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EP 04 満腹の間奏曲(インテルメッツォ)03

「「「「できたわ!!(よ)」」」」

 モナの演奏が一通り終わったであろうその瞬間。ほぼ同時に四人の声が重なり料理を両手いっぱいに抱えて持って現れた。

「いい匂い……です」

 先ほどまで心地よい歌に聞き入っていたコニスの目の色が変わり、待ってましたとばかりにそのお腹がぐーきゅーぎゅるるとモナの演奏を引き継ぐように異なるメロディを奏で始めた。

「お待たせしてごめんなさいね。でも、あちしの……いいえ、あちしたちの最高傑作が出来上がったわ!! ねっ、ヤチヨちゃん!」
「うんっ! トニーさん!! ほとんどあたしは味見しかしてないけど! 最高に美味しいものが出来たわ!!」

 そんなところまで正直なのがヤチヨの良いところであり、そんな彼女の笑顔にソフィとそれに釣られたモナも優しい笑みを浮かべる。
 そんな二人の横で、次々に出来立ての料理がテーブルへと並べられていく。
 
「いいえ。あーたが味見をして率直な感想をくれたからこそ。あちしもどこに出しても良いくらいの最高傑作が出来たわ。数多の失敗作たちもきっと喜んでくれているわ」

 その失敗作を先に出してくれていても良かったのにと思ってしまっていた事をソフィはそっと心の中に仕舞い込んだ。

「ちなみにヤチヨさん……だったかしら。その料理の感想とかって聞いても良い……?」
「うんっ! どーんってしてばばばーんで!! くぅうう、おいしーい!!って感じ!!」

 その発言を聞き、モナは頭を抱える。自分の予想はやはり間違ってはいなかった。
 この一見すると何を言っているのかこの子は……? と思われるタイプであるだろう。
 しかし、モナもヨウコもトニーによってその辺の感覚は鍛えられている。
 おそらく、思った以上にヤチヨのあやふやなアドバイスに盛り上がった結果なのだろうとモナは一人で納得していた。

「さぁ召し上がれ。名付けてーー」
「いただきます」

 トニーの話を遮るように待ってましたとばかりにキラリと光ったように見えたスプーンがそのまま料理の中に突き入れられ、そのまま口に運びこむコニス。

「……うふふ。そうね。料理に一番大切なのは喜んで食べてもらうことだものね」
「どうかな……コニスちゃん?」
「……ボボボボボボ、ズンズン、ゴンっですっ」

 キラキラした眼差しで頬っぺたいっぱいに頬張りながら料理を飲み込み一言。
 直後に再びものすごい勢いで食べ始める。
 その感想を聞いて、ヤチヨとトニーがなるほどという顔を浮かべる。

「コニスちゃん、良かったらこっちもどうぞ」
「!? はいっ! いただきます!!」

 そう言って、ヨウコによりさりげなく置かれた皿。まだ湯気の上がる料理にコニスがスプーンを入れる。

「うふふ。トニーほど、変わったものでなくて一般的な家庭料理ではあるけど。たくさんあるから食べてね」
「はぐはぐはぐはぐ、もぐもぐもぐ、ごっくん。はいっ! 美味しいですっ!!」

 そう言ってコニスが夢中で食べ進めていく様子をソフィは唖然として見ている。

「どうかな……? コニスちゃん?」
「はいっ! ヒナタさんのお料理に似ていますが。こちらの方が、より暖かさと優しさを感じるような気がします」
「そっかぁ……」
「ヒナタ、今のうちに花嫁修行しに戻ってくる……?」
「ちょっと考えとく」

 そう言って、ヒナタが苦笑いを浮かべる。

「でもっ、ヒナタさんの料理のほうが刺激的です。なんというか、元気がある気がします」
「……若さかぁ……それとも、フィリア君の好みなのかしら」
「……かもね」

 そう言って親子が微笑ましい笑顔を浮かべる一方。席に座っていたソフィとモナの表情が見る見る変わっていく。
 少しずつ、つまむ様に二人も料理を食べていた。が、食べられたのは本当に最初の一すくいだけであり、それ以降はテーブルの上はコニスの独壇場となっていた。

 量で考えても、トニーとヨウコが作り出し、テーブルへと運ばれた料理は5人前以上の量はあったはずだった。
 それが、既になくなりつつある。

 何が起きているのだろうか……? 目の前の小柄な少女のどこにそれほど入れられるスペースがどこにあるのだろうか。

 まるでお腹を空かせた猛獣を目の前で見ているかのように、二人の表情が強張っていく。

 料理が完成した達成感で談笑を続け、テーブルの皿の全てが既に空っぽである事に気づいていない四人の横をコニスがすり抜けていく。
 ソフィはただただ唖然とするばかりで固まっていた。
 ゆっくりとキッチンへと入って行くコニス。ただ見守るしかないソフィとモナ。
 
 話に夢中になり調理を終えた四人はそのことに気づかなかった。
 まさか既にテーブルに出された料理の数々が完食されていようとは思いもしない事だったのだろう。
 キッチンへと向かった彼女の次なる狙いはおそらく……。

 そして、コニスがキッチンに入ってからしばらく経った頃。
 コニスの姿がないことに、ようやくヒナタが気づいた。

「あら……? ソフィ、コニスちゃんどこ行っちゃったの……?」
「えっ……あっえとーー」
「あっ、ヒナタ。コニスちゃんならあそこよ」

 ヤチヨが指さした先。そこにはとろんとした目をした眠そうな顔をしたコニスがそこにいた。

「あら……? お腹いっぱいになっておねむになっちゃったのかしら?」

 ふふふとヨウコが、そのコニスの姿を見て昔を思い出し思わず笑みを浮かべた。

「……ごちそう、さま……です」
「はい。おそまつさまでした。ヒナタ、ベッド借りるわね。さっ、コニスちゃんここじゃなくてベッドでおやすみしましょうね」
「……は……い……」
「お母さん、私も行くわ」
「そう。じゃあ案内してヒナタ」
「うん」
 
