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パヴェウ・パヴリコフスキ『Last Resort』最後の手段は最後の"楽園"

パヴリコフスキの経歴は非常に興味深い。医者の父親とバレエダンサー(後にワルシャワ大学の英文学教授)の母親のもと、ワルシャワに産まれた彼は、14歳のときに母親とともにロンドンに渡る。休暇かと思われたこの渡航は、実は永久追放だったらしい。ドイツに移動した後、1977年にイギリスに定住する。彼はオックスフォード大学で文学と哲学を専攻し卒業した。

彼の経歴はイギリスで始まったのだ。80年代後半から90年代にかけてドキュメンタリー作家として頭角を現し、1998年『The Stringer』で長編劇映画デビューを果たす。続く長編劇映画二作目が本作品である(2001年)。

英国人婚約者のマークを追って息子アルティオムと共にイギリスまでやって来たターニャ。しかし、空港にマークの姿はなく、強制送還されそうになった親子はアジール権(Political Asylum)を発動する。

このアジール権というの、よくわからないんだけど"俗世界の法規範とは無縁の場所、不可侵の場所"ということらしい。駆け込み寺に行く権利というところか。親子はバスで"駆け込み寺"となっている廃遊園地に連れて行かれる。そこに建っているボロいアパートが当面の生活場所なのだ。

なんという激烈な皮肉だろうか。題名の"Last Resort (最後の楽園)"というのはアジール権行使後の調査開始に最短で1年から1年半かかり、申請取り消しにも半年から1年かかるという、足止め地獄=楽園という強烈な皮肉なのだ。

隔離地域に暮らす子供たちや区域内のアーケードの店主アルフィと仲良くなって色々なものを手に入れて楽しく過ごそうとするアルティオムに対して、稼ぐために隔離地域の店を回り、アダルト配信にまで手を出さざるを得なくなる状況になる。ここにターニャとアルフィのロマンスが加わり、苦境を忘れて楽しむ束の間の淡い時間が進んでいく。

パヴリコフスキというよりかケン・ローチである。しかし、ショットの独特の浮遊感は既にパヴリコフスキらしさがあり、ある種魔術的な美しさがある。特にビンゴゲームの会場のシーンの異世界感が非常に優れている。

これまで暮らした世界の象徴として登場したターニャの絵をアルフィに託して、親子はロンドンへ抜け出した。続くシークエンスは反則的に素晴らしい。最後の楽園は楽園ではなかった。しかし、現実世界もそう変わらない。光に迎えられた親子の未来も明るいとは限らないんだろう。

皮肉を通り越して、パヴリコフスキが伝えたかったのは、遠い国で阻害され続ける移民たちの現状であり、ロマンスタッチに寓話的に描くことで世界を優しく諭しているのである。

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・作品データ

原題:Last Resort
上映時間:73分
監督:Paweł Pawlikowski
公開:2001年3月16日(イギリス)

・評価:88点

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