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2024年映画感想No.10 マイ・スイート・ハニー(原題『Honey Sweet』) ※ネタバレあり

キャスティングに必然性のある物語

MOVIX京都にて鑑賞。
ユ・ヘジンが主演でラブコメをやることで、ルッキズムを含めた「男らしさ」を批評的に再定義してみせるような恋愛描写で展開する物語になっているところが面白かった。
主人公もヒロインも家庭内のマチズモ的な価値観によって人生の犠牲を強いられているという設定があり、そんな二人がお互いの存在によって抱えていた欠落を再生して他者と生きる幸せを再構築していく。二人の人生を搾取するものの象徴的な場所である金融窓口での出会いの場面では、怒鳴る男性の隣で子供の気を逸らそうとするユ・ヘジン演じるチホの”母性的”な優しさにヒロインのイルヨンが惹かれるということが恋愛のきっかけになっていて本作の恋愛的価値観の提示になっているように感じた。
恋愛自体が二人にとってマチズモからの脱却そのものであり、そんな関係を阻もうとする要素には仕事(キャリアのために私生活を犠牲にさせようとする上司たち)や男兄弟といった男性的な属性のしがらみが設定されている。そういうものに対してヒロインの女性後輩や娘といったシスターフッドが男たちの目論みを否定して二人の関係を後押しするという構図で一貫しているところにこの映画の男性性に対する眼差しが伺えて興味深かった。

一貫しているコメディ的語り口とアンチマチズモな価値観

基本的にはコテコテのコメディなので、かなり笑い優先で軽い作劇になっている。イルヨンの元旦那の脚本上の処理の仕方なんかは雑とかいう次元じゃないレベルの展開で本当にビックリした。肩透かしの展開数多くあれど、あそこまで意味不明な退場のさせかたは中々珍しいと思う。
一方で主人公が「ズレている」ことで生まれるコメディ描写が男性本位な男らしさを否定するような描写にもなっている。たとえば同僚から異性へのアプローチとして下ネタ話術を伝授された主人公が全く意味を理解しないままヒロインに話してドン引きされていることにも気づかないという場面があるのだけど、基本的に男性性の有害さに関しては一貫して滑稽なものとして映しているし、そういう価値観を拒絶するような主人公の性格を「真に魅力的な人」として再定義していくようなラブストーリーになっていると思う。

ユーモア描写に見るカルチャーギャップ

二人が近づいていく要素の一つに主人公のユーモアセンスを巡る描写があるのだけど、韓国のギャグみたいなものがよくわからなくて場面のニュアンスを掴みかねる瞬間が多々あった。本当に面白いことを言っているのか、微妙にズレててそれが面白いのか、「一般的には面白くないギャグがツボに入る二人」という親密さの表現なのか、その違いすらわからなくてすごいカルチャーギャップな体験だった。映画の意図した受け取り方ではないけれど「笑い」を通じて文化の違いを感じることは外国のコメディを観る面白さの一つだと思う。
個人的には主人公が「殺すぞ」と言われると「本当に?」と返してしまうという設定が好きだった。その手の主人公の性格を表す描写ややりとりは他にも沢山あるのだけど、描写としてキャッチーな割にはあまり回収率が高くなくて逆にもったいなさを感じてしまった。

大味だが整理しようという意識は感じる脚本

各キャラクターがきっちり2回以上登場するところなど脚本としてしっかりしようという意識は感じる作り。出てきた時点では明らかにトゥーマッチな登場人物たちが後で再登場するたびに「なるほどこの為のキャラクターだったのか」と一応納得させてくれる程度には、どの人物も初登場時から印象に残るしそれがちゃんと二人の関係性にとって意味のある場面に関わってくる。
人相悪いユ・ヘジンが演じるだけあって主人公は劇中で何度もただ相手を見ていただけなのに「睨むな!」とキレられるのだけど、クライマックスに主人公がヒロインにまっすぐ気持ちを伝ようとする場面でずっと気味悪がられていた彼の特徴的な眼差しを真正面から捉えるカメラワークになるところに不覚にもグッと来た。

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