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Moustapha Alassane『Toula, or the Water Spirit』ニジェール、湖の精霊を巡る現代の神話

傑作。ブラックアフリカ・アニメーションの父と呼ばれる Moustapha Alassane によるニジェール映画史に残る作品。半世紀ぶりの大干ばつによって農村部の大地は無慈悲な陽光によって焼き尽くされ、木々も作物も家畜も全てがいなくなった。厳かなナレーションの裏で干からびた牛などの衝撃的な映像が並べられていく。これはヤランブリ湖の精霊が、自然に感謝しない人間にブチギレた結果らしく、精霊は生贄として村で一番の美女で為政者=王の姪トゥーラを要求する。村の偉い衆は村のために彼女を差し出すか否かというハードコアなマイケル・サンデル的問題を懸命に考える。興味深いのは、やはりその色彩感覚だろう。文字通りの黄土色の大地を前に、人々は真っ青な服や真っ赤な帽子などを身に付けて、顔には白い点や黒い線などで装飾している。その鮮やかさと色味の豊かさはそんなに画質の良くない画面からも伝わってくる。

トゥーラの生贄阻止のために動く地元の青年アドゥの佇まいは、姫を助ける騎士のようでありながら、砂漠を背景にラクダを乗り回す西部劇のようでもある。というのは同監督による1966年の中編『Return of an Adventurer』という傑作を思い出すからだ。水を探しに旅に出たアドゥ青年と村で最後の儀式を行うトゥーラの姿が重なり合い、アドゥが水を発見したと同時に村に雨が降り出す無情さというか神話的な厭らしさがしっかりクロスカットで表現されていて、その後生贄になる描写も漫画的で中々面白い。フォークロアのような劇伴もシビアな現実と絶妙にマッチしない代わりに、荒唐無稽な物語を神話のような高みまで昇華させることに成功している。

・作品データ

原題:Toula ou Le génie des eaux
上映時間:73分
監督:Moustapha Alassane
製作:1973年(ニジェール, ドイツ)

・評価:80点

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