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秋の風 能楽と日本美術:1 /国立能楽堂 資料展示室

 千駄ヶ谷の国立能楽堂に、一室だけのささやかな展示スペースがある。
 ここではときおり「能楽と日本美術」をテーマとした展示がおこなわれている。ほとんどが借用品でまかなわれ、作品の質は高い。
 もったいないことに、他館でここのポスターやリーフレットを見かける機会は多くない。そのせいか、いつも空いているし、おまけに入場無料でもある。じつに「穴場」の展示といえよう。

 今回のテーマは「秋の風」。秋草や紅葉の描かれた絵画や工芸が、モチーフごとに数点ずつ並べられていた。
 展示替えが2回あり、会期の最初と最後で大きく入れ替わる。リストをみながら計画を練って、ベストタイミングでの訪問となった。

 決め手は、ふたつの屏風だった。
 まずは江戸東京博物館の《武蔵野図屏風》(以下「江戸博本」)。
 背の高いススキと、ほうぼうに生い茂る秋草。金箔の霞を挟んで、遠景に富士山と筑波山、銀色の日月がみえる……どこまでも広がる武蔵野の平原、その壮大さにいだかれるような、魅力ある大画面である。一度でいいから、左右隻で取り囲まれ、視界を支配されてみたいと思わせる屏風だ。

 類品がいくつか知られている。
 サントリー美術館「歌枕」展では、同館所蔵のもの(以下「サントリー本」)を観た。サントリー本のほうが、時代は上がる。モチーフは大人しく品よくまとめられていて、デザイン性も高い。

 江戸博本はいろいろな要素を詰め込もうとしていて、非常に賑やか。サントリー本に比べると落ち着きはないけれど、かえって東国・武蔵野の野趣や多様な生態系をも表現しているかのようで、わたしは案外すきなのである。(つづく


 ※《白地秋草雲模様縫箔》(江戸時代・18世紀 東京国立博物館)に描かれた刺繍の秋草が、かわいかった



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