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芥川龍之介論2.0

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2021年12月の記事一覧

ある死をめぐる考察 静子が殺されたことは明らかにおかしいのだ

ある死をめぐる考察 静子が殺されたことは明らかにおかしいのだ

 吉田和明の『太宰治はミステリアス』(社会評論社、2008年)は太宰治を聖化しようとする太宰ファンたちの神話を突き崩そうという試みであり、少なくともこれにより太宰の死に顔は微笑んでいたという神話は明らかに突き崩されているように思える。しかし太宰ファンではない、ただの太宰信奉者ではない、単なる浅はかな太宰作品の愛読者であるこの私にとって、太宰の死体がぶよぶよであったことなどはどうでもいい。ここから始

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夏目漱石作品と芥川龍之介の生活 夏目さんにしてもまだまだだ

夏目漱石作品と芥川龍之介の生活 夏目さんにしてもまだまだだ

 皆さん、あの『こころ』の「私」のところへ「芥川」を置いてみてください、と『芥川龍之介の文学』で佐古純一郎は書いている。これが近代文学1.0における根本的なミスの事例であることは指摘するまでもなかろうか。佐古純一郎は芥川龍之介は漱石文学を継承したというストーリーを持っていて、そのストーリーに芥川作品を無理やりはめ込むつもりなのだ。だから芥川が漱石に対して感じていた畏怖や圧迫感をすがすがしい敬愛に置

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