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お財布分断の舞台裏:メーカー部門別の役割に応じたメディア選択

 こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。

 今回は、メーカーと流通小売の行動原理の違いに着目し、メーカー各部門の役割と業務目標の差異を確認してみます。その上で、1つのメーカー(広告主)が持つ広告や販促にかける予算の分割構造と、区分された予算(お財布)ごとに選択されるメディアについて詳しく探っていきたいと思います。


1.メーカーと小売の目標と行動原理の違い

 リテールメディアに投下される広告費や販促プロモーションについて会話がなされる際、「マーケ費用」、「流通対策費」、「デジタル予算」等、メーカーの予算が複数の表現、キーワードで語られることがあります。

 広告媒体や販促プロモーションに費用を投下する広告主の企業は1社ですが、企業の中に複数のお財布が存在するように聞こえてくるのは、日本のメーカー組織の役割が細分化されており、各組織ごとの業務目標や行動原理が異なることに起因していると考えています。

 ここでは、一般的なメーカーの組織を大ざっくりと捉え、比較するために流通小売側の視点を加味し、メーカー内でお財布が区分されている理由をみていきます。

(1)流通小売の行動原理

 食品スーパーやドラッグストアなどの流通小売は、チェーン全体やエリア、店舗毎の売上を上げることに主眼を置き、組織や取組みを最適化しており、極端なことを言えば、売上が上がるなら、どのメーカーの、どの商品が売れても良いと考えています。

 同一のカテゴリの中で「Aメーカー」、「Bメーカー」、「Cメーカー」と取引がある場合、どのメーカーの商品が売れても、結果として、カテゴリ内の売上目標を達成できれば良いため、フラットな状況では、どこかのメーカーに肩入れをするということはない、という行動原理が、流通小売に対する営業や商談、販促提案や各種支援が発生する背景にあると考えています。

(2)メーカーのブランド担当

 上記の流通小売と真逆の位置にいるのが、メーカーで各ブランドや商品毎のマーケティングを任された組織になります。

 メーカーのマーケティング部門やブランド担当はブランド軸や商品軸で物事を捉えているため、自社商品が売れているなら、それが、どこの小売で売れても良いと考えています。

 商流を考えると、メーカーから卸を経由し、流通小売へ商品が届けられるため、メーカーのブランド担当から見た場合、小売との帳合を持つ卸が自ブランドの商品を仕入れた時点で、小売店頭への配荷が確定した、といえるため、その先、どこの流通小売で売れているか、意識する必要がないとも言えます。

 最終的に、自分が取り扱うブランドや商品の販売目標を達成できるのであれば、そのチャネルを問わないのがメーカーのブランド担当です。

(3)メーカーの流通対策担当

 ここまでにご紹介した流通小売と、メーカーのマーケティング部門の中間に位置するのが、メーカーの流通対策組織になります。

 流通対策を行うメーカーの広域営業部門や営業企画は、広範な店舗展開を行う大手流通小売業の店舗において、自社が提供するブランドや商品がそのカテゴリ内でのリーダー的な地位を確立するため、様々な施策を提案し、実行するミッションを担っています

 具体的には、小売業の商品部やバイヤーに対し、取扱い量に応じたリベートの提示、各種販売応援、ポイントやクーポン、クローズドキャンペーン等、自社ブランド、商品の販売数向上のための各種提案を実施しています。

 このように、メーカーの流通対策組織は、自分が担当する流通小売において、自社のブランド、商品の販売を伸ばすことを目標としており、どこで売れるか、何が売れるか、その双方を意識して活動することが求められていると言えます。

2.お財布のありかにより選択されるメディアや手法が変わる

 ここでは、各組織の行動原理や業務目標に応じ、メーカー内でパテーションが切られているお財布の出どころによって選択される広告メディや販促手法について、見ていきたいと思います。

