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小説『ゾンビつかいの弟子』を読もう

ワシは読んだ。
チョー面白かった。だもんで感想を通じて「ねぇ読んでみなよ…… ねぇ、ホラ、面白いんだから……」と周囲に囁きかけることに決めた。

作者である ”森とーまサン” のことはよく存じ上げていなかった。noteやTwitterでたまに名前をお見かけすることがあり、どうやら長編小説を書き上げた猛者であることは脳に刷り込まれていた。書き上げる=ゴイスー。これは疑いようのない事実。
さらに、その作品名が『ゾンビつかいの弟子』であること、”僕” の一人称で書かれ、”ビィ” という名の少女がでてきて、作品の舞台は現代であること…… だけは把握していた。

なんだよオメー、ちょっと知ってんじゃん。

◆読もうとして読まなかったワシ

そう、実を言えば、タイトルに引き寄せられて2ヶ月くらい前(たぶん)に、ご本人のnoteマイページに飛んで『ゾンビつかいの弟子』の冒頭を少し、800文字くらい(あらためて数えたら925文字)……読んでいたのだ。
だけども、先には進まなかった。しっとり丁寧な描写と会話。なんか「お兄ちゃん」とか呼ぶ少女が ”僕” とバスに揺られてイチャコラして爽やかで眩しい作品か!? オォン!?
……そんな(超勝手な決めつけ)印象を抱き、ワシは血生臭くハードなサツバツ・ワールドやババア・ワールド戻っていった。それがワシの犯した大きな間違いだった

それからしばらく時は流れ、TAMA-TAMA偶然にもご本人とTwitterでトゥイートキャッチボールがあり、ご本人の執筆に対する姿勢に触れ、『ゾンビつかいの弟子』気になるゲージがふたたび上昇していった。やはりゾンビものが好きなワシとしてはタイトルが気になるし、ネクロマンシーが好きなワシとしてはタイトルが気になるし、小説を ”最後まで書き上げた” 人はソンケーでどんな作品か気になるし、なんか一気読み用に [最初から] と書かれたおまとめ版が用意されている。そしてスキをつけた人の一覧をチェックしてみれば、ワシが大好きなタイラダでんサンの名前。こりゃ読むしかねーっぺ、と思い、読んでみた。

ワシの感想文を読まず、以下からさっそく読み進めてもらって構わない

◆結論:チョー面白かった

冒頭でも述べた通りだ。面白すぎて、一気に読んでしまった。

文量は15万文字以上、20万文字以下くらいだと思う。
いや、どうか身構えないでほしい。文章そのものが綺麗でめちゃくちゃ読みやすいし、端的な会話が中心でテンポもいいし、予想外の展開の連続で続きが気になっちゃうし、そりゃもうガンガン読めてしまう。
上に貼った [最初から] 版は、
・1章が「前半」と「後半」に分かれており、それぞれ1万文字程度
・8章+エピローグで完結
・第1部が1〜4章。第2部が5〜8章。大きな区切りもある
てな構成になっている。だから一気に読みやすい(シンセツ!)。もちろん一気に読まずとも、イイ感じに区切りが設けられているので安心だ。「1日1章」、「1日1章の前半(or後半)」といった読み方でもいいし、文中に一区切りあるのでそこで中断してもいい。

ワシはあらためて1文字目から読みはじめ、926文字目以降、墓地が出てきたところで(おっ? さっそくゾンビか)と胸が騒いだ。そして突然現れる異様な赤服集団。(おっ、なんかヤバそうだぞ。襲われちゃうの?)と胸が騒いだ。だがゾンビは出てこないし、赤服のリーダーは丁寧な物腰だ。ホッとするワシ。しかしリーダーが言う。
「近頃、よく、『何か』出ますんで」
(……何か? それって何なの? ねえ、何なの? アレなの?)
ワシは気になって仕方がない。そして「エッ!?」となる1章前半のラスト。そこからは先がまったく読めず、ヤメラレナイトマラナイ・モードに突入し、アレコレをそっちのけ、(ほぼ)1日という短期間で読み終えてしまった。

◆どんな作品?

ワシが想像していた『現代×ファンタジー的なアレでゾンビを使役するネクロマンサーがいてその弟子が……』という内容ではなかった。ぜんぜんそういうのじゃなかった。”ゾンビを使う”、という点ではある意味その通りだけど、予想外の切り口。……それが面白かった。
含まれる要素としては
・SF(繰り返す。これはSFだ)
・ゾンビ(どのようなゾンビかは読んでのお楽しみ)
・甘酸っぱい恋心
・ボーイ・ミーツ・ボーイからのブロマンス(友情的な)
・社会の混乱
・田舎の暮らしと都会の暮らし
・少年の成長
・学校生活(高校、大学……)
・ロードムービー的な旅
・囲んでボーで叩く
など、など。ゴアゴアした描写はほとんど無い(血は飛び散る)。
ありがちなゾンビものではないけれど、ゾンビものとして期待する読者に十分応えてくれる要素が盛りだくさんだ。

