。

「次っ!!」
「分かりました!! こちらは、剣弓くん剣矢くん兄弟!!」

 即座に次を促すとセシリーも流れるように次の物体を箱から出し始めた。

「けんきゅう、くん? けんや、くん?? きょうだい???」

「はい!! こちらは弓を使って矢ではなく、いっそあの怪物達にダメージを与えるには剣を射出してしまえばいいのでは? という発想から作り上げられた試作品です」

「え、剣を、飛ばすんですか?」

「ミスリルを扱える方々が重さをあまり感じないという部分に着目して作り上げました」

「ふーん、これは面白そうね」

「飛ぶんですか?」

 リリアは至極当然の質問を投げかける。

「飛ばせません! お二人は何故かミスリルを軽く持ちあげてましたけど、普通の人には重いですし、そもそも剣は手元の方が重量があるものですから、相手に届く前に刃が相手に対して回転して風の抵抗を受けてしまったり、後ろ向きに飛んでいってしまうなど、ほぼ投石と同じように塊をぶつけるような攻撃にしかならない難点があります。敢えて作る必要がないといいますか。剣矢くんちっちゃくて細くて可愛げはすごくある子なんですけど」

 話を聞いていたショコリーが真顔で呟く。

「それならいっそミスリスを石のまま投げつけたほうが威力ない?」
「仰る通りです!!」
「……」

 ショコリーのリボンを室内の風が凪いでゆらゆらと微かに靡く。

「……それなら私にも出来そうですね。狙えるかとかは別として」
 リリアも石を投げるくらいは出来そうだと思い、場を和ますように発言するが生まれたこの微妙な空気は変わらない。

「はい、なので二人の兄弟仲が不仲になってしまいました。まるでぼくの家のように!」

 これも全てセシリーの発言によるものだ。勢いが付いているセシリーはいつものおどおどした感じが消えてショコリー相手にもどんどん攻めていく印象が生まれている。
 とうとう最後には自虐すらもいとわない発言も飛び出し、笑っていい部分かどうかも二人には判別できない。

 セシリーはもしかして非常にメンタル、精神力が強いのではないかとリリアは思い始めてきた。

「なお、剣弓くんは、弓本体に剣のように刃を付ければいいのではとやってみましたが……」

 セシリーはニヤリと微笑む。しかしショコリーは真顔のまま動かなくなった。

「本体を刃に、つまりは金属にすると柔軟性が失われてしまう為、弓弦を張れなくなりましたね」

 まるで戸口から隙間風が吹き込むような速度でショコリーのツッコみが入る。

「弓の意味!!! 矢すら飛ばせないじゃない」

「結果、ただのちっちゃい剣と、両剣です」

「次」

 ショコリーはうな垂れているがセシリーはというと、目をキラキラと輝かせたままだ。彼女にとっては普通は失敗と言われる事でもそう思っていないのかもしれない。
 意外と目の前の二人は相性がいいのかもしれないとリリアは他人事のように眺めているが自分もその輪の内側である事には未だ気付いていなかった。

「三つ目はこちら!!」
「けんそうくんですか?」

 リリアが形状を見てフライングで名前を予想した、適当なネーミング。

「その通りです!! よくわかりましたねリリアさん!! こちらは槍を握る為の部分以外を全部剣にしました! 剣槍くん一号です!」

 当たっていた。

「握る場所しくじったら自分の手が切れるわね」

 ショコリーは淡々と冷静に分析する事に舵を切ったようだった。

「はい!!」

 がすぐに冷静さを失わせるようなセシリーの威勢のいい返事に顔が真っ赤になる。

「はいじゃないわよバカセシリー!! 私の出したアイデアはもっとこう、実戦的かつ実用的だったはずなのに!!」

 ムキーッとショコリーが地団太を踏む。ここまで翻弄されるショコリーを見ているのを徐々にリリアも楽しくなってきていた。
 いつもは彼女に弄られているからだろうか、なぜだか心地いい空間に錯覚し始めている。

「そうなんですけど、ショコリーさんの妄想武器は現実的に作れないアイデアが多かったと言いますか」
「妄想じゃないわ! ちゃんと設計図もあるし」

 そういってショコリーは一冊の本を取り出してテーブルに叩きつける。

「……なんで最初にこれの存在教えてくれなかったんですか?」

「「「…………」」」

 三人の間に沈黙が流れ、セシリーの勢いを真似するかのようにショコリーの目がクワッと見開かれる。

「忘れてたのよ!!」

 セシリーは職人気質だ。こうなると圧がすごい。ベストを尽くせなかった自分。本の存在さえあればもっと拘れたはずなのだ。

「結構、試行錯誤に時間かかったんですけど」
「それは悪かったと思ってるわ。けど本を読めない可能性もあったでしょ?」

 珍しくショコリーがたじたじになる。
 リリアは心底このやりとりを一人楽しんでいた。

「ちょっと見てもいいですか?」
「よ、読め、ますか?」
「そうですね、図解はなんとなく理解できますが、これは古代文字ですかね?」

 若干ショコリーが丁寧な物言いで話しかける。リリアは吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。

「私も言語には詳しくないんだけど、ドワーフと呼ばれていた人たちの間で使用されていたらしいわ」

 ここでリリアとセシリーには耳馴染みのない言葉が出てきて二人は首を傾げる。

「「どわーふ??」」

「まぁ、遠い昔にそういう人たちがいたらしいのよ。手先が器用だったり鍛冶や金属加工の技術が高い人たちのことらしいけど私もそこまでは分からないわ」
「最初からこれがあれば、、、」

 セシリーは相当気合を入れて試作の作業に臨んでいたのだろう。箱の中にはまだまだ沢山の試作品が見えてショコリーは非常に申し訳ない気持ちになっていた。

「だから悪かったわよ」
「バツとしてショコリーさんは試作品の制作助手をしてください。解読してからやるのは時間が勿体ないので、やりながらその都度、聞きますので解説をお願いします」
「ええ、他にもやる事あるんだけど」
「私も他にやりたい事はあったんですけど」
「……わ、分かったから、そんな怖い顔しないでくれる?」

 先輩二人のやりとりを眺めつつショコリーが折れるのは珍しいなと思う。

 作業に没頭するスイッチが入ったセシリーを見て、彼女の株、自分の好きな事へのこだわりと尊敬がリリアの中で大きく上がっていくのだった。


つづく

■――――――――――――――――――――――――――――――■
天蓋は毎週水曜日の夜更新

「天蓋のジャスティスケール」
音声ドラマ版は 【 こちらから 】ご購入いただけます(note版)

無料で冒頭から18分聞けるお試し版は
【 コチラから 】お聞きいただけます

声プラのもう一つの作品
「双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
双校は毎週日曜日に更新中
★西部学園都市編 第二部 アナタトミツメタケシキ 連載中!

双校シリーズは音声ドラマシリーズも展開中!
「キャラクターエピソードシリーズ」もどうぞお聞きください。
★EP01~16 リリース中!!
なお
EP01 キュミン編

EP02 リリア編

に関しては全編無料試聴可能です!!

音声ドラマシリーズの新展開!!
なんとファーストシリーズの音声ドラマが
リマスタリング版として動画でアップロードされ
無料試聴版に切り替わります。

2024年4月より随時、1エピソードずつ更新予定!

まだまだ目が離せない双校シリーズ。
全力全開の群像劇をどうぞお楽しみに!!


そして声プラのグッズ盛りだくさんのBOOTHはこちら!!
BOOTHショップへGO
■――――――――――――――――――――――――――――――■

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?