東京で、奈良をさがして:1
前回は「上野へ、奈良を感じに」と題し、奈良ゆかりのものが多く出陳されている藝大美術館のコレクション展の感想をお送りした。
東京で奈良を感じることのできる場所は、ほかにもある。今回はそういったスポットをいくつか紹介したい。
話があちこちに行ってしまい恐縮だが、藝大のすぐ近くには東京国立博物館がある。
本館の彫刻室には南都伝来の品、大和古寺からの寄託品が常時1、2点は出ているのでもれなくチェックするとして、今回のお題に沿えばやはり、法隆寺宝物館ははずせない。
箱のような現代建築の法隆寺宝物館。ひとたび足を踏み入れれば、そこは斑鳩の宝蔵だ。暗転を主体とし、鑑賞に没頭できる展示環境が好もしい。
展示品の法隆寺献納宝物は、廃仏毀釈で財政難に陥った法隆寺が皇室に援助を請い、返礼として納めたもの。以来ずっと、ここ上野ではいつでも出開帳が開催中というわけだ。
推古朝までさかのぼる造形は、線ひとつとっても、ものが違う。単純な技術の巧拙では表せない精神の高さがあるのだ。常時それを目の当たりにできるのは、至極ありがたい。
法隆寺宝物館から向かって右手に、ミニチュアのように小さな校倉造のお堂がある。もとは元興寺の子院・十輪院の宝蔵だったもので、内部には大般若経が納められていた。校倉造といっても鎌倉期まで下るものだが、都内最古の建造物とされるのは東村山の正福寺地蔵堂(国宝)で、応永年間の造営。こちらのほうがだいぶ古い。近代になって移築されたものはノーカウントということだろう。
この校倉を支える四本の柱の挟間には、なにやら石材がはめこまれている。目を凝らすと、その表面にみほとけの姿が刻まれているのがわかる。
ならまちにある十輪院は、そう広くはない境内に石造美術の名品・珍品・指定品が所狭しと林立しているし、なにを隠そう、ご本尊・地蔵菩薩像が石仏。このご本尊は石仏のなかでもスペシャルな存在で、お厨子までもが石製の、日本でここだけの「石仏龕(せきぶつがん)」だ。
校倉の柱のすき間に石仏があったとて、「石仏の寺」十輪院伝来のものとあればなんら違和感はない、というわけだ。(つづく)
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