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ペドロ・アルモドバル『ヒューマン・ボイス』あなたの声が聴こえない

自身の『8 1/2』みたいな作品『ペイン・アンド・グローリー』を撮った次に初の英語作品を撮るのは至極真っ当な選択のように思える。ジャン・コクトーの戯曲を翻案したらしい本作品は、ホームセンターで小振りな斧を買うティルダ・スウィントンの姿で幕を開ける。彼女がそれを何に使うのかは明かされないが、例によって例のごとくアルモドバル的な色彩の部屋に帰ってきてから、来るはずだったのに来なかった元恋人のスーツをベッドに並べて怒りを爆発させるために使用している。その後、自殺を図るも元恋人からの電話に叩き起こされ、彼との会話の中に様々な感情をつのらせていく。興味深いのは部屋だと思ったのもはセットであり、俯瞰的に上から覗くショットや部屋のセットから外に出て剥き出しの空倉庫空間に侵入することもしばしば起こることだろう。本編の9割がスウィントンによる一人芝居であることを考えると、本作品はコロナ禍における孤独ともリンクしていることが伺えるが、自宅に縛り付けられる生活を繰り返していって、どこか部屋の外の現実世界から切り離された感覚に陥るのと重ねられているのかもしれない。

映画の9割は、Bluetoothのイヤホン越しに元恋人に声を掛けるティルダ・スウィントンに注目している。相手の声は聞こえず、会話が一方通行であることは、彼女の孤独を我々も感じられる設定の一つと言えるだろう。狂気と憂鬱と哀愁の漂う"モノローグ"はスウィントンの見事な演技によって、映画を印象的なものにしていると思うが、そこまでアルモドバルという感じもしない。長編になって登場人物も増えたらその色が濃くなるんだろうか、という希望(?)も残しつつ、呆気なく終わってしまうのがちと残念。長編にしても大した映画にはならない気もするが。

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・作品データ

原題:The Human Voice
上映時間:30分
監督:Pedro Almodóvar
製作:2020年(スペイン)

・評価:60点

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