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new born 荒井良二 /千葉市美術館

 昨年の12月3日、もう5か月ほど前に観に行った展覧会である。
 言葉にするのはむずかしい気がして、なかなか手をつけられなかったけれど、書いてみることにした。

 1956年生まれの、荒井良二さん。
 絵本作家として知られているが、それはあくまで創作活動の一部。絵本と地続きの「荒井ワールド」は、平面・立体の別を超え、広範囲にひろがっている。
 本展では、美術展の形式にとらわれず、展示室いっぱいに「ワールド」が展開されていた。

 荒井さんの作品は、総じてカラフル。色彩の歓びにあふれている。また、たどたどしい文字によく表れているように、線質には独特なセンスを感じさせる。
 これら色彩と線が、千葉市美術館の展示室内を駆けめぐる。いつも江戸絵画を観にくる、あの展示室をである。
 しかも、立体はフィギュア的なものだけでなく、こけし、乳母車のように車がついたもの、電飾、小屋などが含まれる。じつにさまざまなかたちを借りて、イメージが具現化されていた。
 泉のごとくこんこんと湧いてくるイメージを、素材や既成概念にとらわれずに、素直に表現に乗せられる。とにかく “ものづくり” がすき——荒井さんは、そんな人なのかなと思われた。

「ミッフィーの化石」とのこと

 こういったバラエティ感、また色彩の豊かさから、本展を観た人の多くは、次のような形容を思い浮かべたことだろう。

  おもちゃ箱をひっくり返したよう

 まさにわたしもそうであったが、同時に、荒井さんの脳内にこっそりお邪魔して、見てはいけないものを見ているような……妙な感覚にも襲われた。
 もちろんそれは不快なものではなく、「次はどんな部屋だろう?」と、好奇心をもって、絵本のページをめくる気分で歩みを進めていったのだった。

 ※美術手帖のページには、各展示室の豊富なカットが掲載されている。


 とくに興味深かったのは、終盤に設けられていた、他作家の画集からのスケッチを集めたコーナー。線のみを拾うさらっとした模写をすることが、荒井さんの日課だという。その成果が、壁3面分いっぱいに貼り出されていたのだ。
 なかには、見覚えのある絵や画風がちらほら。端に添えられたメモ書きによると、マティスにムンク、ピカソ、ホックニー、日本人では安井曾太郎や松本竣介の名前が頻繁に登場する。
 どの作家も、これまでに観てきた荒井さんの作品像には、みごとに合致する。当然といえば当然なのだろうが、そのようにはっきり認識できた。
 ともすれば、オリジナリティ・独特さといった面ばかりが強調して受け取られてしまいそうな表現の源泉には、古典の摂取と学習が、たしかにあるのだ。そのことがこうして提示されていた点に、高い意義を感じたのであった。


 ——絵本のコーナーで、じっさいに手にとって吟味したなかから、数冊を購入。
 考えてみれば、絵本というのは作品図版を図録以上に大きく、そしてきわめてきれいに収録しているすぐれものだ。
 高精細な「荒井ワールド」を家に持ち帰って、いまでもときおり読み返し、その世界に遊んでいる。


 ※原画を観て惹かれた、おすすめの1冊。

 ※次回の巡回先は、愛知・刈谷市美術館とのこと。



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