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地方にある食品クラスタのファンづくり事例

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
第4章 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
(1)地方にある食品クラスタのファンづくり事例

第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け


1.ファンを増やすためのヒントを探す


本章では、これから先、自社のブランドや商品の魅力を幅広い方々にお届けし、一人でも多くのファンを獲得するために、工夫したいポイントを、整理し、読み解いてまいりたいと思います。

前章では、中小企業や小規模事業者にとって、ぐっと敷居が下がった、デジタルネイティブ時代の共感型マーケティングモデルをご紹介いたしました。

「個」と「個」の繋がりにフォーカスした共感型マーケティングモデルで取り組むべき、たった一つのこと(アクション)は、口コミを通じた情報連鎖の起点となる最初の共感者を捕まえることです。

本節では、先行してSNSやオンラインチャネルを活用してファンづくりを進めている中小企業や小規模事業者の事例を取り上げ、特に所在地が地方にあり、企業の規模は大きくなく、従来のマーケティングセオリーに従って考えれば、ファンづくりには不利な条件が揃っていると想定される方々が、いかにして「最初の一人目のファン」を作っていらっしゃるのか、事例を通じてご紹介できればと考えています。

第1節で取り上げる3つの事例は、私が、とある地方の県の産業振興に携わる職員の方からお声がけいただき、地元の食品クラスタ(地元の名産を生産・加工して流通させる)の経営者向けに、オンラインチャネル活用のための研修(ワークショップ)講師を務めた際、6次化に取り組む生産者が取り扱う加工食品や飲料を想定し、食品クラスタの企業のお取組みとして、ご紹介した事例です。

SNSやオンラインチャネルを活用したファンづくり、といっても、そんなにハードルが高いものではないので、小さくても、ファンを作るための「最初の一歩」を踏み出していただき、最初の1人目のファンを作るための、工夫として参考になりそうなポイントを、整理いたしましたので、3つの事例を通じてご紹介させていただきます。

小さくてもファンを増やすための仕組みや仕掛け、工夫を読み取るにあたり、参考にさせて頂いたWEBサイトは以下の3つになります。ご興味がある方は、ご覧ください。

駅から離れた地方都市のカフェ事例

味噌のたまり漬けが作る朝食文化

地元以外のお客様を誘引するコンテンツの力


2.駅から離れた地方都市のカフェ事例

まず、最初の事例は、仙台市にある日本茶カフェ「道草屋」さんです。

こちらの日本茶カフェ「道草屋」さんは、地図で拝見すると最寄りの地下鉄駅から徒歩7分ということで、人通りがものすごく多い、有利な立地にあるわけではないと思いますが、Twitterを上手に活用することで、立地を超えて、遠方からも日本茶ファンの方にお越しいただけるようになった事例としてご紹介されていました。

仙台市にある日本茶カフェ「道草屋」では、店主がTwitterでゆるく気の向くままにつぶやくうちに少しずつフォロワーが増え、やがてTwitterで道草屋を知った人が客として訪れるようにまでなりました。来客数の2割がTwitter経由となり、売り上げも半分まで迫るまでとなったそうです。

道草屋の店主のインタビューと、上記のTwitterのアカウントから発信される内容を拝見し、小さくてもファンを作るための工夫を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

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共感型マーケティングモデルを実践するため、道草屋さんの事例から、採り入れたいポイントが4点あります。

1点目に、道草屋さんがtwitterのアカウントを通じて発信する内容が「宣伝に固執していない」、という点が挙げられます。

店主の方は提携する茶農家より直送された、安心安全の厳選茶葉を使用しており、日本茶を若い人に召し上がってもらいたい、もっとお薦めしたい、という気持ちでコメントを書いているそうで、Twitterから発信される内容に、「この商品を買ってほしい」、「このお茶はいくらです」という商業ベースの直接的なメッセージは発信しておりません。

今この商品は●%OFFです、というメッセージや、この画面を見せたら、プレゼント、といった最終消費者、顧客に対するレコメンデーションではなく、あくまでも、「日本茶の魅力」を届けたい、知ってもらいたい、という想いを表すコンテンツを発信されていることがわかります。

