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漢方処方のシャドーボクシング【37歳女性、162cm、56kg】

医薬品登録販売者の資格取得までの間、漢方処方の臨床書籍を参考に臨床記録から自分ならどのような漢方薬を処方するのか勉強もかねて取り組んでみようと思います。

参考書籍:臨床に役立つ五行理論-慢性病の漢方治療-
著者:土方康世
出版:東洋学術出版社

患者の情報については一部抜粋。
【主訴】
 腹部膨満感、情緒不安定、易怒。

【病状】
 1年前管理職となり、ストレスを感じることが増えた。
 いらつく・不機嫌・怒り出したら中々収まらない。
 顔面発赤、頭ののぼせ感、月経時に頭痛。便秘気味。下剤を多用して解消。寝つきは良い方。寒がり。脈弱。1~2ヶ月前からストレス過剰で爪が割れだす。走ることが嫌い。
 
【既往歴】
 15年前に仕事を始めてから胃痛・背部痛が始まった。
 5年前からストレスで下痢が始まった。同時に気張っても便が出にくくなった。
  柴胡加竜骨牡蛎湯によって便秘が改善したことがある。

【家族歴】
 特に遺伝なし

【舌所見】
 舌質淡紅、舌苔薄白。

【著者の弁証①】
 肝脾不和、肝鬱化火、肝気上逆とし、初め抑肝散加陳皮半夏+半夏瀉心湯を処方したが効果不明だったので更に炙甘草湯を加えるも効果不明。

【僕の弁証】
 上記の情報を踏まえ、まず病状を時系列に並べてみました。
寒がり
便秘
胃痛・背部痛
下痢
爪割れ

管理職となってストレス増加とあるが、元々他の人よりも怒りっぽい可能性があると考え、肝に何かしら問題を抱えている可能性があります。
寒がりな一方、顔面発赤、頭ののぼせ感より首から上は熱感があり、気滞・部分気虚の可能性が考えられます。怒ることが出来ているので体力はあるでしょう。
お腹周りの問題は胃腸の状態を改善できれば解決できそうな感じです。
爪割れについてはケラチンというたんぱく質不足や加齢、乾燥、爪の病気があり、書籍の情報だけでは原因を特定できないので弁証から除きました。
舌診は淡紅と舌苔が薄白なので正常と思われます。この患者の場合、舌診はあまり意味がないかもしれません。

以上を踏まえ、患者さんの病状を解消するためには大きく2つのやるべきことがあると考えました。

①胃腸の状態を改善する
②ストレスを解消する

患者さんの症状を時系列で読み取ってみるとストレスによる精神的負荷が胃腸を悪くしており、そこに寒がり体質も相まって便秘・下痢を引き起こしていることが読み取れます。
患者の病状を改善するためにはストレスの原因を取り除くことが一番ですが、それはすなわち、今の仕事を辞める・管理職をおりるあるいは転職するが有効薬となりますが、中々簡単にできることではありません。また、収入の不安など別の問題も発生してくるでしょう。
よって、根本的な問題解決までは難しいですが、患者さんの病状を少しでも改善するために、①の漢方薬を処方して、改善が見られたのち②の漢方薬を処方します。

僕が患者さんに処方する漢方薬は以下になります。
①には半夏瀉心湯
②には抑肝散加陳皮半夏

半夏瀉心湯の効能は胃腸の働きを改善して、食欲不振や胃もたれ、吐き気や嘔吐、お腹のゴロゴロ、下痢などを治します。また、口内炎や神経症にも適応します。
参考URL

抑肝散加陳皮半夏の効能はイライラ感や不眠などの精神神経症状、あるいは、手足のふるえ、けいれん、子供の夜なき、ひきつけなどに適応します。心と体の状態を改善します。
参考URL

僕の選定した漢方薬を見てあれと思った方、素晴らしいです。しっかり本投稿を読んでいますね。
実はこの選定した漢方薬、著者である土方氏が初めに処方した漢方薬と同じです。
つまり、患者さんには上記2つの漢方薬だけでは症状が改善されないということです。

【著者の弁証②】
弁証①が不十分だった著者の土方氏は脈沈弱・走らないといったことに着目して、心気虚があると考え、炙甘草湯を追加処方します。
結果、患者の症状は改善され、正常な体調になりました。

この結果を踏まえ著者は心→脾への相生力不足が炙甘草湯によって「補心気→補脾気」となり改善されたと結論づけています。

【結論】
半夏瀉心湯+抑肝散加陳皮半夏+炙甘草湯で症状改善。
心気虚までは見抜くことが出来なかったが、今回のケースでは脈沈弱や走らない、ということから気・血・津液の巡りが正常ではない可能性があるということに気が付き、それを解消する、すなわち、ポンプ機能を上げる補心気の漢方薬を処方することで夏瀉心湯+抑肝散加陳皮半夏の持つ効能を体全体に巡らせ、症状改善につながったと考える。


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