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ディアオ・イーナン『Uniform』制服が表す5つのペルソナ

中国の古都・西安を含む中国内陸の陝西省は監督ディアオ・イーナンの出身地であり、本作品の舞台でもある。クリーニング屋兼仕立て屋の男が、引き取り手のない警察の制服を着て暴れまくるという『小さな独裁者』のような作品かと思いきや、開始1分で制服を手に入れその5分後には着てしまう割りに、その力を使役するのはかなり後のことになる。俳優や脚本家として活動していたディアオ・イーナンの長編デビュー作であり、監督デビュー作。冒頭にある通り、釜山国際映画祭と東京国際映画祭の資金援助を受けて完成したらしいが、結局どちらの映画祭でも上映はされず、世界的な公開には至らなかったようだ。

主軸は後の『薄氷の殺人』などにも継承される複雑な恋愛であり、男は制服を着てないと不良にナメられ、馴染みのタバコ店で女性店員の名前を聞くと気持ち悪がられるような優男だ。普段から言葉を発しない男は、制服を着ると少しずつ大胆になっていく。そして、男はレンタルCDショップの店員を口説いてデートに漕ぎ着ける。しかし、これが警察の制服だったから発生した話ではないので、実際には"いつもの自分とは違うから"彼女に話しかけられたと捉えるほうが正しい。彼女が返してくれたのがどちらのおかげかは一目瞭然だが。入院することになった父親のため、男は昼間から制服を着て街に立ち、交通違反の罰金として入院費を稼ごうとする。ここで奇妙なのは、女の前にいる"優しい"警察官と、罰金をせびる"悪い"警察官が一つの人物として登場する点で、しかも彼は警察官ではないのだ。普段の男と制服に権力まで身にまとった男の橋渡しをする"制服を着ただけの男"の存在が、離散的に乖離した二面性を連続的に繋ぎとめているのかもしれない。

そして、制服とはつまり同じ服を着ているということで、その裏返しのように普段の男も同じ服を着ている。そして、男には秘密でコールガールとして働いている女もまた、仕事中は同じ服を着ており、それがある種の制服として機能している。ここで、漸く登場人物が揃う。クリーニング屋の男、警察の制服を着た男、警察の制服を着て職権を乱用する男、レンタルCDショップで働く女、コールガールとして働く女。この5つのペルソナは全て同じ服を着続けており、制服そのものがペルソナを象徴しているのだ。

最も象徴的なシーンは、警察ではないことを知らされた女が、男とのデートで別れた後、暗闇に立つ彼女の顔を車のヘッドライトが二度舐めるように掠めるシーンだ。この頃から光の使い方に秀でていたのも確かだが、このシーンから女も主役に格上げされたことを考えると、闇に埋もれていた彼女を表に引きずり出したかのようで興味深い。美しいシーンだ。

・作品データ

原題:Zhifu
上映時間:94分
監督:Diao Yi'nan
公開:2003年 (中国)

・評価:64点

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