従って、「共感型マーケティング」モデルの発信するメッセージは「共感・ファン」を獲得するために最適化された内容である、という特徴に当てはまる事例だと考えられます。

2点目の特徴は、「肩ひじ張らずに続ける」ことです。
店主が、Twitterアカウントを開設したのは2009年です。そこから、ゆるく、気の向くままに、自分の身の回りにあることや、日本茶の魅力を、つぶやき続けたことが、共感するファンを惹きつけ、長い時間をかけて、共感者との交流が続き、1000人のフォロワー(ファン)を獲得するまでに至っています。

3点目の特徴は、「軸をブラさない」ことです。
道草屋さんの場合は、日本茶カフェとしての軸は外さないように発信を続けていらっしゃいます。Twitterアカウントは、あくまでも来店までの入り口であり、日本茶のファンとの接点であるとして、カフェには、日本茶を求めて来てほしいという考え方を持ち、Twitterを通じて来店されたお客様を、特別扱いするような企画を行うことはないそうです。

前節では、情報を手繰り寄せる世代に対する情報発信の留意点として、世界観を維持すること、貫くテーマとストーリーの一貫性が求められる点を、ご紹介いたしましたが、自社の商品について共感を得たいと考えるターゲットが持つニーズと、情報発信時の「世界観」の合致があって初めて「共感」が生れるという共感型マーケティングの特徴に合致した、工夫がされていると考えられます。

最後の特徴は、「双方向のコミュニケーション」の活用です。
店主の方のつぶやきに返信したり、@ツイートしたりすることで、道草屋さんに興味を持った方と、店主の方とが、来店前にオンラインで会話をされた後、共感したファンが来店されるため、実際には初来店の方も、気持ちは馴染み客となっており、来店時の敷居が低くなる他、実際の来店では、対面のコミュニケーションを通じ、リピーターにもなりやすい、という効用を期待することができそうです。

3.味噌のたまり漬けが作る朝食文化

2つ目の事例は、日光市で味噌のたまり漬けを販売される上澤梅太郎商店さんです。新たな顧客の獲得と既存顧客との関係維持を目的にFacebookやTwitterを中心に情報発信に取り組まれています。

こちらの上澤梅太郎商店さんは、栃木県や日光産を中心に厳選した農作物を加工して、朝食のおともとなる商品を販売されているため、当方がご支援する地方の食品クラスタ(加工食品を取り扱っている)の皆様にとって、参考になるのではないかと考え、ご紹介したものです。現在、Facebookには1600人のフォロワーがいらっしゃることがわかります。

日光市で味噌のたまり漬けを販売される上澤梅太郎商店さん。新たな顧客の獲得と既存顧客との関係維持を目的にFacebookを中心にSNSを運営されています。上澤梅太郎商店さんは朝食を重視されており、自社商品を使った朝食の写真を投稿しています。WEBサイトのクオリティーも高く、ついつい商品を買ってみたくなります。同社の価値を「日本の朝食文化の振興」と定義し、「贅沢ではない、豊かな朝食」を実現するのが同社の商品であると訴求しています。

上澤梅太郎商店さんのFacebookコンテンツや、2000年から発信されている「店主日記」の内容をもとに、小さくてもファンを作るための工夫を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

商店

共感型マーケティングモデルを実践するため、上澤梅太郎商店さんの事例から、採り入れたいポイントが4点あります。

1点目に「自社の提供価値を明文化」している点が挙げられます。
上澤梅太郎商店さんは、自社の使命を「日本の朝食文化の振興」と定義し、中小企業、小規模事業者ならではのオリジナリティ(個性)を備えた情報を構成する要素である「理念や志」、「こだわり/譲れない想い」の部分が極めて明確に設定されています。

そして、上記の使命を果たすために、地元の農産物を使って提供するのが、同社の商品である、という位置づけが起点となり、全てのマーケティング活動が、日本の食文化の振興という使命によって最適化されることから、2点目にご紹介する、SNSを通じて発信するコンテンツも、一貫性が担保されるのだろうと、理解することができます。