序盤のチョイネタバレになるけれど、面白さを損ねることにならない(と思う)ので、具体的に「特にいいな」を3つ挙げる。

1)R・E・A・Lな社会的混乱

読んで驚いたのが、”ゾンビがしれっと物語の最初からいる” という点。田舎でちょっとした騒ぎになっているし、住民は困っているし、マスコミも一時期は食いついたのに、都会の人々からは忘れられてしまうほど小さな問題としてすでにそこにある。それがジワジワと社会全体を浸食していき、ある日を境に全体が混乱に陥る。陥る、と言っても『ワールド・ウォーZ』のような絶叫爆発的なものではない。(直接的にアレとどうこうしていないから)どこか他人事のように楽観視している人たちが「なんかヤバイな」「学校どうしよう」「避難所でしばらく暮らそうかな」みたいな感覚で日常生活を続けてゆく。この辺が、”メチャありそう”…… イコール…… R・E・A・Lだ。交通機関やその他インフラ、物資が制限されてゆく過程や、その結果おかしな奴らが出てくるあたりもキッチリ丁寧に練られていて、面白い。ゾンビの特性(作品上の設定。これがまたイイ)も相まって、ああいうゾンビなら、実際に世の中こういう感じになるんだろうなと思えるR・E・A・Lに満ちている。そんな社会で一時的に家なき子みたいになる ”僕” がロードムービー的にがんばる姿も、ゾンビものや災害ものを扱う作品としてキッチリ押さえてくれていて嬉しい。

2)キャラの描き方と会話センスがゴイスー

第1部の中心は、大学受験を控えた主人公の ”僕”、妹(役)の ”ビィ”、自警団のリーダー ”神白”、金をせびってくる飄々とした男 ”数田” と、その弟。他にも出てくるが、それぞれのキャラはとことん個性的で、書き手にブレがなく、「コイツはこういう奴だ」と徹底して描かれ、その意思を注入されたキャラたちがごくごくごくごくGOKUGOKUGOKUGOKU自然に喋るし動くので、めちゃくちゃR・E・A・Lに感じる。「この状況でそんなこと言うか?」みたいな舞台じみたセリフがほとんど無い。いや皆無だったかもしれない。これはゴイスーなことだと思う。スラスラ頭に入る地の文もゴイスー。
(物語の中での性格的に)一番ユラユラとブレているのは主人公で、流されやすいというか、行き当たりばったりというか、深く考えていないというか、まだ幼いというか…… 高校生らしい少年味に溢れる ”僕”。でも辛い経験もしており、どこか達観&冷めている。頭もいい。ただ全体としてまだ揺れているし、世の中が混乱しても「とりあえず受験勉強はしておこう」みたいな男だ。
それと対照的に、”僕” と関りを持つキャラたちは、まだ若いものの行動原理が ”それなりに” 定まっている。彼ら彼女らは ”僕”と協力し、時には対立し、時には言葉で ”僕” をゆさぶる。”僕” は否が応にもいろいろと考えさせられ、行動しなければならない状況が続く。
そういった人間関係の描写、切れ味X-GUNで端的&説明くさくない会話の応酬(カリカリドリトスなパルプにも通じる)、と ”僕” の心理描写、そして ”僕” と関わることでジワリと変化を見せる彼ら彼女らの描写、など、などが本当に上手く、ワシは頭の中で完全にキャラを作り上げ、一緒に怒ったり仲裁したり悩んだり旅したり…… その場にいるような気分になった。
第2部(5章~)になるとまた関係者は増えたり減ったりもするが、どのキャラについても同じことが言えた。チョイ役のキャラもそうだ。名前も無いようなキャラでもムカつくやつは本当にムカつく描写で上手いなあと思う。ただ全体を通してみれば、周囲の先輩や大人は頼りになるし、いい人が多い。厳しい状況下だからこそ、ちょっとしたシンセツで安心感や温かみを強く感じたワシかもしれないけれど、その辺は読んでいてホッコリした。
(余談だが、ワシが特に好きなキャラは数田兄弟(強いて選ぶならヨシオ)、谷中先生、かーちゃんだ)

3)ケジメと成長

上記(2)に書いた通り、ユラユラしている主人公の ”僕” は他人と行動を共にすることでいろいろと考えさせられる。強引に何かのアクションに巻き込まれる。人に関心を寄せる。もしここで彼が内向的になって頭のなかで(人間とは・・・ゾンビとは・・・)みたいなことばかり考えていたならワシはそっとブラウザを閉じたはずだが、そうはならない。悩みながらも、”僕” は行動し、決断し、物事にケジメをつける。人と絡み、意見も言う。喧嘩もする。しぶしぶ協力もする。ちろんモヤモヤすることもあるけれど、物怖じせずに周囲にぶつかっていく。そうして少しずつ成長し、ボーイ・ミーツ・ボーイとの人間関係も複雑に発展していき、なんだか逞しくなってゆく。第2部では、自分の目標が見つかったりもする。そんな数年間の過程を追いかける楽しみがこの作品には満ちている。

◆最後に

読む前。ワシは勝手に、「才能ある人が2,3年くらい前、スパパーンとスマートに書き上げた話題作(をnote版として再掲したもの)なのかな。書籍化されているのかも」と思っていた。なんたる勝手か。あまりに勝手すぎてセプクものだ。
ご本人のコメントを読むと、そんなスマートな話ではなかった。
華々しく1章をスタートさせたはいいが、2章あたり(かなり序盤だ!)で飽きはじめ、1年ほど休載していたそうだ。再開したはいいが読者は少なく、それでも書くぞ!と書いているうちにノリノリ(死語?)になっていき、ガガガガガーッと書きまくり、少しずつファンが増え、ファンが草の根的にシェアし、ガツンと完結し、今に至る…… とのことだった。先月開催された ”文学フリマ東京” にも数年ぶりに出場し、精力的に活動されているらしい。数名のパルプスリンガーと絡みもあったそうな。
ゴイスーだ。冒頭書いて「これすげえだろ!」から始まり、途中でパタっと飽きる…… よくある話に思える。しかし1年の時を経て再開し、実際に20万文字近い物語を完結させたことがゴイスーだと思う。自作を連載中のワシも、見習わなければならない…… 強くそう感じた。


冒頭で一気読みの第1章を貼ったが、念のためマガジンも。

森とーまサン、めちゃんこ面白い作品、ありがとうございました。

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