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『猫と彼女』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年9月7日(RE:9月11日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

夜中に一人、部屋でボウモアをロックで飲んでいると飼い猫が話しかけてきた。


猫「最近彼女来ないね」


やれやれ。
このシングルモルトは40度もあるんだ。5杯も飲めば猫が話しかけてきてもおかしくない。

猫「どうして彼女は来なくなったんだい?」


猫は大きな目をしてこっちを見ていた。

「君にまだ言ってなかったね。彼女とはもう終わったんだ」

僕は猫に伝えた。
猫は悲しい顔をした。


猫「つまり彼女はもう来ないの?」
「ああ、そうだ」
猫「ニャー(悲しげに)」


猫はとても不満げだった。

猫「なんで僕に断りもなく彼女と別れたんだよ」

僕には何も答えられなかった。

猫「彼女は君が仕事でいないときにご飯をくれたり一緒に遊んでくれたり一緒に寝たり、なにより彼女は君よりもたくさんご飯をくれるんだ」
「ご飯は毎日決まった量だけのはずだけど」


猫「彼女はこっそり多くくれるんだよ」
「それで君は少し丸くなってきたのか」

猫「そんなことはいまどうでもいいんだよ。問題はどうして君の都合だけで彼女と僕が会えなくなったのかってことだ」
「…それは、申し訳ないと思ってる」

猫「僕にだって一緒に住む人を選ぶ権利はあるはずだ」
「君と僕とは、ずいぶん長い間一緒に過ごしてきただろう?」

猫「大事なのは時間じゃなくて内容だよ。薄く長い付き合いより、短くても濃い時間を過ごしてきた人を僕は選びたいよ」
「そういうなよ僕と君の仲じゃないか」

猫「にゃー」


猫はプイっといってしまった。

そして振り返って言い放った。

猫「君は僕と一緒にいるのが当たり前だと思っているだろ?そして君は、僕が君がいないと生きていけないと思っている。でも僕は外に放り出されてもそれなりにうまくやっていけるんだ」


僕は彼女の言葉を思い出した。


「あなたは私がそばにいることを当たり前だと思ってるでしょ」


僕はチェイサーの黒ビールをグイッと飲んだ。
飲み過ぎていることは間違いない。


僕はスマホを触って彼女のライン画面を開いた。

猫「やめておきな。酔っ払って別れた彼女にラインを送るほど惨めなことはないよ」
「やれやれ」

猫「それに君が何を送ったって無視されるに決まってるさ」
「君の言う通りだ」

僕はスマホをテーブルに置いた。

猫「ただ、彼女に会って話がしたいのなら一つだけ方法がある。聞きたい?」
「教えてくれ」

猫「僕を写真に撮って送ればいい。そしてこう書くんだ。会いたがってるって」
「にゃるほど」

どっちが猫なのか分からなくなってきた。

猫「彼女がここにやってきたら、僕が彼女に話してあげてもいいよ、君とヨリを戻したほうがいいって」
「いや、それには及ばない。自分が改めるべきことがわかった気がする」
猫「ニャー」
「まさかそれを君に教えてもらうとは。ありがとう」
猫「……」

それから猫はもう喋らなくなった。
そして僕は彼女に猫の写真を送った。



おしまい



※こちらの小説は2021年9月7日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20210907210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届けしています。

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