東近美「重要文化財の秘密」の秘密 〜あと17件。なにが出ていないのか〜:2
(承前)
東京国立近代美術館「重要文化財の秘密」の展示リストを見て、最初に気づいたのは「山種美術館の作品が1点もない」ということだった。
山種美術館は毎回、館蔵品のみで展示を回している。4件はいずれも、年に1度はお出ましになる看板作品。
速水御舟は次回の展覧会「小林古径と速水御舟」で主役を張ることもあり、3月まで開催されていた茨城県近代美術館「速水御舟」展にも、この2件は出ていなかった。
竹内栖鳳・村上華岳の重文指定はそれぞれ2件で、もういっぽうは本展にも出品。
それに対し御舟は、山種の2件を逃したことにより、本展のラインナップから惜しくも洩れてしまった。
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御舟と同じく、重文指定を受けている作品がありながら、出品が叶わなかった作家がもう2人いる。どちらも、指定は1件ずつ。
海野勝珉《蘭陵王置物》は、鏑木清方の《築地明石町・新富町・浜町河岸》とともに、昨年11月に指定。最も新しい近代の重文となっている。
宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵品への文化財指定が始まったのは、一昨年の秋から。今後も、指定品が増えていくことだろう。
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上の栖鳳・華岳のように、重文指定が複数件ある作家の場合、そのうち一部のみを出品というケースは多く、残る11件はすべてこれに該当する。
静嘉堂@丸の内、春の企画展は「明治美術狂想曲」。《龍虎図》は、そちらに出品される。
本展とは期間がまるかぶりであるが、幸いにして、両館の距離は遠くない。併せて観ることも可能だろう。
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次の3件は、単体でお客さんを呼べそうなくらいに人気の高いマスターピース。本展で観られないのが残念ではある。
春草と青木に関しては、同じ所蔵館から別の名作が出品されている。「お召し上げはこちらだけで勘弁してつかあさい」という声が聞こえてきそうだ。
荻原守衛(碌山)の《女》が出ないのも、かなり意外。
じつは、今回の作品リストを見て、唯一ビジュアルが思い浮かばなかったのがこの《北條虎吉像》だった。
安曇野の碌山美術館には行ったことがなく、今回が初見となる。
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逆に、高橋由一と黒田清輝、板谷波山に関しては、出品作のほうが知名度は高いか。
由一の《花魁》は、1年後の「大吉原展」で拝見可能。
板谷波山《彩磁禽果文花瓶》は、新潟市の敦井美術館に所蔵されている。
この館の所蔵品が外部の展覧会に貸し出される機会はかなり少なく、近年の波山の回顧展にも、本作は出品されなかった。門外不出に近く、今回も登場せず。
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残る2点は、知名度としては同じくらいの作が出品されている。
——いろいろと重箱の隅を突いてしまったが、ともあれ、名作ぞろいのとてつもない規模の展覧会であることには違いがない。
次回は、わたしの思う展示の「見どころ」、個人的に楽しみにしている点について触れてみたい。(つづく)
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