鉄道と美術の150年:3 /東京ステーションギャラリー
(承前)
東京ステーションギャラリーが現在の丸の内北口に移転・再オープンしたのは、2012年秋のことだった。つまり、今年で10周年。本展では「鉄道開業150年」のほうが強調されているが、館としてもメモリアルイヤーなのだ。
「鉄道と美術」はこの館の特色・存在意義を示すもので、本展の内容は「リニューアルオープン10周年」にもぴったり。展示を観ていても、この10年間の館の歩みをなぞることが裏テーマではと思われた。
リニューアル後、東京ステーションギャラリーでは特定の作家にフォーカスした回顧展を精力的に開催してきた。本展には、過去にこの館がとりあげてきた作家が多く出品。それぞれの機会に得た果実が、本展に還元されていた。
わたしも、過去の観覧を思い返しながら拝見。
◆不染鉄《山海図絵(伊豆の追憶)》(木下美術館)
「鉄道、描かれていたのか!」という感じではある。細密描写に夢中。
◆藤森静雄《自然と人生(公刊『月映』Iより)》(愛知県美術館)
展示全体のテーマが「鉄道」であるからこそ、なにが描かれているかすぐに把握できた。そうでなければ立ち止まって考えたと思う。省略と抒情。
このほかにも、複数人をとりあげた展示で出ていた作家や、リニューアル前に回顧展を開催していた佐藤哲三(2004年)、香月泰男(2004年)、長谷川利行(2000年)らの作品も出品。
◆本城直季《new tokyo station》(東京ステーションギャラリー)
「始発電車を待ちながら」(2012年)、「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」(2017-2018年)でも展示。人が集い、交錯する場所は本城さんの主な興味の対象で、駅はその最たるものか。
◆佐藤哲三《赤帽平山氏》(宮城県美術館)
「あら、あなた、なぜここに!?」といったリアクションをとってしまった。「赤帽」とは、駅構内で手荷物を運ぶ職業。本展には、鉄道を支える労働者の姿を描いた作品も多く出ている。洲之内コレクションのひとつ。
また、東京駅の駅舎の成立、大戦時に爆撃を受けて駅舎の3階が吹き飛んだエピソードや、駅構内や周辺にあるステンドグラス、壁画、銅像にも言及。
これらは「東京駅開業百年記念 東京駅100年の記憶」(2014年)「辰野金吾と美術のはなし」(2019年)あたりの内容を踏まえていると思われる。
——作品リストを見ながら、思いつくままに、気になった作品をばんばん挙げてきた。
こうして並べるとカオスのようにみえるけれど、展覧会場でそのようには感じられず、多様な要素をみごとにいなしている印象であった。
これらのバラエティをみるだけで、本展がいかに刺激に満ちたものであったか、わかるというものだ。
しかしこれはごく一部、しかもわたしの個人的なフィルターをとおしたものだけで、じっさいはさらに多岐にわたり、かつ緻密だ。
図録は情報量が多く、資料性は高く、図版が美しい。「鉄道美術」の大百科として、今後も長く参照されていくことであろう。
本館のみの開催で、年内は本日まで。年明けは2日から最終日の9日まで開催されているので、間に合う方はぜひ。
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