 上記の図表は、左右をリテールメディアのオンサイトとオフサイトに分割し、上下は販売チャネルの制約を表現しています。
 上半分はどこで売るかを意識していますが、下半分は、購買ファネルの前半工程にあたる認知や興味関心の喚起を目的としており、最終購買されるチャネルを問わないことを意味しています。

 メーカーが持つお財布を大きくマーケティング部門が支出する「マーケ費用」と、営業部門が持つ「流通対策費」に分割した場合、赤い線で囲った右上の象限のみ、個々の小売屋号に対して支出される「流通対策費」という位置づけになります。

(1)広告宣伝/デジタル

 メーカーの広告宣伝部門やデジタル広告の運用を担う組織が持つお財布です。従前のマスコミ4媒体への支出に加え、検索連動、ディスプレイ広告、動画広告、SNS広告等、インターネット広告への支出が含まれます。

 自社商品やブランドの認知や興味関心を喚起するために行われ、自社のブランドページやキャンペーンサイトへの誘導を図る広告であり、最終的に、自社商品がどこの販売チャネルで売れても良いという考えに基づいています。

 図表の左下に位置するリテールメディアが運営するオンサイトのディスプレイ広告は、広告主が利用するDSPと接続した1つの出面として位置付けられ、リテールが持つ1stPartryの会員データをセグメントに活用したオフサイトのDSP配信費用も、この部門のお財布から支出されていると考えられます。

(2)ブランド担当  

 広告宣伝部門やデジタル広告の運用を担う組織が持つお財布やブランド担当に支出裁量が認められている個別課題解決用の予算(広告または販促用途)です。

 Amazonや楽天等のEC上で自社のブランドや商品を販売している企業が対象であり、お客さまがクリックするとEC内の自社商品購入ページに遷移します。

 スポンサー広告は、基本的にCPC課金の運用型広告であり、広告主が代理店を介さず、セルフで広告を出稿できる機能を提供するメディアも存在するため、メーカー内で運用型のデジタル広告を担当する部門が取扱う広告です。

 このような広告費は、電通が発表している「2022年 日本の広告費」内では「物販系ECプラットフォーム広告費」として定義されており、前年比117%の伸びとなっているようです。

(3)営業企画

 営業部門の中の営業企画等、取引先の各流通屋号に対し割当てる支援費や販促費を持つ流通対策組織が持つお財布です。

 このお財布が使われている事例として、PayPayと花王のキャンペーンの仕組みが挙げられます。

 このキャンペーンは、対象店舗で花王商品を購入することがポイントバックの条件となっており、「どこで(販促対象屋号が決まっている)」と「何を(販促対象の商品)」が固定となっており、自社の取引先である複数の流通小売に、お客さまを送客し、さらに自社商品を拡販する、という流通対策組織のミッションと合致した取組みだと捉えることができます。

(4)屋号営業

 営業部門の中で、個々の屋号を担当する営業に割当られた支援費や販促費がお財布になるケースです。

 流通屋号を担当する営業が小売の商品部のバイヤーに対し、当該商品の拡販に向け、どのような取組みや支援を行うか提案し、最大効果が期待できる取組みの内容について協議した結果が施策に反映されます。

 例えば、販促施策として、商品購入時に付与する屋号ポイントの原資をメーカー側が用意できる、という提案とあわせ、近くのお店への誘導を図る告知手段として、店内での訴求に加え、オフサイトの動画広告を配信し、来店と商品の購入を同時に訴求するといった、共同販促の取組みが該当します。

 ここまで見てきた通り、メーカーが持つお財布は、メーカーと小売の行動原理の違いや、各組織部門の役割の違いを背景に区切られており、それぞれのパテーションの中にあるミッションや用途目的と合致したメディアや手法に対し、支出がされています。

 日本における、メーカーと卸、小売というサプライチェーン上に存在する独特な商習慣や、ここまでの経緯や歴史の中で形成されたエコシステムに最適化されたメーカー組織の存在をみると、今後もお財布の分断構造は継続すると考えられ、リテールメディアの収益化に取組む際の前提与件として理解する必要がありそうです。

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