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讃岐の誘惑:2 /イサム・ノグチ庭園美術館

承前

 高松市牟礼町は、隣の庵治(あじ)町とともに「庵治石」の産地として知られる。花崗岩の一種で、墓石用の石材としては最高級といわれるこの庵治石を用いてオブジェ彫刻をつくったのが、イサム・ノグチである。
 日本人の詩人を父に、アメリカ人の作家を母に持つノグチは太平洋を股にかけ、生前より今日に至るまで世界的な評価を得ているが、その仕事に欠かせない素材が香川の庵治石であった。
 制作の拠点となるアトリエも、庵治石の産地に近い牟礼に構えた。父・米次郎は愛知の出身で、元来ノグチはこの土地の縁者ではない。にもかかわらずこの地を選んだところに、ノグチにとって庵治石という素材がどれだけ大事なものだったかがわかる。
 牟礼のノグチのアトリエは現在「イサム・ノグチ庭園美術館」として一般公開されている。作家が制作をおこなった現場がそのまま残され、代表的な作品の鑑賞ができる環境があるのは幸せなことだ。
 ノグチによる、物言わぬまろやかな、時に厳しい「かたち」を観ていると、時の経つのを忘れてしまう。ほかのなににも似ていないそのフォルムを、作家の息づかいがいまだ感じられる空間で、長い時間をかけて見つめつづけてみたい。ずっとそう思っている。
 先に触れた讃岐うどんの名店・山田家は、このノグチの美術館からなんと徒歩12分。そんなわけで、セットでまわってみない手はない。(つづく


※東京都美術館の感想はまた後日


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