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ファーブリ・ゾルタン『Sweet Anna』Hush...Hush, Sweet Anna

マック・カーロイ『Love』ですっかりトゥルーチク・マリお姉様のファンになってしまったので"ハンガリーの賞取り男"ことファーブリ・ゾルタンと組んだデビュー間もない頃の作品を観てみた。驚くなかれ、当時23歳。めちゃくちゃ可愛い。が、物語としては、若いメイドが徹底的に理不尽な虐めに合い遂に爆発する、もう一つの『ROMA/ローマ』のような作品だった。

舞台はハンガリー革命直後のブダペスト。クン・ベーラ率いる共産党政権側の人間が追い出され、ホルティ・ミクローシュ率いる右派が政権を奪取した頃、帝政時代の代議士だったVizy家に若いメイドのアンナが働き始めることになる。彼女は別の家のメイドとして働いていたのだが、彼女がVizy家で働くことになるまでのクロスカットは中々興味深い。共産主義者である名付け親が逮捕されないようにアンナを(生贄のごとく)連れてくるこの一連のシーンはコミカルで楽しい。ファーブリはヤンチョーよりも前の人なのだが、既にハンガリー的なロングショットがいくつか観られて嬉しかった。

代議士の妻アンゲラはアンナを文字通りこき使い、上流階級のお仲間に見せては馬鹿にして笑い話にしている。既に新人イビリを超えていると現代人の私なんかは思ってしまうが、時代柄そんなものなんだろうか。そこへ、見るからに女癖の悪そうな甥が帰ってくる。中々イケメンな甥に対してアンナも好意を寄せ始めるが、彼女が妊娠するとあっさり棄て去ってしまうあたり本領発揮といったところか。

堕胎させられたアンナは"以前からの知り合いバートリと結婚するから家を出ていく"と言うが、女主人は別のメイドを調教するのが面倒だから出ていくなと言い、名付け親は逮捕されたくないから家に残り続けろと怒鳴り散らす。例の甥にはそっけない態度で接され、バートリは既に別の女を見つけていて、昔働いていた家で親しかった少年はアンナのことを忘れ去っていた。

アンナはついに、何者でもなくなったのだ。

彼女の思いが爆発するのは必然と言えるだろう。労働者階級を顧みなかった上流階級に対する反抗なのだが、警察官もかかりつけ医も上流階級の人間なので"なぜ"これが起こったかイマイチ理解できていない。かといって見物人たちも"金のネックレス奪ったってマジ!?"とか"最初に来たときからいけ好かなかったわ"とか言って、自分とは遠い存在であることを認識しようとする。誰からも顧みられなかった存在、それがアンナだったのである。

しかし、よく考えてみると、この手の映画は多数存在している。そして、本作品の中では階級間の溝は埋まっていない。何も解決していないのだ。本作品を通してファーブリが何を伝えたかったのかはよく分からないが、薄味ないじめられっ子復讐ものに留まってしまったという印象。

・作品データ

原題:Édes Anna
上映時間:84分
監督:Fábri Zoltán
公開:1958年11月6日(ハンガリー)
※日本ではゾルタン・ファーブリと紹介されている

・評価:65点

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