マガジンのカバー画像

芥川龍之介論2.0

1,023
運営しているクリエイター

#芭蕉

芥川龍之介 「庭に蒟蒻玉を沢山植ゑて蒟蒻園造る」 蒟蒻計画が意味するもの

芥川龍之介 「庭に蒟蒻玉を沢山植ゑて蒟蒻園造る」 蒟蒻計画が意味するもの

 庭の人室生犀星にこう告げる芥川は、先に竹三百竿を庭に植えている。

 とても死を覚悟した男のやることではない。と蒟蒻の栽培方法を確認すると冬場は土壌づくり、種付けは春なのである。

 つまり収穫期まで考えると、この蒟蒻計画は来年の秋を楽しみにした話なのだ。大正十四年の書簡、それは勿論集められた分だけということで、相変わらず高浜虚子宛のものなどはみられないが、確認できる範囲で言えば死の気配などまる

もっとみる
簾戸や雨にまします蝸牛 芥川龍之介の俳句をどう読むか57

簾戸や雨にまします蝸牛 芥川龍之介の俳句をどう読むか57

簀むし子や雨にもねまる蝸牛

 この句に冠しては独特の解釈をしている人がいる。簾虫籠を「簀むし子」に転じていることから、

 ……という解釈だ。なかなか面白い解釈だがひとまず置こう。 

 室生犀星が書いていることが確かならば「簀むし子」は金沢方言で「簾戸」、「ねまる」は「ねている」ではなく、「坐る」という意味になるからだ。

 新辞林には項目なし。

 明鏡、新明解は項目なし。それぞれ微妙に解釈

もっとみる
それは見えていないのかもしれない 芥川龍之介の俳句をどう読むか24

それは見えていないのかもしれない 芥川龍之介の俳句をどう読むか24



金柑は葉越しに高し今朝の霜

 この句は殆ど鑑賞されていないようだ。「葉越しに高し今朝の霜」が解らないのではないか。

鶴の巣も見らるゝ花の葉こし哉

 という芭蕉の句がある。鶴の巣は四月五月、桜は三月四月。金柑の実は秋の季語、花は夏の季語となる。また白桃の罠が仕掛けられている?
 いや、霜があるのだから花はなかろう。

 この金柑は実で良い。

金柑は葉越しに高し今朝の霜

 ……の句には

もっとみる
虚子の句の前につけたか 芥川龍之介の俳句をどう読むか⑪

虚子の句の前につけたか 芥川龍之介の俳句をどう読むか⑪

竹林や夜寒のみちの右ひだり

竹林や夜寒の路の右左

 この表記も見られるが、昭和四十六年筑摩書房版の『芥川龍之介全集』では「竹林や夜寒のみちの右ひだり」である。

 この句もやはり私は高浜虚子の、

冬田氷る東海道の右左

 との連想で見てゆきたいと考えている。

凩や竹にかくれて靜まりぬ    芭蕉

 これではあるまい。

 ただの「右左」の文字列は、他にも鳴雪の、

鹿の子や巫女が袂の右左

もっとみる
芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと⑪ 正岡子規に喧嘩を売っている

芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと⑪ 正岡子規に喧嘩を売っている

 芭蕉についていろいろと思うところを書こうかなと、その程度の意図でこの『芭蕉雑記』は書かれたのだろうと思っていたが、やはり剣呑なものが具体として現れた。

片手落ち?

 芥川には本来関係ない話だが、三島由紀夫の清水文雄宛の手紙に鬼貫だの一茶などと出てくることを思うと、いかにも蕪村がディスられ過ぎの感のある『芭蕉雑記』の中に一茶が現れない完全無視の態度の方が冷徹な感じさえする。

 そういえば蕪村

もっとみる
芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと⑥ それってあなたの感想ですよね

芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと⑥ それってあなたの感想ですよね

 

 ちなみに蕪村の春雨の歌は芥川が認めたもののほかにもある。

 ここで芥川は「春雨」で蕪村をやっつけようとする。これはさすがに狡いのではなかろうか。「梅」ほどではないにせよ、「春雨」は散々和歌や俳句でこすられ続けてきた言葉なので、時代の古いものほどのびのびと詠めている。今まさに「春雨」で秀句が詠めるかというと、これはなかなか難しいのではなかろうか。

 やってみると少し距離を取り過ぎて、つま

もっとみる
芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと④ 芥川は『猿蓑』を読んでいなかった

芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと④ 芥川は『猿蓑』を読んでいなかった

 こんなタイトルを見てまさかねと思った人、納得したら本買ってね。

俗語?

 芥川が書いているからみんな素晴らしいというわけにはいかない。そこは飽くまで是々非々で行かなくてはならないと思っている。そういう意識を常に忘れてはいけないということだ。

 「私雨」👆

 なるほど芥川作品や漱石作品を論って天才を褒めるのは手数がかからないことだ。しかし、

 こうして天才にケチをつけるのは容易なこと

もっとみる
芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと③ 世襲になったらおしまいだ

芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと③ 世襲になったらおしまいだ

十句に及ぶ人は名人なり

『羅生門』
『芋粥』
『地獄変』
『蜘蛛の糸』
『女』
『蜜柑』
『あばばばば』
『奇怪な再会』
『河童』
『歯車』

 ……ほかにも『トロッコ』『お富の貞操』など、

 完全に理解しきれている訳ではないが、芥川の「凄い」と思われる作品は確実に十以上ある。特に『お富の貞操』は凄い。芥川は名人だ。
 夏目漱石は、

『こころ』
『それから』
『三四郎』
『道草』
『坊っちゃ

もっとみる
芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと① プラトンなしでソクラテスは有名になれたか?

芥川龍之介の『芭蕉雑記』に思うこと① プラトンなしでソクラテスは有名になれたか?

そもそも何故門人が集まったのか?

 改めてそう言われてみると、芭蕉の元に優れた門人が集まってきたのはどうしてだろうと不思議になる。その答えはおそらく「評判を聞いて」「紹介で」という「人づて」というところに落ち着くしかないのだろうが、そもそもどのようにしてそのネットワークが拵えられたのかが不思議である。

 夏目漱石の場合は元教え子が最初に集まり、その後著作を読んだ芥川などがやってくる。この著作が

もっとみる