見出し画像

東近美「重要文化財の秘密」の秘密 〜あと17件。なにが出ていないのか〜:1

 東京国立近代美術館の開館70周年を記念する特別展「重要文化財の秘密」。コンセプトは明快だ。

 明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち、重要文化財に指定された作品のみによる豪華な展覧会

(公式サイトより)

 昨年、東京国立博物館では、館蔵の国宝をすべて並べる展覧会が開催されていた。
 今回の東近美では、館蔵の重文が全点、出ている。

 重要文化財指定の絵画・彫刻・工芸は、4月1日時点で7,239件。そのなかで、さらに格上の国宝には560件が指定されている。現在のところ、近代の作品で国宝指定を受けているものはひとつもない。
 近代としては最高位の重文に指定される作品は、わずかに68件。最も多くを所蔵するのが東近美で、17件に及ぶ。その全点が展示されるのである。
 これだけであれば館蔵の名品展とほぼ変わらないが、今回はさらに他館から借用して、総数51件の重文をカバー。パーセンテージでいうと、75%となる。
 ほとんどそのまま、日本近代美術史の概略を描けるラインナップといえよう。本展の公式サイトでも「51/68」という数字が大きく掲げられている。

◎重文の絵画・彫刻・工芸=7,239
 →近代=68
  →本展出品=51
   →東近美=17

文化庁ホームページによる)

 この数字を多いか少ないかでいったら、かなり多いと思う。日本近代美術の牙城たる東京国立近代美術館の、面目躍如だ。
 けれども、リストを瞥見して「あれがない」「これがない」というものがちらほら見受けられるのも確か。指定品は、年間での公開日数が制限されている。所蔵先の都合もあってのことだろう。(68-51=)17件の出品が叶わなかった。

 ところで、本展の作品リストには、次のような凡例が載っている。

 本展の出品作品は、明治以降の絵画・彫刻・工芸で重要文化財に指定された全68件(2023年3月時点)のうち51点です。
 「68点」ではなく「68件」としたのは、狩野芳崖《悲母観音》や竹内栖鳳《絵になる最初》においては関連する下絵(本展不出品)もあわせて指定されているためです

出品目録」より

 「件数」「点数」はイコールとなる場合も多いが、そうでない場合もある。
 たとえば、歴史資料の国宝《東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)》。これは24,067通という膨大な分量の古文書からなっているが、国宝の指定件数としては「1件」とカウントされる。
 最も新しい近代の重文である鏑木清方の作品は《築地明石町・新富町・浜町河岸》としての指定で、これも「3点」で「1件」。本展でも、「19-1」「19-2」「19-3」という「枝番」とされている。
 また、作品そのものだけでなく、その構成要素である附属資料(「附〈つけたり〉」と呼ぶ)がセットで指定されることもある。凡例中にある狩野芳崖《悲母観音》や竹内栖鳳《絵になる最初》も、附指定がついている。下絵も含めて、それぞれ「1件」。
 この凡例の一節を何度も読み返したが、要は「附属品も含めての指定がある場合は、附属品も含めて展示できなければ『1件分』を展示したことにはならない」との考えにもとづいているようだ。
 「重要文化財全68のうち51が集結」という、奥歯に物が挟まったような言い回しは、おそらくそういったことを意味している。とすれば、ここで68から51を差し引きしたとしても、さしたる問題は起こらないのである。

 出品が叶わなかった残りの17件とは、なにか。
 公式サイトには書かれていない(図録には書かれているかもしれない)この点を、訪問前の準備を兼ねてまとめてみた。

■本展に出ていない、近代の重文17件
 (ジャンル→作者の生年順に表記)

◆日本画:7件

・橋本雅邦《龍虎図屏風》(静嘉堂文庫美術館)
・竹内栖鳳《斑猫》(山種美術館)
・菱田春草《落葉》(永青文庫)
・上村松園《序の舞》(東京藝術大学)
・村上華岳《裸婦図》(山種美術館)
・速水御舟《炎舞》(山種美術館)
・速水御舟《名樹散椿》(山種美術館)

◆洋画:6件

・高橋由一《花魁》(東京藝術大学)
・原田直次郎《靴屋の親爺》(東京藝術大学)
・黒田清輝《智・感・情》(東京文化財研究所)
・黒田清輝《舞妓》(東京国立博物館)
・藤島武二《黒扇》(石橋財団アーティゾン美術館)
・青木繁《海の幸》(石橋財団アーティゾン美術館)

◆彫刻:2件

・ビンチェンツオ・ラグーザ《日本の婦人像》〈石膏原型〉(東京藝術大学)
・荻原守衛《》〈石膏原型〉(東京国立博物館)

◆工芸:2件

・海野勝珉《蘭陵王置物》(宮内庁三の丸尚蔵館)
・板谷波山《彩磁禽果文花瓶》 (敦井美術館)

 ——次回は、このリストを細かくみていくこととしたい。(つづく



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?