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多文化共生の現場を訪れて生まれた6つの気づき——共創プロジェクト「多彩な文化のむすびかた」(4)

こんにちは、KOELのデザインリサーチャー 山本健吾です。
前回お伝えしたように、私たちは「多文化共生」を考えるフィールドワークとして兵庫県神戸市長田区で色々な方々にお会いしてお話を伺ったり、いくつかのキーとなる場所を訪れました。

長田で暮らす海外からの移民や外国にルーツを持つ人、暮らしの中でその方たちと関わりを持っている方々、もしくはその方たちの生活を支援している方々。様々な立場から見えていることや感じていることを言葉にしていただきました。その中には、「多彩な文化のむすびかた」につながる6つの気づきがありました。

《6つの気づき》
1. 共存・共生にはステップがある
2. 共生の壁はお互いに踏み越える
3. それぞれの違いを受け入れる
4. やってみることに寛容である
5. 与えられるモノを持つ、与え合える関係性を築く
6 . 継続的な暮らしの中に接点がある

今回は、この6つの気づきについてお話していきたいと思います。みなさんも、ご自身の住んでいる地域や身近な人たちを想像しながら読んでいただけると、今までと違った側面が見えてくるのではないかと思います。


1. 共存・共生にはステップがある

「多文化共生」というと、まるで全国共通の理想形な状態があり、どの地域でもその理想形にたどり着くことができるモデルがある、とイメージしてしまいます。
長田でのフィールドワークを通して、多文化共生の理想形モデルは存在しないこと、さらに「共存・共生にはステップがある」ということに気付かされました。
多文化が混ざり合う長田では、まずはお互いに静かに暮らせる関係である「共存」を最低限確保することから始め、そのための工夫として、ゴミ出しなどのルールの多言語での発信や、語学的サポートへの取り組み、留学生への食糧支援といった教育環境のサポートに取り組んでいました。
地域に暮らす人々が、自分たちの特性や状況に合わせて共通のビジョンを描き、連帯しながら1つ1つの困難を共に乗り越えていくことで、少しずつステップが上がるように「共生」は構築されていくのだと思います。

2. 共生の壁はお互いに踏み越える

マジョリティとマイノリティにおける「多文化共生」では、マジョリティ側が「おもてなし」してマイノリティ側を仲間に入れてあげるか、マイノリティ側が頑張って仲間に入れてもらうか、のように片方だけが努力するという状況に陥ってしまうことがよく見られます。
長田では、マジョリティ側・マイノリティ側、それぞれの歩み寄りを感じました。その根底には、それぞれが「地域を良くしたい」「居心地の良い暮らしができる地域にしたい」という意識があって、お互いに小さな対話や取り組みを繰り返しながら、少しずつ共生の壁を踏み越えているようでした。

3. それぞれの違いを受け入れる

多くの人は「日本人と外国人では暮らしてきた環境や生活様式などの文化が違うことは当然のことだ」と思うでしょう。ただ、文化の違いを「認識している」と「受け入れている」は大きく違っていて、多くの場合、認識してはいても受け入れていないのではないでしょうか。
長田であった方々は、国籍に関係なくお互いの文化の違いを受け入れて、共生への努力を続けてらっしゃいました。
また、違いは国籍・文化だけではないということにも気付かされました。一人ひとりが持つバックボーンの違いから個人の中にも多様な要素が内在していて、その個人の中の多様性に向き合うことが多文化共生の大切なポイントの一つになります。これはカナダのブリティッシュコロンビア州のインクルーシブ教育に近い考え方です。

参考:カナダBC州のインクルーシブ教育 https://www2.gov.bc.ca/gov/content/education-training/k-12/teach/resources-for-teachers/inclusive-education/videos

4. やってみることに寛容である

現状の慣習や制度などを超えてチャレンジしたり変えたりする取り組みよりも、現状の維持・改善や、結果がある程度想定できるものの方が取り組みやすく、結果として変化が起こりづらい状況になってしまうものです。
長田で会った方々は「やってみる」ということと「やってみた結果」に対して寛容でした。そこには、様々な変化や震災に向き合ってきた長田の歴史によって育まれた、やってみることへの寛容さと、やってみなければ・変わっていかなければ目の前の状況や未来に対応できない、という気概を感じました。
地域に住む人々が、地域の中の足りない部分や空いている部分を探して埋めていくことで、地域のシステムが形を変えながら維持されていました。

5. 与えられるモノを持つ、与え合える関係性を築く

日本に暮らす外国人というと「発展途上国から日本に職を求めてやってきた、経済的な苦しさを抱えた外国人」をイメージしたり、外国人との関わりとしては支援活動的なものが頭に浮かぶ人は少なくないでしょう。そういった面があるのも事実ですが、長田では、普通に働き・普通に暮らす外国人の方々の暮らしを垣間見ることができました。彼らは支援される“だけ”の存在ではなく、地域の暮らしの中で他者に何かを与え合いながら暮らしていました。ここで言う「与え合うもの」は経済的なものだけではなく、例えば、楽器が演奏できる、野菜を育てられる、DIYができるといった、いわゆるそれぞれが持つ“得意技”を指しています。得意技を通して関係性を構築し、お互いに信頼を獲得することで、地域の暮らしの中での居場所が生まれていました。

6. 継続的な暮らしの中に接点がある

国籍・文化の違いに限らず、生活様式が近いと、暮らしの中で出会う機会も多く、居心地の良いコミュニティを構築しやすいものです。
居心地のいいコミュニティがあることは大切ですが、そこだけに閉じ籠ってしまうと、共存・共生への道のりは遠のいてしまいます。別のコミュニティとの接点を作るために祭りなどの大きなイベントを開催することも有効ですが、イベント当日だけではなかなか日常的な関係に繋がらないという面もあります。
長田では、普段の暮らしの中での継続的な接点を作る工夫として、商店街の路面に設けられたKICCやふたば学舎の中に設けられたリサイクルステーションなどが地域住民の暮らしのすぐ近くに存在し、そこを訪れる人たち同士のちょっとした交流を生み出していました。

おわりに

長田でのフィールドワークで見つけた「6つの気づき」を通して、多文化が共生するためのヒントが見えてきました。
たとえもし、「今は全く多文化共生の気配も感じない」という地域やコミュニティであったとしても、この6つの気づきを意識して取り組むことで、多文化共生の一歩を踏み出せるかもしれません。

6つの気づきの中でも、私たちの心に特に残ったのは「1.共存・共生にはステップがある」というものです。
次のエピソードでは、この共存・共生のステップについて掘り下げていきたいと思いますので、お読みいただけると嬉しいです。

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