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特別展「はにわ」 /東京国立博物館

 平城京から、恥ずかしながら帰ってまいりました……現在の日本の首都・東京へ。
 長く過ごした場所とはいえ、2か月弱程度では感慨をもよおすこともなく「相変わらず人が多いな」というくらい。もっとも、いまの東京やその近郊にわたしの帰る場所などなく、「早く奈良に帰りたい」とすら思ったものだが……
 上京の理由は、2つの ”HANIWA” 展。上野・東京国立博物館の特別展「はにわ」、竹橋・東京国立近代美術館の「ハニワと土偶の近代」を同時期に観られるのは、今週末の8日までなのだ。
 関東に住んでいるときそうしていたように、展示のために新幹線に飛び乗って遠征し、2館をまわってきた。
 まずは、東博でのもようから。

 各地の博物館で、はにわは人気の的。縄文を「なんかコワい」と避けてしまう人でも、はにわには足をとめる……そんな光景をしばしばみかけるし、グッズやゆるキャラにも取り入れやすい。
 国立博物館クラスでの大規模なはにわ展はずいぶん久しぶりで、わたし個人としても待望してやまない展示であり、近美とセットでなくとも来るつもりでいた。
 本展は、正式名称に冠されるように「挂甲の武人 国宝指定50周年」を記念している。はにわのイメージを象徴する《挂甲の武人》(東京国立博物館)は、現在に至るまで、単独で国宝指定を受けた唯一のはにわである。

 《挂甲の武人》とともに「はにわといえば、コレ」というシンボルにして、ステレオタイプとなっているのが《踊る人々》(東京国立博物館)。こちらは解体修理が3月末に完了し、本展で初お披露目。
 この2点や東博の所蔵品を軸に、海外を含めた借用品を加え、本展は構成される。

 ところで、《挂甲の武人》は群馬県内、《踊る人々》は埼玉県内からの出土である。明治時代のある時期、全国のすぐれた出土遺物が選び抜かれ、なんと国に召し上げられてしまう仕組みがあった。すべてがそうではないが、東博に各地出土のはにわの名品がわんさかあるのは、そういった背景もある。これほどの規模・内容のはにわ展は、東博が中心でなければできない。
 また、国民へ広く門戸がひらかれた国立博物館としては、一般向けに親しみやすい、わかりやすい企画・展示内容が求められる側面がある。東博と九博(九州国立博物館)にはその傾向が強いように思われるが、本展も有名・重要な作例を取りそろえ、「はにわとはなんぞや?」という疑問に易しく答えようとする教科書的なラインナップとなっており、展示手法にもその点はよく表れていた。
 たとえば、直線に近い形状の細長い展示台を設けて「はにわ列」をつくり、それらを表裏から観察できる仕組みだとか、ウルトラマンや戦隊モノっぽい《挂甲の武人》5兄弟のPVを、巨大スクリーンに流したうえで展示に入るなどといった点である。
 前者は通路が狭く通行時にやや心配、後者は若干の悪ノリ感もなくはなかったが、会場の賑やかしと展示内容への惹起には、寄与するところ大であったかと思われた。

 展示手法の話とは異なるものの、ほとんど全点を撮影可能としているのも、特徴的な大衆向けの取り組みではあった。はにわをカメラに収めて帰りたいという人が、かなり多いであろうことは容易に想像され、その需要を満たそうという判断であろう。
 じっさい、来館者の多くから歓迎されていたようだけれど、撮影可とすることによって、長時間の滞留や場内の混雑が助長されていたのは否めない。ここ数日報道されているような大行列ぶりの直接原因は、これなのではと思われてならないのだ。
 みな、自分の撮影に夢中。まずスマホやデジイチを向け、撮影が終われば立ち去る。作品解説や章・展示上の流れにおける位置づけ、なぜその作品がそこに展示されているかの意味、作品やその歴史と向き合う鑑賞・考察的な意識は、おかまいなし。
 もちろん、アトラクションやテーマパーク的な楽しみ方をするのは自由だが、少なくともじっくり観たい人にとっては、正直のところ、なかなか厳しい環境であった。
 東博を含め、出品作のはにわを常設で展示している所蔵先が割に多いと思われるけれど、そのときの展示室はたいてい、ガラガラである。
 たとえば、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館の巨大円筒はにわは、常設展で拝見するとき、周囲にはいつも誰一人いない。福島県泉崎村出土の力士のはにわは、村の図書館の片隅で、本に同化して佇んでいた……

 なのに、同じ作品の前で、ここでは押し合いへし合い。それだったら、所蔵館で観たほうが、気持ちよく向き合えるのではと思うのだ。

 ——少々、熱くなってしまった。
 会場内の話はともかくとして、作品や展示内容にはなんの瑕疵もなく、というかむしろ、たいへん充実した内容であることはいまさら述べるまでもないのだが、ここまでの流れが流れだけに、改めて強調しておきたい。図録は資料として有用で、決定版として長く参照されていくことだろう。
 今週末にと考えていらっしゃった方、困惑させてしまったことと思われるが、健闘をお祈りしたい。時間帯にはご熟考を。
 東博のあとは、九博に巡回する。会場ごとに、展示の雰囲気や構成がどうアレンジされるか、見ものである。成り行きを見守りたい。
 

上野公園……ではなく、奈良公園の紅葉。12月1日撮影。今が旬



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