 ヨウコとヒナタが二人でコニスを抱えリビングを後にした。

「ふふ、コニスちゃん、お腹いっぱいになったら寝ちゃうなんて可愛い」
「みんなそんなものよ。満腹になったら眠くなる。それが幸せの証なのよ」
「そうかもね。トニーさん」
「それじゃ、今のうちに残り物を私達で片付けちゃいましょうか。あーしの作品としては失敗作だとしても食べ物を無駄にはできないし。それも食べちゃわないともちろん手伝ってくれるわよね……? ヤチヨちゃん」
「もー……仕方ないなあ」

 そう言って談笑をしながら、にこにこした表情でキッチンへと戻っていく。
 数秒後。二人が驚愕に染まった悲鳴をあげたのは言うまでもない。

 結果。コニスはおおよそ10人分以上の量の食事を平らげ、満足そうな笑みを浮かべてすやすやと眠りについた。

 後片付けを行なったヒナタが確認したところ。食材はヨウコが持ってきた食材も含めて全てなくなっていた。
 料理のメニュー数は二組合わせて6~7品目はあったはずだった。
 しかし、その全てをほぼコニスが食べ尽くしてしまった。
 
 その事実を知った四人はソフィとモナよりも一拍遅れて気持ちよさそうに眠る『もうじゅうコニス』の食欲の恐ろしさを知ったのだった。

 コニスが眠りについてから、しばらく時間が経った頃。
 片付けを終え全員が一息ついてテーブルに座っていたころ。
 全員分のコーヒーを入れたヒナタがテーブルにそれぞれのカップを置いていく。

「ありがと。ヒナタ」
「どういたしまして」

 そう言って、最後にヤチヨが自分のカップをヒナタから受け取る。

「それにしてもこうしてヨウコとモナに会うのもいつぶりかしら」
「トニーが自分の店を持って以来だから……もうずいぶん前の話になるかしらね」
「はぁ……本当に年は取りたくないわぁ……」
「何言ってるのよ。あたしよりも若々しい姿してるくせに、嫌味……?」
「わたしと違って、旦那も子供もいるんだから。その程度の嫌味言わせなさいよ」
「そうよ。そうよ。あーたは、あちしたちに多少は嫌味言われても仕方ないのよ」
「何よ。それ」

 テーブルを囲みヨウコ、モナ、トニーが楽しそうな会話を続ける。
 そんな三人を見てヤチヨが会話に割り込んでいく。

「ねぇ、ヒナタのママとトニーさんたちはどのくらい前から仲が良いの……?」
「えーと……学院から……自警団時代もなんだかんだで交流はあったからーー」
「えっ!? 自警団……!?」

 ふと、こぼしたヨウコの発言にヒナタとヤチヨだけでなく。
 その会話を少し遠くで聞いていたソフィも驚きの顔を浮かべた。

「お母さん! 自警団にいたの!!」
「あら……言ってなかったっけ? でも、すごく昔の話よ」
 
 初めて聞く母の過去にヒナタは、何も話せず。黙って口を閉じて聞いていた。

「元々は一部の人たちが何らかの理由でやってたことのお手伝いのつもりだったの。だからこそ資格みたいなものもなくて。トニーやモナが手伝いに来てくれたりもしていたわ。でもそれが今のように上下関係? というか、統制的な形態っていうのかな。そんな場所に変わりそうだって話が出た時に辞めたの」
「それはどうして、ですか……?」
「……純粋にイヤ、だったから。自分で考えて、自分たちの意思で活動をしていたのに。それを何ていうのかな、義務感の中ではしたくないなって……そう思ったの。だから、その後を信頼できる人に託して私は自警団を離れたの」
「ちょ……ちょっと待ってください!! えっ、それじゃあ……その後に託した人たちって……」

 ソフィが何やら少し興奮にも似た状態で話を切り出した。

「……私の一番の後輩。キュリアよ」
「えっ……えーっ!?」
「ソフィ、どうしたの……? あんたさっきからテンションがへーー」
「アイゴケロス初代団長キュリアさんですか!?」

 ソフィがたまらず大声をあげる。

「びっくりしたぁ……いきなり大きな声出さないでよ」
「興奮するなと言う方が無理ですよ! 自警団ではレジェンドと呼ばれる方ですよ!! 団長という役割を終えてなお、教育係としてアインさんやツヴァイさんやドライさんたち含めた沢山の団員を育てているんですよ!!」
「そう……なの……?」
「えっ、えー!! ヒナタさんも知らないんですか!? キュリアと言えば。アイゴケロスの団長と同時にパルテノスの創設者!! 慈しみの女神! それがキュリア様ですっ! 医療部隊の書にもその自画像が描かれていたじゃないですか……!!」
「あっ、あー……指導書、ね……」
 
 医療部隊の指導書……ヒナタがふと思い出した記憶では、貰った日から授業の時に開くフリをしてほとんど目を通していなかった。
 そんな悠長な時間はないと、専門の医学書を開き独自に勉強をしていたからだ。
 そのおかげで、ヒナタは驚くべき早さでパルテノスの見習いではあったが、正式入団を過去に果たしている。
 ある意味、自警団の団員時代のヒナタは優等生でもあり、時に不良ともいえる行動に問題のある団員だったのだ。



つづく


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