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松平造酒助江戸在勤日記-武士の絵日記-:1 /神奈川県立歴史博物館

 庄内藩の上級武士・松平造酒助久茂(みきのすけひさしげ、以下「造酒助」)の絵日記を紹介する特別陳列である。
 幕末の庄内藩は西洋式の軍備を導入し、会津藩とともに奥羽越列藩同盟の中心となって戊辰戦争を戦った。造酒助は藩内にあって早い時期に西洋軍備の必要性を主張し、その手配に奔走した人物。造酒助自身も、当時最新鋭のミニエー銃の訓練に励んだ。
 造酒助は元治元年(1864)8月からのおよそ1年間、江戸の藩邸へ単身赴任している。この期間中、国元(現在の山形県鶴岡市)にいる家族宛てにまめに手紙をしたため、また絵日記を書き溜めて、他の藩士や飛脚に託したのであった。
 子どもたちがまだ幼かったこともあって、絵日記は業務日誌の類に留まらない楽しいものとなっている。江戸での暮らしのなかで起きた出来事、江戸で見ためずらしいもの、おいしいもの、仕事の愚痴までが、戯画ふうの絵で表されているのだ。
 造酒助の洒脱な筆づかいには「ヘタウマ」感はさほどなく、むしろ素人とは思えないほどであると同時に、専門絵師にはない拙なる味わいもたしかに残っていて、いい塩梅に観やすい絵だと思った。上級武士の家で、絵のたしなみがあったのだろう。『北斎漫画』を入手して、図様を模した形跡も確認されている。なにより、楽しそうに描いているのがとてもよいではないか。
 絵の魅力については、展覧会の公式動画でその一端に触れることができる。編集が凝っていて、お気に入りの動画。

 絵日記・全50冊が、神奈川立歴史博物館に所蔵されている。さらに、日記とまったく同じ時期に書かれた書状100通あまりが鶴岡市郷土資料館に残っていると判明し、これらを突き合わせた成果が本展で披露されていた。
 本展の図録はなし、会場内は撮影自由。
 というわけで、上記に加えて2本上がっている動画と、そのなかには登場しない興味深い絵日記の内容について、写真をまじえながらご紹介していきたいと思う。(つづく
 

 ※なぜ神奈川歴博に絵日記が所蔵されているのかについては、展覧会中では不明であった。


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