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書の紙:2 /成田山書道美術館

承前

 2階の展示室からは「白くない紙」、いわゆる料紙装飾の紹介に入っていく。
 色で染めた「染紙」、色つきの繊維を漉きこむ「雲紙」「飛雲紙(とびくもがみ)」、表面を版で摺る「唐紙」に加え、雲母砂子や金銀箔を散らしたものや、下絵を描き込んだものまで網羅。
 古筆の名物切をふんだんに事例として活用し、近世・近代、そして現在も活躍中の作家の作品まで取りそろえた、ぜいたくな展示内容である。
 また、これらが同時に並べられることで、近現代の書家による作品が、平安古筆からいかに絶大な影響を受けているかも、視覚的にはっきりと照射されていたのであった。

◾️染紙

 染紙の作品例としてわかりやすいのは、古写経の紺紙。全体を濃紺で染めあげ、瑠璃光浄土を象徴する。
 《中尊寺清衡一切経》(平安時代  成田山書道美術館)は、同じ手のものを東京国立博物館「中尊寺金色堂」展で拝見したばかり。
 というか、金銀交書の中尊寺経はおよそ300巻分がほうぼうに散逸しており、各地の美術館・博物館で比較的よくみられるメジャーな古写経でもある。
 それでも、完好な状態の1巻まるごとというのは、貴重なものだ。

 その他にも、古写経切のスターといえるものが数種類、複数点ずつ出ていた。
 聖武天皇を伝称筆者とする「大聖武(おおじょうむ)」(奈良時代)。毅然とした肉厚の文字は、まさに王者の風格だ。
 細かな粒子が入る料紙は、仏舎利を漉き込んだとされる特徴的な「荼毘紙(だびし)」。複数点を見比べると、その色合いには違いがある。

 1200年ほど経っているから、コンディションは紙の色にも影響する。それに加え、長大な経巻に使用するすべての紙を均質に染めるのは、当時の技術では不可能だったとも。色の違いにはどちらの理由も考えられ、断定はむずかしいという。
 それにしても、取り上げられる事例の多さ。2行の軸装、手鑑に貼り込まれた3行、2行、1行の3葉。これだけ出してもらえるのはありがたいし、それぞれにずいぶんと状態が異なることが一目瞭然なのは、やはり興味がひかれる。
 展示ケースでは、手鑑のすぐ上の壁に軸が掛けられており、比較がしやすかった。国分寺経、泉福寺焼経、二月堂焼経など他の経切に関しても、同様の配慮が。
 わたしは書に関しても絵画的に観てしまうきらいがあり、泉福寺焼経や二月堂焼経はとても好むところ。いずれも火中から救われて今日に伝わる古経で、焼失の程度は遺品ごとにかなり異なる。同じ二月堂でも、こちらこちらのように(いずれも成田山書道美術館蔵)。
 焼経には、消えゆかんとする「滅び」の美があり、それでも必死に守られた「救い」の美もまた共存している。
 本展の主題とはずれてしまうが、焼経の個体差を豊富に楽しめるのも、大きな魅力かと思われた。

 紙を染めることの意味は、表現・鑑賞上にとどまらない。
 伝小大君《香紙切》(平安時代)の「香り」の由来は、漉き込まれた丁字(クローブ)の粉末だ。防虫効果があるとか。

 後の章に登場する雲母に関しては、紙同士の貼りつきを抑制してくれるという。
 もちろん、装飾としての視覚効果が考えられてはいるわけだが、他にもさまざまな機能を期待されて、多様な紙が生み出されていった。(つづく


梅園の白梅


 ※色の異なる単色の染紙を、継ぎ合わせていく使い方も。



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