定義と要件から考えるリテールメディアのポテンシャル
こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。
今回は、そもそもリテールメディアとは何者か、について考えてみたいと思います。広義に捉える場合や狭義に見る場合によって、リテールメディアの定義や範囲の解釈は変わってきます。
一般的なリテールメディアのモデルに基づき、どのような要件を満たしたモデルであれば、リテールメディアと呼び表せるのかを整理し、リテールメディアが持つ特性から見るたポテンシャルついて考えていきます。
1.一般的なリテールメディアのモデル
リテールメディアというキーワードで紹介されている「広告」、「プロモーション」、「レコメンド」、「ダイレクトコミュニケーション」の手段は実に幅が広く、リテールメディアとは何か、手に取ることを難しくさせている印象があります。
小売が媒体社として提供している広告媒体、という捉え方をする場合、チラシやDM、店内POP、販促ノベルティ、店舗内外のポスター、屋外広告や看板等もリテールメディアの内数ということになります。
一方、CARTA HOLDINGSが実施した、「リテールメディア広告市場調査」に関するリリースでは、リテールメディア広告の範囲を以下の通り、規定しています。
CARTA HOLDINGSは、ざっくり言えば、「店内に設定されたデジタルサイネージ」と、「小売業が自ら手掛けるアプリやWEBサイト(オンサイト広告)」に加え、小売が持つ1stPartyデータを使った「外部メディアでの配信(オフサイト広告)」の3つをリテールメディアとしてとらえており、前述した、以前から小売業が手売りをしていたアナログな媒体はリテールメディアの対象から外していることがわかります。
2.改めてリテールメディアの要件を考える
それでは、リテールメディアの特徴を最大公約数でまとめた、上記の図を元に、リテールメディアとは何者か、について考えていきます。
外形的には「小売業者が自社名義で外販する広告媒体」という整理が成り立ちますが、リテールメディアの構成要件を実質的に考えると、以下の3つの要件を満たしている必要があると考えています。
(1)小売が持つデータを活用
顧客のデジタルID(広告ID、cookie、メアド)と属性情報、行動履歴
入口:広告配信時のセグメント分けや配信者の特定に利用
出口:広告接触効果(購買に繋がったか)の計測、分析、評価に利用
※出口の結果を、次の入口の施策に活用するデータ循環構造を持つ
(2)自ら販売機能を有する
広告や販促対象の商品を仕入れ、在庫を持ち、販売、配送する機能を持つ
※商品の販売を見届け、広告成果の立証ができる構造
(3)購入時点に繋がる導線上のメディアを取り扱う
店頭、EC、ネットスーパー、BOPIS、即配等、販売時点と近く、お客さまの購買意思決定に直接関与できる接点の他、購買時点までの導線上に位置し、小売が持つデジタルIDで接続されたメディア
上記の要件に基づき、以下の広告、販促商材(例)が、リテールメディアにあたるのか、そうではないのか、仕訳を行ってみます。
【食品SM店内に設置されたデジタルサイネージのレシピ動画】
店内デジタルサイネージの媒体名義が小売業でないという理由ではなく、レシピ動画の店内視聴者を、小売が持つデジタルIDで特定することができないため、スタンドアロンの媒体という位置づけとなり、小売業が保有するデータを活用できていない点から見て、リテールメディアに含まれない。
【小売が持つ購買データを活用したデジタル広告配信】
小売の購買データを用いて買い物の傾向を特定し、ターゲティングする際、小売が持つデジタルIDの保有者だけでなく、類似拡張等を行いターゲティングする広告配信モデルは、最終的に購買に結び付いたかを、小売のデジタルID単位で確認できない点から見て、リテールメディアには含まれない。
一般的なリテールメディアの解釈と比べ、かなり狭義の捉え方になってしまいますが、リテールメディアの定義を、解像度を上げた形で文章化すると、以下の通りとなります。
「商品を仕入れ、在庫を持ち、販売し、届けるという価値提供基盤を持つ事業主体が、最終購買に繋がる広告効果を証明する仕組みを整えた上で、購買ファネルの導線上に、小売の顧客IDで接続可能なタッチポイントを展開」
+
「広告の配信対象を特定するために、小売業が保有するデータを活用するとともに、最終的な購買結果を次回の施策に活かす仕組みを持ち、IDとデータが還流することで広告効果や提案精度が向上していくメディア」
リテールメディアの解釈や範囲の捉え方は、いろいろありますが、個人的には、上記の要件を兼ね備えたメディアのことをリテールメディアと呼ぶべきではないかと考えています。
3.リテールメディアの特性と可能性
ユーザーの本来の利用目的と広告の内容、受け取るタイミングがズレてしまうディスプレイ広告など、空気を読まない友だちのような広告と比較して、リテールメディアは、お客さまの本来の目的のコンテキストとレコメンドするタイミングを合致させやすいという特性を持っています。そのため、今後、広告市場において、ますます、その存在感が増していくと考えています。
(1)お客さまのことがわかっている
リテールメディアは、お客さまからの同意のもとでお預かりしているお客さまの属性情報や、過去の購買商品情報等、行動履歴を活用することが可能です。
どういう価値観やライフスタイルの人で、趣味や好みも聞いたことがあり、最近の興味関心はこういう感じで、そういえば、あんな商品が欲しいと言っていたな・・といろいろ理解している友人は、本人がまったく興味がないと知っている情報を、あえて知らせたりしないものです。
(2)本来目的の導線上での案内
リテールメディアは、お客さまの購買ファネルの導線上にあり、特にECサイトでは、キーワードや商品名そのものが検索されているため、お客さまが欲しいと思っている商品(大よその正解)をお勧めすることが可能です。
ECサイト上に表示される「製品カルーセル」の機能は、同じカテゴリの中で、価格やスペックが異なる商品を比較検討するための情報であり、一緒にお買い物に行き、欲しい商品のジャンルは決まっているけど、どれを買えばよいか悩んでいる友だちに対するアドバイスに似ています。
また、購入ボックスは、レジに持っていこうとする直前で、もっと安い商品があったけど、その商品でほんとに大丈夫?と、後悔がないお買い物を手伝うことに似ています。
(3)次回の提案精度があがる
リテールメディアは、小売が持つ顧客IDやPOSの履歴を用いることで、広告出稿が直接売上に繋がったかどうか、判定することができます。これを、オフラインコンバージョンと呼んでいます。
過去に何を買ったのか、事前に知っていれば、購入済みの商品を案内することはなく、友人の立場では「確か、それ、持っていたよね?」と訊ねるようなものですし、お勧めしたけど購入しなかった、という事実は「あれ、あんまり好きじゃなかった?」と聞いて、次回の提案につなげることができることに似ています。
このように、リテールメディアは、購入の意思決定に必要な情報を必要としている人に対し、求められた粒度で、適切なタイミングに案内するという、本来目的に合致したメディアになるポテンシャルを秘めています。
友人のことを知り、配慮する心を持ち、距離感をわきまえ、さらに信頼される存在として認められることが、リテールメディアの目指す方向性ではないかと考えています。
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