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ニコス・ニコライディス『モーニング・パトロール』海を目指して西へ進めば

終末世界をタルコフスキー的に描いた作品。それって『ストーカー』じゃん、と思った勘のいいガキの皆様、半分くらいは当たりです。廃墟と化したした街を一人旅する女の目的は、西にあるという海に行くこと。人はほぼ死に絶え、残った人々も僅かな資源を求めて殺し合っている中、"モーニング・パトロール"という謎の武装集団が徘徊する街を抜けるのは容易なことではない。セリフも音も極限まで減らされた異様な緊張感漂う世界で、女はここに至る断片的な記憶を掘り返しながら黙々と海を目指して前進し続ける。しかし、この不思議な世界観は、完全に荒廃していないという点で補強される。誰もいない映画館ではフィルムが回り続け、テレビからはモノクロ映画が流れ続け、街頭は雨に濡れた夜道を照らし続けている。記憶が欠けているからなのか、明らかに不自然な状況下でも女は平気で映画館で映画を観たり、テレビで映画を観たりしている(女が固定電話の受話器を取って映画内映画とリンクしていくのは面白い)。どこかズレた感じの設定から、人物たちは巨大な箱庭に詰められた人間を模した不完全な機械のようにも見えて、我々は彼ら/彼女らの必死の行動を外側から眺めているかのような感覚に陥る。映画が終わった瞬間すべての人物の記憶が消されて冒頭に戻ってきてしまうような、始点と終点のないひたすらな通過と移動の映画だからだ。

女は自分を殺しに来たパトロール隊の男を知り合い、彼を海への案内人として仲間に引き入れる。男もまた記憶が欠けていて、自分がなぜここにいるのか、何を目指しているのか、何者なのか、なぜそんな状態なのか、全く把握できないまま緩やかに死に向かっており、女との共通点は多い。そして、男女はモーニング・パトロールの追手を一人ずつ躱しながら、海へ向かって進んでいく。こうなるとステスルゲームから逃避行に変わってしまうので全く別の映画になるんだが、不思議と前半のリズムは保っているのが興味深い。冒頭で"半分くらいは当たり"と言ったのはこういうこと。

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・作品データ

原題:Πρωινή Περίπολος / Morning Patrol
上映時間:105分
監督:Nikos Nikolaidis
製作:1987年(ギリシャ)

・評価:80点

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