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東近美「重要文化財の秘密」の秘密 〜あと17件。なにが出ていないのか〜:4

承前

 もちろん、前回挙げた以外にもよい作品が目白押しであり、それらの競演も、本展の楽しみのひとつ。
 リスト順の展示とはかぎらないが、通し番号の近いものから想像を広げてみると……

 たとえば、今村紫紅の2つの代表作《近江八景》《熱国之巻》。
 いずれも東京国立博物館の所蔵で、後者は常設で割によくみかけるけども、同時に並ぶ機会は案外ない。
 それに、《近江八景》が常設に出るとしても、一度に1、2幅。8幅をフルで拝見できるチャンスはなかなかないし、紫紅の作品じたい、他館を含めて展示の機会はそもそも希少なのだ。
 《近江八景》8幅をバックに《熱国之巻》が広げられるとしたら……さぞ壮観だろう。その周辺だけが、ぽかぽかとした空気を帯びて見えそうだ。

 《近江八景》の展示は4月18日~ 5月14日。その期間に行けば、《熱国之巻》の「夕之巻」と一緒に観られる(※「朝之巻」は3月17日~4月16日)。

 洋画は、展示替えがほぼない。
 わたしの注目は、関根正二《信仰の悲しみ》(大原美術館)。

 ——いまこの画像を見て、実物とのあまりの違いに愕然としているが、じっさいにはこんな、どぎつく汚れた色みではない。もっと荘厳で、青が瑠璃のように美しかったのを覚えている。
 直近では、2020年の生誕120年・没後100年展(神奈川県立近代美術館鎌倉別館)で拝見。あれからもう3年も経つとは思えないほど、鮮烈な記憶として残っている。また逢えるのはうれしい。
 作者の関根正二(享年20)をはじめとして、大正期に花咲いた異才たちには、若くして亡くなった者が多い。
 本展で正ニの前後に並ぶと思われる萬鉄五郎(享年41)、岸田劉生(享年38)、小出楢重(享年43)、中村彜(享年37)は、みなそうである。明治の末まで含めると、原田直次郎(享年36)、青木繁(享年28)も早くに没している。
 色眼鏡で見たくはないけれど、こうも並ぶと、どうも意識してしまう。

 工芸の部屋は……とんでもないことになりそうだ。
 件数にすればわずか7件ながら、どれも超のつく大作。重厚長大、万博で世界へ打って出ようという気概を感じさせる、明治工芸の傑作たちである。
 金工の鈴木長吉《十二の鷹》(国立工芸館)と《鷲置物》(東京国立博物館)。前者は原寸のものが12体、後者は両翼を広げた幅が88.5センチもある。総計13羽の銅製猛禽類が、観客を威圧する。

 さらに、蟹が加勢。

 七宝の巨大な額(113.6×64センチ)も現れる。

 板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》(高51センチ、泉屋博古館東京)だけは大正期に入っての作(大正6年)であるが、明治工芸から続く大作主義の流れを汲むと同時に、個人作家中心の時代の幕開けに位置するもの。〆として、じつにふさわしい。


 ——最後の最後まで、気の抜けないラインナップである。
 51点という出品数は、ひとつの展覧会として、けっして多くはない。一概に言いがたいが、100〜120点ほどがよく見る数字だと思う。
 しかし、一点一点が濃いから、観る側もかなりのエネルギーを要するはずだ。
 あとはそれを(並べるだけでなく)どう脈絡づけるのか、展覧会名でいわれる「秘密」とは何を意味するのか……このあたりが、見ものだろうか。
 確かめに行くのが、楽しみだ。
 


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