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小千谷の街の雛祭り:2

承前

 雛飾りに使われる絵紙(えがみ)は、ほとんどが多色摺りの浮世絵版画、いわゆる「錦絵」。いずれも幕末から明治にかけてのもので、この時期特有の強烈な色みをしている。単体でも十二分にインパクトの強いものが、ここでは、これでもかというくらいに大量に掲げられている。
 写真で見るだけで目が回りそうなものだが、同時に、どこか暖かみを感じさせるところもあるからふしぎだ。
 ここ小千谷は、大倉喜八郎の出た新発田と同じく、日本でも屈指の豪雪地帯。厳しい寒さを少しでも和らげるために、暖色系の色遣いを効果的に活かした、すき間なく高密度な空間を生み出す――それは、とても自然な行為のように思われるのだ。

 石川雲蝶という木彫師をご存じだろうか。
 幕末から明治、すなわち小千谷に残る絵紙の制作と重なる時期に、小千谷からもほど近い越後の内陸部の寺社の内陣を、立体的な彫刻で埋めつくした人物である。「日本のミケランジェロ」と呼ぶ人もいる。

 雲蝶の作品もまた、すき間なく高密度。暖色系を効果的に使った、どぎついほどに強烈な色みをしている。これもまた、「視覚的に暖をとる」北国の空間造形の一傾向を示すものといえようか。わたしは小千谷の雛祭りの写真を見て、雲蝶のことがすぐに思い浮かんだ。
 戸外は、雪で一面真っ白。お堂に入れば、原色の彫刻でぎっしり。このギャップが人をあっと驚かせ、そしてほっと安心させもしたのだろう。

 縄文の火焔型土器が出土した十日町市も、小千谷に隣接している。
 燃えさかる炎を赤土で立体的に表した火焔型土器は、小千谷の雛祭り、石川雲蝶といった北国の造形の遠い遠い淵源にある……かもしれない。

 冬の寒さを吹き飛ばす、アクが強めな〝こってり〟越後の旅 with 越後の名酒三昧。今度の3月3日は、そんなプランもいい。



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