見出し画像

良寛の書の世界 ~清らかな書の成り立ち~:1 /東京黎明アートルーム

 東中野の東京黎明アートルームにて、良寛さんの書を拝見。
 この館にとって通算2度めとなる、外部から作品を借用しての「特別展」である。出品総数47件のうち、館蔵品はたった1件のみだ。

 前回、すなわちこの館で最初に催された特別展は「浦上玉堂  ~画法は知らず ただ天地(あめつち)の声を聴き 筆を揮う~」(2021年)。名品ぞろいで感嘆のため息が止まらない、すばらしい展示であった。

 玉堂展のときと同じく、今回の良寛展でも、入場時に小冊子の図録をいただいた。
 A4判・20ページ、オールカラー。全点ではないが、主要な作品の図版に加えて、読み下しと釈文を収録。これはありがたい。

 図録をめくっていくと、見覚えのある作品がいくつも出ていることに気づかされる。
 本展では、館蔵の1件を除く46件が「日本有数の良寛コレクター」の所蔵品。このコレクションは近年、展示・出版の機会が幾度かあったのだ。

<展覧会>
・永青文庫「心のふるさと良寛」(2018年)
・名古屋・徳川美術館「良寛さん-その人と書」(2019~20年)
・永青文庫「心のふるさと良寛Ⅱ」(2021年)
<書籍>
『良寛遺墨集―その人と書』(全3巻  淡交社  2017年)
『続  良寛遺墨集―その名筆とゆかりの人々』(全2巻  淡交社  2021年)

 わたしは永青文庫の展示を2回とも拝見しており、そのときの記憶がまだ新しくはあった。
 絶作に近い《漢詩  草庵雪夜作》、被災直後の身のこわばりが伝わってくる《地震》、「親父の小言」的で耳が痛くなる《戒語》……など、とくに鮮明ではあったが、それだけ胸を打たれた裏返しでもある。
 じじつ、このたびの再会にあたっては胸が躍り、改めて拝見して、また違った印象をいだきもしたのであった。
 よいものは、何度観てもよい。

 なかでも《漢詩  草庵雪夜作》は、絶作に近いものにして、やはり絶品というべき作。
 この、いっさいの無駄な力が抜けきったたたずまいこそ、悟境と呼ぶのだろう。テクニックでは、真似はできまい。
 良寛書の真髄が詰まった一作を、ひと筆ごとに、夢中になって見つめるのであった。(つづく)


 ※《漢詩  草庵雪夜作》だけで、本が1冊出ている。吉川蕉仙『良寛  草庵雪夜作―やすらぎを筆に託して』(二玄社  2010年)。おすすめです。

 ※新宿区立漱石山房記念館のテーマ展示「漱石・修善寺の大患と主治医・森成麟造」では、漱石が医師・森成麟造に宛てた書簡が出ていた。漱石はかねてより良寛さんの書を所望しており、森成の斡旋によりそれが叶ったことに対する礼状。森成は新潟の人で、ルートがあったのだろう。漱石の筆も、良寛ふうを思わせる崩しになっていた。

本展のリーフレット(表)
(裏)


黎明アートルーム近くの中野氷川神社・神輿庫

 ※2021年の浦上玉堂展のレビュー記事。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?