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Zako Heskiya『Torrid Noon』ブルガリア、あの少年を助けるために…

カンヌ映画祭コンペ部門に選出された数少ないブルガリア映画の一つ。ある暑い夏の日、列車が来るとのアナウンスが入ったことで、ホームは人でごった返していた。しかし、待てど暮らせど電車は来ない。これから電車に乗る人、それを見送りに来た人、更には近くで演習予定の国軍兵士もいて、暑苦しさと苛立ちがピークに達した頃には、彼らも痺れを切らして駅長室に怒鳴り込んでくる。隣駅は出たらしく、その間で何かが起こったに違いないと悟った駅長は、その場にいた軍の責任者と共に線路を辿って列車を探しに出る。線路沿いの道路を急ぎ足の消防車が走り抜ける、将軍を乗せたヘリコプターが飛んでいるなど、列車に何が起こったのか不穏な空気を匂わせる出来事が連続するが、駅長たちの乗る乗り物は線路上を手動で移動するものなので、少々じれったいという中々面白い演出の後、停車していた列車には人っ子一人乗っていなかった。まるでゾンビ映画でも始まるんじゃないかというくらいオカルティックな緊張感がある。

物語は『バンテージ・ポイント』のように、ある一点に向けて登場人物を集結させる形で進んでいくため、視点人物を入れ替えながら列車を止めた出来事までの物語を描いていく。ヘリコプターで飛んでいた将軍の挿話では、見事な空撮ショットが登場する。また、事件の発端となった少年の挿話では、積み上がった作物の山の間を走り回り、放し飼いにされた牛と戯れ、小川で水を掛け合う姿が描かれ、その瑞々しさは同時代のチェコやポーランド映画にも匹敵する。少年たちの家族は総出で収穫に出ていたために、遊び場に関する管理が出来ずに少年の一人が橋の柱に手を挟んでしまったのだ。残りの二人が手分けして助けを呼びに行くシーンは音楽も台詞もなく、道には見渡すかぎり人間が一人も存在せず、独特な緊張感があって非常に良い。片方が両親たち農場で働く人々を、片方が列車の人々を助けに呼んだので現場は見世物小屋のようなカオスな状態になるが、一度関わってしまえば帰るわけにもいかないし、無事に助け出されるか気になってしまうので誰も離れない。

最終的に少年の挿話に駅長と将軍が合流するのだが、ここまでに登場した消防車やヘリコプターといった伏線からしっかり回収され、二次大戦中に多くの血が流されたというこの地で、軍人と民間人が増水する川を堰き止めるべく協力して行動を始める。少々プロパガンダっぽさはあるものの、人間の根源的な友愛精神を描いており、見知らぬ少年一人のために大人たちが団結する姿には希望が溢れている。

・作品データ

原題:Горещо пладне / Goreshto pladne
上映時間:89分
監督:Zako Heskiya
製作:1965年(ブルガリア)

・評価:80点

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