見出し画像

あの世の探検 ー地獄の十王勢ぞろいー:1 /静嘉堂文庫美術館

 静嘉堂所蔵の仏教美術を一堂に展示する、丸の内移転後としては初の展覧会。
 タイトルにあるように、閻魔大王を含む「十王」を描いた「十王図」の一挙公開が最大の目玉となっているが、地獄絵のみを集中的に扱うものではなかった。
 考えてみれば、十王図にかぎらず仏教美術全般が、「あの世」を強く意識するなかで生み出された造形である。
 広い意味での共通項を示す「あの世の探検」というタイトル設定により、作品に没入するのみならず、つくられた意味・意図や、どのような場で飾られ、使われたのかといったところにも、おのずと考えが向きやすかった。

 全4室のうちの第1、2室に中国や高麗、それに日本中世の仏画、最も広い3室には、主役の十王図とともに仏像や仏具などの立体物や経典などが展示されていた。
 高麗仏画《水月観音図》(高麗時代・14世紀)の美麗さにうっとり。そのほか「修理後初公開」の作品が多々含まれており、これらのお披露目も本展の主眼となっているようだ。
 初公開となる作品も。《木造兜跋毘沙門天立像》(平安時代・10世紀)のようなものがずっと仕舞いっぱなしだったという事実からは、静嘉堂の驚異的なまでのお蔵の深さを感じるのであった。
 3室を入ってすぐに、見覚えのあるお姿が。あの鎌倉大仏のミニチュアで、両手に乗るほどのサイズ。こちらも初公開の品だ。
 作者は彫刻家・新海竹蔵。叔父・竹太郎とともに、関東大震災で被害を受けた鎌倉大仏の修復に従事していた頃のもの。展示機会があまりなかったのだと察せられるが、阿弥陀さまであるし、このテーマならたしかに蔵出しできる。

 鎌倉大仏の前、2室の最後には河鍋暁斎《地獄極楽めぐり図》(明治2年〈1869年〉)が出ていた。
 暁斎のパトロンが、若くして亡くなったみずからの娘を悼んで注文した画帖で、彼女があの世を大冒険し、極楽往生を遂げるまでを描いている。

 本作はこのほど80%の縮小サイズでまるごと複製され、本展に合わせてミュージアムショップで新発売となった。展示ケースの脇にもサンプルが置かれており、原品と見比べながら、ページをめくってみた。

 極彩色で、変化に富んだ場面展開をみせるこの画帖。こうして各図ごとに順番にめくっていくことで、初めて気づけることも多いのではと思われた。同じく暁斎が手掛けた桐箱を、帙(ちつ)で再現しているところもニクい。
 思わず欲しくなってしまうような、コレクター心をくすぐるアイデア、そしてすばらしい出来に、拍手喝采である。
 移転後の静嘉堂はミュージアムグッズに非常に力が入っていて、大ヒット中の曜変天目茶碗のぬいぐるみだとか、同じく曜変天目のアロハシャツなどが話題を呼んでいる。
 今回の画帖の複製も含めて、じつのところ「企画者自身がいちばん欲しかったものなんじゃないかな?」と思わせるほど、美術ファンの物欲を的確に衝いたグッズ展開といえよう。(つづく


静嘉堂@丸の内が入る、明治生命館(重文)の窓の装飾



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?