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【小説】雪のひとひら

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#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 時代に取り残された、とある山奥の集落。両親の離婚をきっかけに、父親の実家にひとり引きとられることとなった少年、大輝。山奥の秘境で大自然…
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【小説】雪のひとひら 第三話

【小説】雪のひとひら 第三話

第三話 燃える山

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 祖父が亡くなった一年後に、瀬戸内海をのぞむ小高い丘に建つ、吟子さんの新たな住まいを訪ねた。こじんまりとした茶塗りの二階建てで、海に面した庭に、小さいながらも自由にできる畑が据えられていた。その場所からは海が見える。ぽつぽつと点在する島々。定期船が通ったあとにできる白い波濤。太陽の光をぎらりと反射する、どこまでも青すぎる海面。たしかに。電話で聞いたとおり、ぼくらの故郷

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【小説】雪のひとひら 第二話

【小説】雪のひとひら 第二話

第二話 埋み火に

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 ある夏の昼下がり。女木内の小石が敷き詰められた河川敷に、四、五人の少年の姿があった。陽は高く燃えるようで、少年たちの影が冷たい水面に伸びている。川は水源に近い上流であれば、傾斜が急で流れも激しいのだが、このあたりにもなれば川幅は広く、流れも緩やかだ。少年たちはシャツもズボンも身につけたまま、髪の毛の先端から水雫を滴らせ、冷たい流れに足を踏み入れている。水は深いところ

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【小説】雪のひとひら 第一話

【小説】雪のひとひら 第一話

第一話 雪のひとひら

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「ほら、見てごらん」

 ぼくは口をつぐみ、言われたとおりに、指を差された方向へ目を向ける。

「あれは熊がブナの実を食べた跡だよ。あんなふうに枝を手折って食べるから、木の上に棚のような空間ができるんだ」

 鉄くずのように無知なぼくにそう教えてくれたのは、隣に並び立つ宗次郎兄さんだった。そう。何重にも折り畳まれた小さな記憶のなかで、兄さんはいつでもぼくの隣を歩い

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