見出し画像

リサーチから見えた社会の変化—共創ワークショップ「みらいのしごと after 50」(4)

こんにちは、KOEL 田中友美子です。

前の記事で、2021年11月に山口県で行った「みらいのしごと after 50」という、2日間のワークショップを共催したお話を書きました。今回は、「50代以降の働き方、生き方を、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する」ワークショップから何がわかったのか、持ち帰ってどんなことを考えたのか、という考察の部分についてお話したいと思います。

今回のワークショップ「みらいのしごと after 50」は、KOELでビジョンデザインと呼んでいるプロジェクトの一環として行っていました。ビジョンデザインとは、「10年、20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指すアプローチ」で、未来の人々の暮らしを想像することから、今からできること、今やるべきこと、これから向かう方向性などを見据えていこうという探索型のデザインです。

「みらいのしごと after 50」で言えば、10年後くらいの未来の高齢者って、どんな世界に住んでるの?どんな風に生活しているの?ということを見つけたい。そこから未来の人々に必要とされるものってどんなもの?というものを見つけたい。そんな気持ちで、事前リサーチやフィールドワークを通して、未来の兆しを探していました。


事前のリサーチで共有した、みらいの社会に対する前提

事前のリサーチには、前提となる知識を作り、情報を分類したり、背景を読み取ったり、仮説を立てたりできる筋力をつけておく大事な役割があります。私たちは、しおりを作成することによって、その知識をまとめておいたりしました。(しおりの作成のおはなしはコチラです!)

事前の準備の中、50代以降の働きかた・生きかたについて議論を重ねる中で、メンバーがぼんやりと心に持っている、みらいの社会に対する前提がありました。その前提を言語化すると以下の3つの内容になります。

前提 1:高齢者以外の人が、高齢者のために何かしてあげる社会ではない。高齢者は主体的に社会と関わっていく世界である。

みらいの世界は、人口の3分の1が高齢者ということを考えてみても、若い世代が高齢者のために動くという構造では、到底社会が回らなさそうです。「支援をする側・される側という体制にはなり得ない」を前提に、全世代がそれぞれの役割を担って、社会に貢献し、仕事としていくことについて考えることにしました。

前提 2:引退という概念はない

「人生100年時代」では、定年の65歳まで仕事をして、その後に引退する。という構図ではもたなそうに思えます。現代の高齢者は健康状態も良くまだできることがたくさんあるし、経済的にも個人の蓄えで30〜40年の引退暮らしを賄えないだろうし、社会も人口の3分の1を援助し続けることができない。それぞれの世代で、働き方は変化するだろうけども、引退という選択肢はないという前提で考えることにしました。

前提 3:ライフステージは変容する

話し合いの中で、LIFE SHIFTという本を参考にすることがよくありました。特にライフステージの変容について話すとき、よく例として挙げられていました。この本の中でも特に、人生計画を立てるために必要な「資産」と「ステージ」という2つの観点に共感していていました。LIFE SHIFTでは、これまでの「教育-就業-引退」に加え、「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオワーカー」などのステージを、年齢に関係なく移行し続けるマルチステージな人生になる、と書かれています。私たちも、みらいの人々は何度もステージを変えていく生き方をするという前提で考えることにしました。

この前提について、デスクリサーチをしたり、本を読んだり、話し合ったりして、事実を確認し、イメージを合わせ、知識を共有していきました。

阿東の人々の生き方からの気づき

フィールドワーク(成功の8割は準備が握っているフィールドワークのおはなしはコチラです!)から持ち帰った情報は、実際に行ってみることができた場の様子、街の様子、土地の特性などのコンテクストが加わって、大変濃厚でした。

今回のフィールドワークでは阿南地区で独創的な働き方をされている3名にお話を伺いました。その3名の共通点、相違点とはどんなところだっけ?と、振り返りながら特徴を洗い出していき、持ち帰った情報をまとめていきました。

三者の働き方を通してみえたを「6つの共通点」としてまとめました。お仕事の内容というよりは、環境や生き方についてつながるものが見えました。

一方、三者の相違点は、働く中での仕事の進め方、仕事のサイズ感、周囲との関わり方などでした。それぞれの働き方とスケールには示唆があり、仕事の形態を抽象化して理解しました。

また、阿東の人々の仕事には、東京で暮らしている私たちとは違う、お金の感覚があるように見えました。そこには確実に価値観の変容と、現在の経済システムとは違う構造があり、そこに、みらいの社会の兆しを強く感じました。

見えてきた社会の変化

阿東で見たしごとには、一般的に認識されている社会の中での仕事と大きな違いがあることに気がつきました。現在一般的には、募集をかけている職の中から仕事を見つけることが多いと思います。阿東では、地域で必要とされていることの中から自分ができることを見つけて、それを「しごと」に仕立てている人が多いのです。おそらく、人口が減少した社会では、住民のひとりひとりが社会システムを担う必要があり、このような方法で地域社会を回しているように見えました。

今後は、全国的に人口減少・高齢化が進み、阿東と似た状況になる地域も増えてくると思われます。その時には、国も財政難で小さな街にまで支援を行き渡らせることが難しい可能性も高いことを考えると、今後は、それぞれの地域が規模にあった社会システムを構築し、地域の人々がそのシステムを可能にするための「しごと」を仕立てていく方向に進んでいくように思えました。

そんな変化を考えながら、事前リサーチで調べたこと、阿東で見たこと、世の中のニュースなどで聞いたことなどを思い起こしてみると、みらいの社会システムは、今と全然違うものになることが予想されました。

