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香りの器 高砂コレクション /パナソニック汐留美術館

 パナソニック汐留美術館「香りの器 高砂コレクション」展は、香油・香水・ポプリなどを入れる西洋世界の「香りの器」と、日本の香道具、香木、香道の伝書などの2部構成。
 扱う時代は紀元前10世紀から20世紀までと幅広く、西洋を中心とした「香りの文化史」ともいうべき内容になっている。
 展示品のバリエーションは多岐に及んでおり、誰もがなにかしらお気に入りを見つけられるのではと思われた。

 個人的な最初のハイライトは、会場に入ってすぐ、紀元前の地中海地域やオリエントの香油壺・香油瓶の並ぶ小部屋。ローマングラスの銀化の虹彩がきわめて美しく、大いに魅了された。

 もうひとつのハイライトは、ルネ・ラリックのものを中心としたガラス香水瓶の部屋。
 ラリックの着想・構想は天才的。メーカーからの受注品であってもラリックらしさが呑み込み、上回っていく。それが許され、むしろ求められた……まさに時代の寵児だったのだ。
 会場ではラリックの変幻自在のデザインを、さまざまなバリエーションの作品から堪能することができた。

 展示品には、瓶の中に香水が残っているものも散見された。
 その多くはもともとメーカーからの依頼を受け、特定の商品ありきで――「あるブランドのある香水」を容れるためにデザインされた。すなわち、造形の念頭にはその香水の香りや色合い、瓶詰めされた状態での見栄えなどといった考慮されるべき前提がたしかにあったはずである。
 それならば、中身の香りも知らぬまま空っぽの香水瓶をながめていても、デザインの本質やあるべき姿の輪郭すら見えてこないのではないか……
 瓶の底に沈澱するウィスキーのような渋い琥珀色から、そんなことを考えたのだった。

 香りを扱う展示ゆえ、会場内にも馥郁たる香りが漂って……いればよかったのだが、それは感じられず。
 お茶の美術館に行けばすんとお香の残り香があるし、近年の奈良博の展覧会では日本香堂が「協力」としてクレジットに入っていて、やはり会場にほのかな香りを提供している。
 本展示においても、そのような工夫があってもよかったかもしれないなと思った。


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