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ペレ・ポルタベラ『Nocturne 29』初期ブニュエル的前衛世界へようこそ

ポルタベラ初の長編作品。1959年に設立した自身の映画製作会社"フィルム59"はその年にカルロス・サウラ『The Delinquents』、マルコ・フェレーリ『The Wheelchair』を製作、前者がカンヌ映画祭で上映されたのをきっかけに会場でルイス・ブニュエルと出会ったポルタベラは彼をスペインへ招いて『ビリディアナ』を製作した、というのは有名な話らしい。その後もプロデューサーや脚本家として映画に関わりつつ、前年に製作した短編『Don't Count On Your Fingers』に続く初長編が本作品である。前作同様、共同脚本家は詩人のフアン・ブロッサ。本作品はバルセロナ・アヴァンギャルドに多大なる影響を与えた一本としても知られている。

本作品は中流階級のある夫婦の退屈な日常生活を、ほぼセリフ無しの生活音のみで描写しており、その中にアヴァンギャルドな映像や行動を挟む構造をしている。冒頭、荒野を歩く男女が艶かしく足裏に刺さった棘を抜くシーンはルイス・ブニュエル『黄金時代』を、軍事パレードを垂れ流すテレビを観ながら目玉を取り外すシーンや呼び鈴と乳首を同化させるシーンは同じくブニュエル『アンダルシアの犬』をあからさまに彷彿とさせる他、全体の耽美的で寡黙な雰囲気からの厳かな会話には精神映画ばっか撮ってた頃のベルイマンみたいな感じもある。ルチア・ボゼー演じる妻が廃工場で歯車の付いたゴツい機械の雄々しい動きに妙な官能性を感じるのは、彼女の世界にいない"労働者たち"を妄想しているからなんだろうか。そんな感じで全編に渡って示唆的な映像が並んでいるが、いまいち荒唐無稽さという点で突き抜けないのが残念。

仕立て屋の男が客好みの布を広げるように国旗を広げまくるシーンが印象的。でも、ブニュエルの変態性を模倣するのはカルロス・サウラの方が上手いのでは。

・作品データ

原題:Nocturno 29
上映時間:86分
監督:Pere Portabella
公開:1969年7月1日(スペイン)

・評価:60点

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