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ラウラ・チタレラ『Ostende』閑散期のリゾートで"裏窓"を垣間見る

日本で一番紹介されているマティアス・ピニェイロや15時間の『La Flor』で悪名高いマリアーノ・シニャスに代表されるアルゼンチンの新世代の一人、ラウラ・チタレラ(Laura Citarella)の代表作。主演はピニェイロ作品の常連で上記『La Flor』にも主演で登場したラウラ・パレデスで、プロデューサーとしてシニャスが参加している。クイズ番組で四日間のペア旅行券をゲットした若い女性が、ブエノスアイレス近郊にある海辺のリゾート地オステンデのホテルへやって来る。恋人はあとから来るらしく、一人でロビーに到着した彼女は、閑散期で人気のないホテルをビーチを彷徨い歩く。誰もいないビーチは遮るものがなく、意気揚々と椅子を持って浜辺に降り立った彼女は、脱いだ服を着直して、上からパーカーまで着て、遂には撤退する。ホテルのプールで本を読み、ハンバーガーを頬張り、寝るという退屈な日常に、不可思議な非日常が混ざり込む。娘ほどの年齢の若い女性を二人も抱えているような謎のエロ親父の存在だ。彼は主人公の隣室で壁越しに聴こえるほどの奇妙な会話を残し、プールサイドで片方の女性に暴力を振るっているようにも見え(ピンぼけしていて分からない)、モールス信号にも見えるほど電灯を付けたり消したりするなど理解し難い行動が多く見られる。そこには触れてはいけない異空間が存在しているのか、それともただの思い過ごしなのか。奇妙な『裏窓』は骨格だけを残したままフワフワと流されていく。

雰囲気や見せる/見せないという画面の処理はとても良いのだが、基本的に会話で済ませようとする感じはあまり好きになれない。『La Flor』も同じことを思った気がする。また、『裏窓』っぽい映画を観る度にエロイ・デ・ラ・イグレシア『Glass Ceiling』の偉大さを思い知らされる。正直、『裏窓』を不条理劇にするならあのラストは蛇足で、主人公カップルが去った後のパンで終わらせるべきだったと思う。

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・作品データ

原題:Ostende
上映時間:85分
監督:Laura Citarella
製作:2011年(アルゼンチン)

・評価:80点

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