2点目の特徴は「一貫したテーマ」による発信であり、3点目の特徴「美味しい朝食が主役」とあわせてご紹介します。

同社の発信するコンテンツは、「自社商品のたまり漬け」そのものではありません。自社商品も使われている「朝食の献立」がコンテンツであり、日々、発信される提案内容は、「贅沢ではない、豊かな朝食」のためという一貫したコンセプトで貫かれていることがわかります。

例えばですが、2019年12月12日(木)の発信内容は、以下のものです

味噌汁の具はコマツナ。味噌は「梅太郎・白味噌」でした。
右奥は「ごぼうのたまり漬」。朝露は生玉子に注して、
キノコとサンマの混ぜごはんにかけました。最高♪
【日光味噌・梅太郎白味噌】
【ごぼうのたまり漬】
【日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露】


上澤梅太郎商店さんも、共感型マーケティングモデルの特徴を生かした情報発信をされており、同商店の使命である、「日本の朝食文化の振興」のため、毎日の美味しい朝食の献立をご提案し、家族で食卓を囲む、豊かな朝食を召し上がってほしい、という一貫したテーマにそい、朝食の献立をご案内することを通じ、自社の商品に対する共感やファンを獲得されようとしていることがわかります。

最後の特徴は、「継続することで生れるパワー」です。
TwiterとFacebookに連携されている、店主日記での「朝食の提案」は、確認すると、2000年から、毎日更新されているものです。

共感型マーケティングを実践する際に重要なことは、実は継続性にあるのではないかと考えています。アカウントを開設するためにコストはかかりませんし、従来のプロモーション手段に比べ、劇的に敷居の下がったSNSやオンラインチャネルを通じた情報発信やファンづくりのアクションですが、一貫したコンセプトのもと、継続的にコンテンツを発信することが、求められます。

自社の世界観、統一したテーマにそって、長い期間継続して、覚悟を持って発信し続けない限り、共感者を広げていくことは叶いません。お金はかからない一方で、取り組む限り、常に知恵を絞り、共感と信用を得るために、永続的に足掻き続ける必要があるという点が、最も高いハードルであり、実施障壁になるのではないかと、考えられます。

4.地元以外のお客様を誘引するコンテンツの力


3つ目の事例は、鳥取県鳥取市末広温泉町の名代 ささ寿司さんです。鳥取県の地産地消、鳥取産の近海ネタを使った美味しいお寿司が評判で、食べログを拝見すると評点が3.82もあり、非常に高評価のお寿司屋さんです。

日本で7番目に小さい県である、鳥取県。その鳥取に、新規顧客の半数以上をFacebookページ活用によって獲得しているすし店があります。新規顧客の50%以上がFacebookから。30%以上のお客様がささ寿司訪問を目的に鳥取へ。地元顧客数との比較で、地域外からの顧客比率が2.25倍に増加。


名代 ささ寿司のFacebookコンテンツや、Facebook for businessの紹介記事を拝見し、小さくてもファンを作るための工夫を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

ささ寿司

共感型マーケティングモデルを実践するため、ささ寿司さんの事例から、採り入れたいポイントが4点あります。

1点目は、本noteで最も大きな声でお伝えしたいことであり、小さくてもファンを作るためのアクションは「思い立った日が吉日」で始められる、という点が挙げられます。

女将の稲田美恵子さんは、店主だったご主人の逝去にあたって店の経営を引き継ぐことを決心。その時62歳。コンピューターの操作経験もなかった稲田さんが2012年にFacebookページを立ち上げ作成に要した時間はわずか数分。それ以来、稲田さんはFacebookを活用創業以来ひいきにしてくれている顧客、コミュニティとのつながりを強めつつ、新鮮な魚介を使った料理を提供する飲食店としての笹すしを支え続けている。

Facebook for business内の上記の紹介からもわかるように、SNSのアカウントを開設するには、費用もかからず、情報発信を開始するための敷居は圧倒的に低くなりました。

