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『君とシェア』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年8月24日(RE:8月28日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

「ねえこれ借りていい?」


彼女は僕のラルフローレンの白いシャツを掲げてそう言った。

「もちろん。じゅあ君のこれ今日使ってもいいかい?」


僕は彼女のLLbeanのトートバッグを掲げてそう言った。

「どうぞ~」


僕と彼女はルームシェアをしている。
ただシェアするのはルームだけじゃなくなってきている。

「えー何このオーバーオール、買ったの?かわいいじゃん」
「うん、オーバーオール欲しくてさ」
「これ私も着てもいい?」
「そういうと思った」
「やったね」

最近僕の買う服は、だいたい彼女も着るようになっている。

「かわいいワンピースだね」
「いいでしょ、セールになってたから買っちゃった。あなたもたまに着ていいよ」
「ふふふ。僕が着ると背中が大きくあいたドレスみたいになるよ」


男がワンピースを着てはいけない理由はない。ただサイズは問題だ。

「あなたのずっと履いてるコインローファーかわいいなあ」
「履きたそうだけど君にはブカブカだよ」
「分かってる。おんなじを買いたいけどもう売ってないのよねえ」

シェアできないものももちろんあるが、僕らの身に付けるものはだいたい一緒のものになってきた。

男性ものとか女性ものとかユニセックスとか、そういうことではなく、ただただお互いのものをシェアするという発想。


それが僕らには心地よかった。

だけど、時には心地よくないことだって起こる。

「私もう出ていく!」

彼女は大きなトランクに荷物を詰めはじめた。

「このTシャツ持ってくから!このジーパンはあなたのだっけ?このキャップってあなたが買ったんだっけ?このスカートは…」
「それはもちろん君のだよ。でもこのパーカーは僕のだ」


そして彼女はトランクの中に荷物をいっぱいにして閉じた。

「パッキングは苦手なのに、こういう時はずいぶん手際いんだな」
「……。」

彼女はムスッとした顔のままでトランクの上に腰をかけた。

僕もやれやれと腰をかけた。


「いま気がついたんだけど、入れ忘れているものがある」
「え?」
「僕がいま着てるこのTシャツ。古着屋でつい先日君が買ってきたものだ」
「…ぷははは(思わず笑ってしまう)」
「いま脱いだほうがいいかな」


「…私もいま気付いたんだけど」
「なんだい?」
「この大きいトランク、あなたのだったわね」
「はははは、そういえばそうだった。でももうどっちの持ち物かなんてどうでもいいな」
「それに思い出した」
「なんだい?」
「このトランクに荷物をいっぱい詰め込んだら、私ひとりじゃ持てないんだった」


そして彼女は僕の肩に身体をあずけた。



おしまい



※こちらの小説は2021年8月24日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210824210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けしています。

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