まとめてみると、大きく5つの社会システムの変化が起こりそうだと考えました。

  1. 分散化が進み、社会システムは最適化された規模感になる

  2. 生産側と消費側の距離が近づく

  3. 投資が小さくなり、回収のサイクルが短くなる

  4. 投資と回収における主要プレーヤーが変化する

  5. 個人と公共の関係性が変わる

これらを念頭において、みらいの人々の暮らし・生き方・働き方を考えてみると、「しごと」の概念も変化し、人々は仕事に対して、まったく違う価値観を持って働くようになると思われました。では、そんな新しい価値観の中での「しごと」を「after 50」の文脈で捉えてみると、どういう意味なのだろう。ここまで概念として抽象的に議論していましたが、もう少し具体的にイメージを膨らませるためにシナリオを作ってみました。

社会の変化をより具体的に想像するためのシナリオ

シナリオを作る時には、シチュエーション、対象のモチベーション、キーアクション、を具体化するようにしています。今回のシナリオの設定は、こんな感じで作ってみました。

シチュエーション

  • 自分の住んでいる地域がどんどん過疎化していく

  • 最低限のものは集落内でできるが、ある水準以上のものは近隣の小都市に頼っている

  • テクノロジーは進化していく

  • 大きな資本は見込めない

対象のモチベーション

  • 今住んでいるところに暮らしていきたい

  • 自分が老いた時に欲しい部分を、元気なうちに埋めておきたい

  • 地域の人と一緒に幸福感を感じて生きていきたい

キーアクション

  • ずっと好きな環境で生きていくために、地域のためにできることを探し始める

  • 持っているスキルを付け替える

  • 学び直しをする

  • 自分が老後に欲しい部分を埋めていく

これを元に、世の中の変化、仕事の変化を段階的に体験できるように、2020年・2030年・2040年と、10年単位の変化をシナリオとして書くことにしました。価値観の変わっていく社会で、徐々に老いに向かって準備していく年頃、after 50に向かっていく世代ということで、2020年に30歳の人が、40歳、50歳と変化していくイメージでやってみることにしました。

主人公は、過疎の地域の診療所で働くお医者さん。

2020年:30歳では、町の診療所の医師。
2030年:40歳では、高齢者のおうちにリモート診断設備を普及し、町の診療所と都市部の大病院の連携をして、受診の負担を軽減させる。
2040年:50歳では、資格を取得し、過疎の町にオンライン遠隔手術施設を開始。

という流れで書いてみました。

今まで抽象的に概念化していたみらいの社会変化が、シナリオに落としてみることで、ぐっとイメージしやすくなりました。さらにこのシナリオの他に、他の職業のおはなしも書いてみて、みらいの社会に住む人の暮らしの変化について具体化し、その世界観について考えました。

ただ、シナリオとして具体的に想像してみると、なんとなく、モヤっとした違和感が心に残ります。

なんか違うような気がする。この未来は起こらないような気がする。

それはなぜか。

具体化することで見えてきた「問いの本質」

違和感に向き合ってみると、シナリオを作る際に今回のワークショップのテーマである「after 50」に引っ張られているのでは、ということに気がつきました。50歳になったら、学び直したり、それまでの人生で培った強みを別の使い方をするのだろう。ミドルシニアになったら、次の生き方を設計をするのだろう。「after 50」の節目を意識しすぎるあまり、そんな考え方に囚われていたのです。実際の人生では、年齢で節目が起こるわけではありません。そしてもちろん、みんながみんな50歳で変化を起こさなくてはいけないわけでもありません。

「after 50」のステージの変化を起こすことよりも、本質的に大事だと思っていたこと——フィールドワークから帰ってからずっと心に持っていた「問い」はそんなところにはなかったのではないか。

阿東で出会った人々にも、ある年齢を節目にキャリアチェンジをしたり、スキルを履きなおしたという劇的な変化のお話はありませんでした。皆さんは、それぞれのタイミングで、それぞれの方法で、お仕事を仕立て、複業をされていました。一本の仕事をするのではなく、いろんな仕事を同時進行させていく。それは、状況の変化を吸収するセーフティーネットの役割をになっているように見えました。実際に、フィールドワークで訪問した複業家の明日香さんからは、「リーマンショックで本業のIT会社が不況に陥った時にも、自分には農業があり食べていくことに不安はなかった」とのお話もありました。こうした、異職種に収入源を仕立てておくことで、社会の変化に対応できるということは、みらいの仕事の大きな特性であるように見えました。

現実として、阿東に行ったあの日からメンバー全員が真剣に自分の生き方について考え続けていたこと。それは、50歳以降の生き方どうしよう、ということではなく、「何を複業にしよう?」ということでした。

これまで習得したスキルを使って、自分はどんなしごとを仕立てられるのだろうか。
今の仕事の業種が消滅した時に、今持っているスキルで始められるしごとは何か。

20代でも40代でも、年齢に関わらずプロジェクトメンバーの間では、衝撃的な現実味を帯びて、この問いがずっと心にぐるぐるしていたのでした。

また、自分の仕事の成果が、地域に貢献しているというのも、みらいのしごとの特徴であるはずでした。それぞれのしごとが、社会システムとしての役割を担っていて、地域社会を回していく世の中になる。そういう地域との関わりも、みらいのしごとには、重要な要素でした。

仮説の再検証へ

今回作ったシナリオでは、「持っているスキルを付け替える」「学び直しをする」ということが、テーマであった「after50」の「50歳くらいで起こる」ということに固執してしまい、大事な視点を見失ってしまっていて、現在の延長線としての未来では、「起こらなそう」な世界観を描いてしまい、それが違和感の原因になっていました。

何か見落としているのかもしれない。ということで、舵を切って、これまでの仮説を再検証し、「本質」に向き合うことにしました。

長くなったので、その時のお話は、次のnoteに書いてみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?