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鉄道と美術の150年:1 /東京ステーションギャラリー

 2022年は「鉄道開業150年」。
 春先から各方面で記念事業が展開されるなか、展覧会企画としては、東京駅構内の東京ステーションギャラリーで開催される本展「鉄道と美術の150年」こそが大本命といえよう。
 150年前の明治5年(1872)、新橋・横浜間を結ぶ本邦初の鉄道が開通した。これを記念して、開業当日の10月14日は「鉄道の日」と定められている。
 本展の開幕は10月8日。翌週の金曜日に控えた「鉄道の日」を意識した日付設定だろう。そこから、年明けの1月9日までのロングラン開催となっている。
 長めの会期についつい甘え、年の瀬の今になってようやく足を運んだのであったが……「しまった」と思っている。
 前期にも、行っておけばよかった。

 とにかく、熱量のほとばしる展示である。最後の展示室を出たときには、ちょっとした達成感すらあった。
 それもそのはずで、展覧会の公式ページでは、こう高らかに宣言されているのだ。

「鉄道美術」の名作、話題作、問題作約150件が一堂にそろう、東京ステーションギャラリー渾身の展覧会です

公式ページ「展示概要」より)

 「渾身の展覧会」……自館で開催する展示に対してのこのような表現は、そう聞くものではない。自信をもって、「渾身」と言える——蓋を開けてみると、まさにそれにふさわしい、期待を裏切らない展示であった。

 上の一節には「名作、話題作、問題作」「150件」ともある。
 まず「150件」のほうは、もちろん「鉄道開業150年」にかぶせたのだろう。作品リストの通し番号は、ぴったり「150」で終わっている。
 「名作」は、赤松麟作《夜汽車》(東京藝術大学)、川上涼花《鉄路》(東京国立近代美術館)、長谷川利行《汽罐車庫》(鉄道博物館)といったあたりの、「このテーマであればおそらく出るだろうな」と予想できるものを指すのであろう。はずせない「鉄道美術の名作」たちだ。

 「話題作、問題作」は、展示の終盤に出ていた前衛的な作品のことを主に指すと思われる。
 ハイレッド・センターが山手線で摩訶不思議な直接行動を起こした「山手線事件」や、Chim↑Pomが渋谷駅通路の岡本太郎《明日の神話》に原発の絵をつけ足した《LEVEL7 feat. 『明日の神話』》(岡本太郎記念館)などが、これにあたるだろう。

 じっさいに展覧会を拝見して思ったのは、これら「名作、話題作、問題作」に加えてもうひとつ……「珍品」という言葉を足しては、ということ。
 「えっ!?」
 「なんじゃこりゃ!!??」
 思わず二度見してしまうような珍妙な絵が、頻繁に現れたのである。

 本展の冒頭を飾るのは、ペリーが日本に初めて持ち込んだミニ鉄道を、御用絵師が一生懸命模写した画巻(神奈川県立歴史博物館)。
 ひとつひとつの部品が忠実に、愚直に記録されている。見たこともない金属の塊を緊張感をもって写しとるさまが、こちらにも伝わってきた。その真面目さが、かえって珍妙さを生んでいるともいえる。

 直後に並んでいた、走る汽車を墨一色で描いた絵の作者は……あの勝海舟である。作品名はそのまま《蒸気車運転絵》(鉄道博物館)。

この絵の作者は?  この日本画、 誰が描いたものだと思われますか? かなり古い時期のものです。  江戸期から明治期の政治家・勝海舟(1823~1899)の筆になるもので、「蒸気車運転絵」と名づけられた作品です。勝海舟は幕臣の家に生まれ、...

Posted by 鉄道博物館 on Friday, January 13, 2017

 本展のポスターやリーフレットには、多数いる出品作家の名前がずらり全員分載っているのだが、そのなかに「勝海舟」とあるものだから、その時点でもう二度見であった。作品に出くわして、また二度見。
 素人の筆には違いないながらも、特徴をつかむのはけっこううまいなと感じる。構図感覚はなかなかよく、鑑賞に堪える気もしないでもないが……コンディションのよさからして、長らく仕舞いこまれていたものか。
 この絵は、勝が宮中に参内して鉄道の話をして差し上げた際、「鉄道ってのは、こんな感じでしたよ~」と、さらさらとしたためたものだという。それが勝の娘に伝わり、めぐりめぐって、しっかり鉄道博物館に収蔵されているのは素晴らしいことだ。

 ——ほかにも、鉄道を描いた珍妙な絵をいくつかご紹介したい。
 少々長くなってしまったので……次回に続く。
 (つづく


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