クレーや紫紅や非水 所蔵作品展 MOMATコレクション:3 /東京国立近代美術館
(承前)
5室は、パウル・クレーの部屋。ニューカマーの《黄色の中の思考》を含む、収蔵する全15点+関連作家の作品で構成されている。
クレーの作品は、宮城県美術館に35点、アーティゾン美術館に25点が所蔵されている。
後者のうち24点は近年一括収蔵されたもので、お披露目展(2020年)ではひとつの部屋に25点すべてが並んでいた。しかも、類品の重複がないという内容。卒倒しそうになった。
このときほどではないにせよ、本展もそれを髣髴とさせるものだった。
《小さな秋の風景》は、暖色系主体の配色に、深まる「秋」を感じさせる小品。フリーハンドの線による画面分割の内側で、さまざまな「秋の風景」を描写している。
この絵に取り合わせられるように、かたわらには未来派を思わせる立体の人物像《首》が置かれていた。
クレーの作品ではなく、仲田定之助という、作家としてよりも評論家として知られる人物の作品である。
仲田は日本人として初めてバウハウスを訪問し、クレーの《小さな秋の風景》を持ち帰った。日本に請来された最初期のクレー作品になるという。《小さな秋の風景》のキャプションには、寄贈者として、奥様とみられる女性との連名で仲田の名が記されていた。
《花ひらく木をめぐる抽象》は、東近美のコレクション展示には比較的よく出ているもの。
各々の色のひとはけは、縦方向であったり横方向であったりする。ここでも四角形はタイルの碁盤の目状でなく、フリーハンド様(よう)だ。ゆらぎを感じる、動きのある絵だと思う。
そしてこちらが、新たに収蔵された《黄色の中の思考》。98×47センチと、大きな作品である。
ほのかに赤みがさし、血色を帯びた人肌のような、淡い色調。画中で、かたちらしいかたちをなしているのは、顔の一部や階段くらいのもの。あとは、ごく断片的だ。
いまこうして図版を見ながら所感を文に起こしていると、会場で観ているときよりも、なんだかさらに共感が湧いてきた。
頭のなかにあるイメージというのは、この絵のように、断片的なまま浮遊している、ファジーなものじゃないかと感じるからだ。
ぼんやりとしたなにかをある形に変換する作業が、文章を書くという行為であり、絵を描く行為でもあろう。(つづく)
※東京国立近代美術館のクレー・コレクションは、こちらから画像を閲覧可能。
※宮城県美術館のクレー・コレクションについて触れた記事。
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