181 西部学園情勢の変化
生徒会の面々が揃って教員棟にいるマキシマムの元へと訪れていた。緊急遠征の引率であった教師が戻ってきているという事を知り、急ぎ駆けつけていた。
マキシマムならばきっと何かを知っていると考えた。緊急遠征へと向かった生徒は全員戻っていないにも関わらず彼一人が学園へと戻ってきているのには何か理由があるはずだ。
と同時に安堵もしていた。マキシマムの生徒達からの信頼は厚い、もし仮に生徒達に何かあればまず間違いなく助けるはずだ。
その彼が一人で戻っても大丈夫であると判断したということはティルスたちに危険はない状態だと言える。
「ふむ、ティルスは学園へしばらくは戻れん」
だが、期待とは裏腹に告げられた言葉に生徒会のサブリナ、リヴォニア、レインの三人は呆然と立ちすくんだ。
「先生、それはどういうことだわよ」
「そのままの意味だ」
「それだけでは納得できないだわよ」
「……今はそうとしか言えんのだ」
リヴォニアだけは眼を細めて思案し始めていた。ティルスが居ないこの状況は寧ろチャンスなのではないだろうか? 彼女に認められる功績を今のうちに上げれば帰還した暁には彼女もきっと自分を認めてくれるはずだという事に思い至り、一番後方で口角を吊り上げる。
「ティルスがどのような判断を下すかは分からん。少しばかり時間が必要でな」
「……」
「ティルスはこの国で最も地位の高い貴族、双爵家の人間だ。これだけで察してくれというのは酷だろうが、こればかりはワシでもどうにもならん事実なのでな。すまん」
生徒会の面々はその言葉に今は退室するより他なかった。緊急の遠征先はもう一つの双爵家であるということは既知である。
自分たちの知る由もない何かがあったのだという事だけは理解できた。
そして、それらが自分達では決して手の出しようがない領域の話であろうことも。
三人が生徒会室へ戻ると入り口に人影があった。一番過酷な遠征地域となっていた班をほぼ全員帰還させた実績を持つヒボン。
既に生徒会の彼らの中でのヒボンの評価は非常に高いものとなりつつあった。
「あ、皆さんどこかに行っていたんだね。丁度良かった」
「どうしたんだわよ」
サブリナが声を掛けるとヒボンは資料の山をバサバサと振った。
「出来る限り早い方がいいかと思ってね」
「もう遠征の報告書をまとめたのかい?」
レインも同じく驚いた。あまりにも良すぎる手際に感心するしかない。
これまでまるで注目されていなかった生徒だっただけにリオルグ事変からのヒボン、そして彼と同じ班であった生徒達の名前はピックアップされて少しずつ学園内でも知名度が上がり始めている。
そして今回の遠征だ。間違いなく彼らはこれからの西部学園都市内で存在感を持つ生徒として見られることとなるだろう。
これまでの数年訪れることのなかったティルス一強であって生徒会の時代は終わりなのかもしれない。
安泰だったはずの西部生徒会もティルス一人がその責務を果たしていたのだと気付く。
自分たちは彼女の役になど立てていなかったのかもしれないという現実を彼女がいなくなっている学園の中で思い知る。
彼女が居なければ自分達はただの一生徒。たまたま運よく生徒会に居られているだけのお荷物だったのかもしれないとサブリナとレインは奥歯を噛みしめた。
彼らの表情に何かを感じ取ったヒボンには大体の予想を立てていた。学園内であれだけ目立つティルスの姿がない事は既に情報は得ており、彼らが不安な表情なのはおそらくそれが原因であるということも理解し、分析する。
自分にとってはこのまま生徒会の隙を狙い動く方がいいタイミングであるとは当然考えている。しかし、彼の描く生徒会の奪取、そして安定化させるシナリオとして不可欠なリリアはまだ意識を失ったままだ。
生徒会を一時的に奪取するだけでなくそこから先も考えれば、リリアの存在を更に学園内で拡げておくことはヒボンにとっても必要なことだ。
功を焦れば仕損じる。遠征でのエナリアとの偶然の出会いと経験も、そして、あの過酷な環境から生還できた奇跡を無駄にするわけにもいかない。
小さく息を吐き出すと笑顔を向けた。
「あれ……浮かない顔だね。何かあったのか?」
サブリナとレインが顔を見合わせて悔しそうに、でも自分達が成すべきことを見据えて頷く。
「とりあえず入ってくれ、僕たちだけじゃ少し心許なかった所でね」
心底疲労を感じる声色にヒボンも本来の人の好さが顔を出してしまう。今は打算で動く時ではない、と。
「?? 分かった。僕で役に立てるなら」
レインに促されヒボンは室内へと足を踏み入れた。
「……」
リヴォニアは入っていく三人を見送ると自分だけ踵を返して廊下を歩いて去っていった。その顔には怪しげな笑顔が貼り付いていた。
つづく
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