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ハッピーターンでプライドをへし折られたイタリア人

「食べてみろって」




「嫌よ、塩っぱいビスケットなんてあり得ないわ。何を考えているの?」




「食わなわからんやろ。そんな毒みたいに扱うなや」




「じゃあ一口だけね」








ーーー







先日、一ヶ月ほど日本に一時帰国されていた先輩がたくさんの日本食や日本のおつまみなどを買ってイタリアに帰ってきました。

そこで日本食がどれほどのクオリティーかを思い知らしめてやろうと彼女を呼びました。

食卓に並べられたおつまみの数々。
ハッピーターン、味付け海苔、カルパス、貝ひも、するめなど

それらを見るなり眉間にシワがよる彼女。

「何なのこれ?」

「おやつみたいなもんよ。アルコールとも合うんだよ」

「なんでおやつがアルコールと合うねん」

大正解な答えが返ってきた。

とにもかくにも彼女はすでにプライドを全面に完全無欠、鉄壁の守りに入り始めている。
一度守備モードに入った彼女はもう誰の言葉も聞かないし意見も通らない
南イタリア人特有のメンタリティが発動された。
外からのものは人であろうが物であろうが認めない。

「これなんやねん」

ハッピーターンを見た彼女は口調がマフィア調になっている。

(最高のフラグ立てとるなぁ)
と思いながら

「これは塩バージョンのビスケットだよ」

「は?馬鹿言ってんじゃないわよ。誰がそんなもの食べるのよ」

そう答えるのも無理はない。
イメージは出来るがあり得ないものだからである。
日本人で置き換えると「甘いピザ食べてみな」的な感覚なのか、イタリアにはヌテッラ(チョコレートソース)をベッタベタに塗られたピザが存在します。
普通に美味しいのですが僕には重過ぎるので自ら好んで食べることはしません。

そんな相手の複雑な気持ちも理解しつつも僕はハッピーターンを手に取り、

「ほら、食べてみな」

「絶対嫌よ!気色が悪いわ!」

「食べてみろって」

「嫌よ、塩っぱいビスケットなんてあり得ないわ。何を考えているの?」

「食わなわからんやろ。そんな毒みたいに扱うなや」

ため息をついた彼女は、

「じゃあ一口だけね」

歯先で突くようにして食べられるハッピーターン。

歯先で突くように食べるイメージ


ん?


いや、彼女は突いただけで食べていなかった。

「食え」

さらに眉間にシワがよった彼女は勇気を振り絞りハッピーターンにがぶり。

「…」

口を手で覆い…

そして

微笑みやがった。

「美味いんやろw」

「うーん、悪くないかもね」

美味しいと思っているくせにまだ認めない。
そう、フラグを立てまくった彼女はもう後に引けないのだ。

その高過ぎるプライドが全てをマイナスの方向へ彼女を導いている。

(今日は勝たせてもらいますw)

心で誓った僕は、

「ほら、食えよ。うい。ここにあるぞ」

「もういいわ。お腹いっぱいだから」

「じゃあこれ食ってみ」

味付け海苔を差し出した。

「これ細巻きの海藻でしょ?」

当たり前だが彼女は海苔の種類を知らないため海苔を海藻と呼んでいる。

「海苔な。でもこれは寿司の海苔と全然違うよ。まぁ食ってみ」

「いや。海苔だけで食べるなんて絶対嫌」

彼女はまた自らフラグを立ててしまった…

「ほら、食え」

彼女が味付け海苔をパクリ。

「…」

また微笑みやがった。

彼女は恥ずかしくて部屋に駆け込み出てこなくなった。

先輩は僕に

「マルちゃん(彼女の愛称)可愛いなぁ」

「でしょ?こういうとこが好きなんですよ」

と笑いながら話しているところに彼女が部屋から出てきて

「次から日本に帰った時はこれ(ハッピーターン)買ってきたらいいんじゃない?」

と目線を合わせずに言ってきたので

「いや、俺は別にハッピーターンいらんから買わんよ。欲しいんか?」

「別にそんなんじゃないけどあってもいいんかなって」

「欲しいなら欲しいって言えよw」

「まぁあったら食べるかな?」

「じゃあええわ。買わん」

するとハグをしてきて

「買ってね♡」

「知らん。人にお願いする時はなんて言うんやった?」

「もういいやん買ってきてよ」

「無理。ほらペル?ペルファ?」

「ペルファボーレ(お願いします)」

「よく言えましたw」

彼女は赤面。

「日本語でなんて言うの?w」

「オ、オネガイシマス」







(勝った…)


直近でこんなに嬉しいことはない。





彼女は今日もハッピーターンを決して「美味しい」とは言わない。


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