年齢や、ITのリテラシーの高低や、規模の大小も一切関係なく、一人目のファンを獲得しようと志した日が、共感者を獲得する第1歩を踏み出す吉日だと考えられます。

ささ寿司さんの事例ば、全国の食品クラスタで、SNSやオンラインチャネルの活用を考えているものの、始めの1歩が出ない方々にとって、背中を押してくれる、勇気が持てる、そのような事例だと受け止めています。

2点目の特徴は「対象者は日本全国」の発信であり、3点目の特徴「選択肢になる重要性」とあわせてご紹介します。

ささ寿司さんの場合、非常に多くの方が、Facebookの投稿をご覧になって、県外から訪れていることが、ご紹介されていますが、実際に、Facebookや食べログの口コミを拝見すると、ささ寿司に行きたくて、社員旅行先を鳥取にしている方や、毎年、ささ寿司を訪問される県外の夫婦がいたりして、Facebookが、県外のお客様に、ささ寿司の存在を知ってもらうために重要な役割を果たしていることがわかります。

インターネット時代から、デジタルネイティブ時代に入り、人が商品購入を決める意思決定の材料や、旅行先を決める、あるいは、旅先で食べたい地元ならではの食材や飲食店を探す、といった情報検索、情報探索のスタイルを考えた場合、まず、PCやスマホを使って、材料を集め始めます。

この際、検索エンジンに表示がされる、あるいは、「#」ハッシュタグを用いて情報を手繰り寄せる際、PCの画面やスマホの画面に、私たちが本当は伝えたい情報が表示されない限り、比較検討のためのスタート地点にすら立つことができません。

ささ寿司の場合も、「鳥取市」、「寿司」といった検索キーワードや、「#」ハッシュタグにヒットしない限り、旅行者の目に触れることはなく、スルーされてしまいます。FacebookやInstagramといったSNSのアカウントを
開設し、最低でも比較検討の対象となる情報を発信しておくことの重要性をご理解いただけるのではないでしょうか?

最後にご紹介する特徴は「季節感とシズる感」になります。

季節の美味やお店の看板料理、そしてフレンドリーなスタッフの様子が定期的に紹介されています。稲田さんは、四季それぞれの彩りにあふれた素材や新鮮な魚介をふんだんに使ったお料理の数々を写真付きで毎週投稿しています。その季節、その場所でしか出会えないものを細やかに紹介することで、実際にお店で味わった際の喜びも大きく増幅されます。

ささ寿司のFacebookアカウントを拝見すると、季節の変わり目ごとに、本当に美味しそうなお魚や、お寿司、そして目に楽しい料理の数々が投稿されているのですが、写真の構図や、配置、配色にもこだわった写真が使われており、写真には、かなりこだわっている様子が伺えます。

特に食品クラスタの場合、発信するコンテンツには、共感者を経由し共有された先で、「一度食べたみたい」、「試してみようかな」、「行ってみたい」、という、具体的なアクションを促す力が、求められます。

ささ寿司さんの事例からは、共感者経由し、共有され、口コミを喚起するコンテンツには、人の感情を動かすストーリー(物語)に加え、「情報自体の鮮度(例えば季節性)」やビジュアルを通じた「シズる感」が備わっている必要がある点を、ご理解いただけるのではないでしょうか?

第6章(1)地方にある食品クラスタのファンづくり事例、では、地方の食品クラスタである、日本茶カフェ、食品加工者、地域に根差した飲食店による、共感型マーケティングの実践事例から、小さくてもファンを作るための工夫を読み取ってまいりました。

第6章(2)食品クラスタにおけるオリジナルの取り組み、では、私がご支援した、地方の食品加工者や、ワインの収穫から、小売、飲食店を営んでいる事業者の、ファンを作るための工夫の実例をもとに、小さくてもファンを作るためのプランニングに必要な観点を整理したいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

 マーケティングの視点で見聞きし、読み解き、整理、体系化したこと事を発信しています。発信テーマ別に目次を用意していますので、気になる記事がありましたら、ぜひご覧ください。


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